幕間 オスワルドの悲喜交々な一日
一つの区切りである10万文字を越えました!
記念に幕間第2弾です。
個人的に結構、好きなオスワルドに焦点を当ててます。
オスワルドは魔物と対峙していた。
だが、膝をつき戦う力は残されていないように見える。
魔物はニヤッと笑ったかと思うと、斧を振り上げオスワルドの首を…
「マミさあああああああああんっ!」
ガバッとタルトは跳ね起きた。
「おはようございマス、タルト様。
うなされてましたが、大丈夫デスカ?」
「えっ、あ、おはよう、シトリーさん。
変な夢を見ちゃって…」
「それでマミとは、どなたデスカ?」
「えっと、マミった夢をちょっと…。
何か嫌な予感がするなー」
オスワルドの朝は早い。
早く起きて自主トレを欠かさず行っている。
その後に朝食をしながら、執事からその日の予定や目安箱の報告を受ける。
緊急事案がなければ、指示をだし、兵の鍛練や事務処理などを行っているのだ。
タルトと出会う前は別人のような生活をしている。
両親は人柄も良くオスワルドを大層可愛がった。
おかげで甘えて育てられた為、自己中な性格になっていった。
それでも、両親は怒らず好きなようにさせていた。
両親がいるうちは良かったが、父親が病死し後を追うように悲嘆に暮れた母も死んだ。
領主を継いでからは、枷が外れたかのように放蕩の生活を送るようになったのだ。
酒に溺れ、女遊びを覚え、自堕落な生活を送っていた。
何をしても満たされず、胸にぽっかりと穴が空いてるようであった。
それがあの日、聖女に導かれて改心したのだ。
あの美しい金色の髪。
純白で神々しい装い。
透き通るような白い肌。
愛くるしい笑顔。
快感に感じるステッキの一撃?
初めて誰かに真剣に怒って貰った。
今までの世界を壊して、迷いから目を覚ましてくれた存在。
そんなタルトの為に役に立ちたいと心から思った。
男として功績を残すことが出来たら気持ちを伝えたいと思っている。
その日も書斎で大量の書類と向き合っていた。
村人からの陳情書や承認する事案の提案書など多岐に渡る。
タルトが色々と実験で始めてる事もあり、毎日処理をしても終わらなかった。
そろそろ秘書を雇いたいと思っていた。
挫けそうな時は自室にあるタルトの肖像画やフィギュアを見て元気を出すのだった。
ちなみに、タルトグッズの製作にも携わりクオリティには非常に拘っていた。
そろそろ少し休憩をしようと思ったときに、警備兵が緊急の事案として部屋に飛び込んできた。
「何があったのだ?」
「斥候によるとゴブリンの大群がここに向かってるとの事です!」
「何だとっ!数は分かるか?」
「およそ200…」
「200匹のゴブリンか…。
それだけいると率いている上位種がいるな。
我が軍ですぐに出撃可能なのは?」
「およそ50名です。
既に出撃準備を指示しております」
「そうか、では、町に被害を出さぬよう場外で迎え撃つ。
ゴブリンが200匹なら50名の兵士で対応可能だろう。
急ぎ、聖女様への伝令を飛ばせ!」
「はっ、直ちに!」
オスワルドも出撃準備として鎧と剣を装着する。
直ぐに広場に行き部下の指揮を執り始めた。
「良いかっ!
一人でゴブリン4匹を倒す楽な仕事だ。
ノルン様に指導された事を思い出せ!
訓練通りやれば問題はない。
負けるようなヤツはサボッテルンの針地獄だと思え!」
兵士の士気は高い。
前までのガリガリだったオスワルドではなく、日々一緒に鍛練し誰よりも努力をしているのを誰もが知ってる。
今では誰よりも強く先頭で戦う姿勢は憧れでもあった。
「敵はすぐそこまで迫っている。
町には家族がいる者も多いだろう。
私にとっては全てが守るべきものだ。
町には一匹も立ち入らせてはならん。
我が精鋭なら出来ると信じている。
では、出撃だっ、行くぞー!!!」
「「「「「オオオオオオオオオオォ!!!」」」」」
オスワルドが先頭で町の外にある草原まで進み全隊を停止させた。
荘厳の外れにある森からゴブリン達が見える。
「ここが絶対防衛ラインだ!
ここを絶対に抜かれるな!
森までは追わなくていい。
伏兵が隠されているかもしれん」
草原でオスワルド達が待機していると、森から多数のゴブリンが現れた。
ゴブリンは人間より小さく革製の防具と石斧やボロボロの剣を装備している。
知恵も低く、鍛えられたハンターや兵士であれば余裕で勝てる相手だ。
今回のように4倍の数であっても十分な勝機があった。
一斉にゴブリン達が突っ込んできた。
オスワルドは兵の割り振りを行い、自らも数が多い場所に斬り込んで行った。
大規模な乱戦となったが兵士達は落ち着いて応戦し、次々とゴブリンを討ち取っていく。
通常の兵士であれば、これだけの兵力差があれば苦戦し負傷者も出ただろう。
だが、厳しい天使の指導を受けたここの兵士に取っては楽勝で軽傷を受けただけだった。
あっという間に200匹のゴブリンは討伐された。
「まだ油断するんじゃない!
これだけの群れだ、統制している上位個体がいるはずだ!」
楽勝で浮かれている兵士をオスワルドが引き締める。
その時、森から10体の巨体が現れた。
「ゴブリンロードが10体だとっ!?
ちっ、5名で1体ずつ当たるのだ!
決して無理せず時間を稼げ。
直ぐに聖女様達が駆けつけてくれるはずだ!」
ゴブリンロードと兵士達の戦いが始まった。
オスワルドは押されている場所があれば援軍に行こうかと思っていた。
だが、森から更に巨体なゴブリンが現れた事で諦めざるを得なかった。
「ゴブリンキングだと…。
見たものはほとんどいない希少種だぞ…」
基本的に群れを統率しているのは、ゴブリンロードである。
それが10体も現れるのも異常だが、キングが現れるなど予想もしていなかった。
その強さも未知数だ。
既に兵士はロードで手一杯なので、キングの相手をオスワルド単騎で当たるしかなかった。
「相手にとって不足はない。
行くぞ、ゴブリンキングよっ!」
オスワルドは全力で斬りかかったが、あっさり受け止められ、振り払われた。
今度はゴブリンキングから仕掛けてきた。
その巨体から信じられないくらい素早い攻撃をしてくる。
受け止めるのは危険と判断し、全てが躱していたが、その速度に押され限界を感じていた。
ギリギリで避けたが、その後の2撃目を体勢が悪く剣で受け止めざるを得なかった。
剣で受けたにも関わらず、その衝撃で数メートル後ろに吹き飛ばされた。
「かはっ、恐るべき力だ…。」
その硬直をゴブリンキングは見逃さなかった。
一気に間合いを詰め、思い切り斧を振り下ろした。
オスワルドは辛うじて、剣で受け止めたが上部からの攻撃で衝撃が逃げず、全身を走り抜けた。
「くっ、私はこんなところで負ける訳には…」
「グ、ガ、オ前デハ…勝テナイ」
「このゴブリンは話すことも出来るのかっ!?」
オスワルドは立ち上がろうとするが、体に力が入らなかった。
ゴブリンキングは斧を振り上げ、オスワルドに狙いを定める。
無情にもその斧は振り下ろされた。
ヒュンッ… ガキィイイイン
オスワルドは見上げると、そこには一人の少女が立っており、ゴブリンキングの一撃を受け止めていた。
その金色の髪と純白の服、透き通るような白い肌は見間違えるはずもない。
「お待たせしましたっ!
オスワルドさん、良く頑張りましたね」
「聖女様…」
オスワルドの目に熱いものを感じた。
嬉しさよりも不甲斐なさであった。
タルトを守れるように、日々、体を鍛えたのに。
タルトはゴブリンキングの斧を力で押し返した。
周りのゴブリンロードに対しても、シトリーやリリス、桜華、琉が対応している。
カルンは伏兵に備え、町にリーシャと待機していた。
「さて、こっちも終わらせますか!
オスワルドさんは下がって治療を受けて下さい」
「お待ちください、聖女様!
ゴブリンキングは私が倒させてくださいっ!」
「オスワルドさん…。
普通の人間一人で勝てる相手ではありません。
どうして、そこまでするんですか?」
「私は心も体も弱かった…。
あの日から努力を重ねて来ました。
聖女様に守られるのではなく、背中を任せて頂けるよう成長した私を見て欲しいのですっ!」
「…分かりました。
簡単にですが、治療魔法です。
危なくなったら直ぐに助けますからね!
信じてますよ、オスワルドさんを」
「感謝致します。
ご期待に答えて見せます!」
ゴブリンキングは二人のやり取りの時、動く事が出来なかった。
新たに現れた少女の威圧感に本能的に悟ってしまった。
勝てないと。
だが、キングのプライドに賭けて逃亡など出来ず、動けないでいたのだった。
それが何故かその少女ではなく、さっきの騎士が再び剣を構えた。
これは弱い方を確実に仕留める好機であった。
ゴブリンキングは斧を構え直す。
(これ以上、聖女様に恥ずかしい姿は見せられない。
速効の治療魔法で体は動くようになったが、長期戦では不利だ。
体力も相手が上だし、一撃でも喰らえば終わりだろう。
初手の一撃必殺で勝たなければ…)
オスワルドは今までの鍛練を思い出す。
(そうだ、呼吸法だ。
聖女様のお話では呼吸法でエネルギーを作り出し、体に巡らせるのだ。
そのエネルギーを剣にのせて、強力な一撃に…)
「スー、ハー、スー、ハー。
コオオォォォ…」
(感じる、魔力が巡るのを。
腕と足に集中させ、力と速さを得るのだ。
そして、呪文を唱える!)
「ふるえるぞ我がパッション!
燃え尽きるほどヒート!
灼熱疾走!!」
オスワルドの属性は火だ。
全身を巡った魔力は剣にも伝わり、刀身は炎を帯びていた。
呪文と同時に、身体強化によって人の域を越えた速度で一閃する。
次の瞬間、ゴブリンキングの首筋から血飛沫が上がる。
「凄いですよ!!
魔力での身体強化が出来るようになったんですね!」
以前にオスワルドにしつこく教えを乞われて、身体強化の方法を教えたのだった。
ネタで波紋の呼吸法と併せて…。
人間で魔力での身体強化が出来るものは少ない。
それほど、難しい技術であった。
「はあ、はあ、はあ。
いえ練習では成功したことがありませんでした。
命を賭した戦いでの研ぎ澄まされた集中力と、教えて頂いた呼吸法のお陰です」
「そ、そうなんですか…。
いやーオスワルドさんなら出来ると信じてましたよ!」
今さらネタだったとは言えなかった。
「私はゴブリンキングを倒したんですね…」
「はい、お見事でしたよ。
たった一人で倒すなんて凄いですね!」
オスワルドの目に熱いものが感じる。
今度は感激の涙だった。
「聖女様あああああ!
私はやりましたよっ!」
喜びで胸がいっぱいになり、タルトの方へ走り出した。
だが、涙で前が見えず疲労で足がもつれた。
タルトの手前で石に躓き、タルトを巻き込んで派手に転んだ。
「いててて…。
オスワルドさん、気を付けて下さいよ…」
「すいません…聖女様…。
足に力が入らず、って、これはっ!?」
二人とも倒れた弾みでオスワルドからタルトのスカートの中が丸見えの位置だった。
「これは夢にまで見た聖女様の…」
「わあああああああああっ!?
何見てるんですかっ!!」
タルトは急いでスカートを押さえた。
「もう我が生涯に一片の悔いもありません…」
オスワルドは感無量だった。
だが、その背後にはタルトがステッキを振りかぶっている。
「忘れろおおおおおっ!!」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ…
そこにゴブリンロードを倒した仲間も集まってきた。
「おい、タルト…。
それ以上、やるとそいつ死ぬぞ…」
「やっぱ、タルト姉は怖エエ…」
オスワルドの顔はステッキで殴られながらも、幸せそうだったらしい。
こうしてオスワルドの長い一日は終わったのだった。




