29話 鬼
二人が対峙したのと同時にシトリーとノルンが駆けつけた。
「タルト様、大丈夫デスカ?」
「町で騒ぎを聞いて急いで来たのだが、何が起きてるのだ?
リリスとカルンは念のため、町で待機させておいたぞ」
「戦いの余波で町に被害が出ないようにここに来たばかりなんです。
どうも狙いは私だけのようですから、町は大丈夫だと思いますよ」
三人のやりとりを面白そうに桜華は眺めていた。
「悪魔と天使が一緒に仲良く話をするなんざ、面白れぇもんをみたぜ!」
「ここは種族なんて関係ないんです。
仲良く平和に暮らしていくのを目指してるんです」
「そうか…。
やる気を出させる為にひとつ賭けをしようじゃないか!
負けた方は勝った方の配下になるのでどうだ?」
「…いいでしょう。
負けたらちゃんと約束を守って下さいね」
「はっはっはっ!勝つ気でいやがる。
安心しろ、女に二言はない。
一族の誇りに誓おうじゃねえか」
「タルト殿、相手は鬼族のようだ。
彼らは誇り高い武芸の一族で信用に値するだろう。
闇の眷属にしておくには勿体無いほどだ」
「鬼ですか?
確かに頭に角っぽいのが見えますが」
「人間に似てますが、能力は高いのでお気をつけクダサイ。
鬼の種族にはゴブリンからオーガ、サイクロプスなど色々とイマスガ、それを束ねてるのがヤツの一族デスワ」
「そんなに種類がいるんだねー。
特殊な能力とかあるの?」
「鬼族は魔法が使えない代わりに術と言うモノを使うソウデス。
攻撃ではなく身体強化や補助的な役割と聞きマシタワ」
「流石、同じ闇の眷属だなっ!
鬼の事をよく知ってやがる。
まあ、隠すつもり何てないがな。
魔法なんて使えなくても力と技があれば十分だっ!」
タルトは桜華の豪快な性格に好感を抱いた。
「ふふふっ、貴方は真っ直ぐな人ですね!
私も自己紹介しますね。
名前はタルトと言いまして魔法少女です。
魔法少女というぐらいですから、魔法が得意です。
色んな属性が使えますが、接近戦は苦手ですね」
「タルト殿、一体何をっ!?
馬鹿正直に何を教えてるんだ!」
「…あっはっはっはっ!!
面白いなお前は、気に入ったぜ!
うちは接近戦が得意で必殺技を3つ持ってるぜ!」
「姉上までっ!?」
「「ふふふっ、ははははははっ」」
タルトと桜華は二人で笑いだした。
「絶対に勝って仲間になってもらいますからね!」
「うちが勝って配下にしてやるぜ!」
桜華は背中に担いでいた刀を抜いた。
見た目は日本刀だが、長さが普通の倍くらいはありそうだ。
タルトも変身しステッキを構えた。
「なんだそのちんちくりんな格好と武器は?
…痴女か?」
「ち・が・い・ま・すっ!!
好きでこんな格好をしてるんじゃないですっ!」
「まあいい、強いか強くないかのどっちかしかねえからな。
楽しませてくれよっ!」
「まったく…。
では、行きますよっ!」
「来いっ!!!」
タルトはステッキに魔力を込める。
桜華は刀を構えたまま、真っ直ぐに突進してくる。
(遠距離の魔法を迎撃する気なのかな?
まずは様子見で手の内を晒して貰わないと)
「マジックバレットッ!!」
魔法弾が連続で3つ放たれ、桜華目掛けて飛んでいく。
桜華は速度を落とさず横に薙ぎ払い魔法弾を一閃で切り伏せた。
「えっ!?
魔法を剣で切った!?」
ガキイィィィィィン
一気に間合いを詰めた桜華の剣先がタルトに迫る。
魔法を切られた事に驚いたタルトは避ける事が出来ず、ステッキで受け止めた。
「まだ、準備運動だぜ。
すぐにやられないでくれよ!」
桜華は長い刀を自由自在に操り、連撃を繰り出してくる。
タルトは勢いに押され防戦一辺倒となっていた。
(つ、強いっ。
あんなに長いのに速いし、一撃一撃が重い!)
「いいね、いいねえっ!
噂通り強いじゃんっ!
本気でいくぜ、壱の太刀 春霞!!」
桜華の刀が頭上から凄い速さで振り下ろされる。
刀身が揺らいだと思ったら複数に分裂した。
(増えたっ!?魔力感知全開!!
…これが本物だ!)
タルトは紙一重で切っ先を躱したが、スカートに切れ目が入った。
「やるねぇ、春霞を躱されるとはねえ。
素人ならなにも分からずにあの世だが、玄人でも本物の刀身を見極められず袈裟斬りにされるんだがな」
「今のは危なかったです…。
少しでも判断が遅れたら死んでたと思います」
(ウルッ、身体強化最大限!
この人は本当に強いから手加減してる場合じゃない)
『了解です、マスター!
魔力感知も常に範囲を狭め精度をあげています』
(ありがとう、もう一戦いくよっ!!)
今度はタルトから仕掛けた。
身体強化を上げた事により桜華より力と速さが能力値が高いが、技術が圧倒的に桜華の方が高く互角となっていた。
激しい刀とステッキの応戦が続く。
「あそこから更に速く重くなるなんて想像以上だっ!
剣技は素人なのにうちと互角に戦えるなんてなあっ!」
「貴方も本当に強いです!
一瞬でも気を抜いたら直ぐに切られそうです!」
「楽しいねえっ!
技と力をぶつけ合って命の殺り取りはさっ!!」
タルトも少しだけだが初めて戦いで楽しいと感じていた。
殺し合いは嫌いだが、持てる力と技を競いあっているこの瞬間が楽しかったのだ。
そのせいか最初に使ったっきり魔法を使っていない。
お互いに攻撃を繰り出しながら、相手の攻撃を受け流したり躱したりとミスや隙を伺っていた。
「ダラダラするのは好きじゃないんで決めさせて貰うよ!
弐の太刀 紫電!!」
次の瞬間、三本の剣閃がタルトを襲う。
紫電とは腕の強化と神経に強力な電気信号を送り、一瞬の内に三回の攻撃を繰り出すのだ。
春霞のように幻ではなく全てが本物であり、同時攻撃を全て躱すのは不可能であった。
(捌ききれないっ!)
タルトは一撃目は打ち流したが、残り二撃を躱しきれず左肩と右の腿に受けてしまった。
「痛っ!!!」
「タルト様ッ!」「タルト殿っ!」
「決まったな。
殺すには惜しいから降参しないか?
この技でも死なないなんて、お前強いぜ。
その傷では死にはしないが、戦いは続けられまい」
「…心配ありがとうございます。
本当は痛くて怖くて逃げ出したい気分です…。
でも、こんな私を信じてくれる人がいるので負けられないんです!」
「…そうか、だが手は抜かないぜ!」
桜華は再び構えを取った。
タルトは深呼吸を一つすると全身から力を抜き棒立ちとなった。
「なんだぁ?恐怖で頭が可笑しくなったか?」
「私の技術では勝てないようです。
ですので、本気を出させて貰います!」
「??
今までは本気じゃなかったってか?
面白れぇ、その本気とやら見せて貰おうかっ!!」
二人の戦いも佳境を迎えていた。




