外伝その2 光の先は異世界でした⑩
他の戦場では仲間達が善戦しているなか、タルトも遂に目的の建物へと到着した。
周囲にいた警備のターミネーターはタルトがあっさりと破壊している。
ヘリが降り立つなり、必要なカバンを抱え、ウェンディは入口へと急ぐ。
だが、上空から見た通り全て分厚い金属が覆われており、建物に侵入するのは不可能に思われた。
ウェンディはその壁の前に座り込み、涙を流す。
まさか、基地への総攻撃をあっさりと撃退してるとは夢にも思っておらず、自分の失敗によって、全員の命が消えていくと考えていたからだ。
「ここまで来て、こんな結果になるなんて…。
みんな…ごめんなさい…」
そんなウェンディのもとへ敵を片付けてきたタルトが合流した。
「ここが入口ですかー?
これはキレイに塞がれちゃってますねー」
「これでは作戦は失敗です…。
この壁を破壊する術は無いんです…」
「ふむふむ。
これなら…」
落ち込むウェンディをよそに金属の壁を撫でながらブツブツと呟くタルト。
すると、金属が意思を持つように変形を始め、ぽっかりと人が通れるくらいの穴が一瞬で出来上がった。
「嘘っ!?
一体、何をしたんですか?」
「えっと…簡単に言うと分解して形を変えてみた感じですかねー」
「分解って…まさか、分子レベルで操作することが出きるのですか!?」
「まあ、そんな感じですねー。
さあ、いきましょー!」
驚くウェンディにさも当たり前のように説明するタルト。
だが、すぐに気を取り直してカバンを持ってタルトを追いかけていく。
そして、防弾ガラスで作られたドアはあっさりとタルトに破壊されていた。
遂に建物へと侵入が成功したのである。
「さあ、地下へと急ぎましょう。
あっ、危ないっ!!」
入った瞬間、動くモノに反応し、自動迎撃する機関銃の一斉掃射を受けたのだ。
すぐに気付いたウェンディだが、人間の反応速度では伏せるのが精一杯であった。
だが、物凄い音はするが一向に痛みを感じないことが、不思議と思いゆっくりと頭を上げ目を開けてみる。
「これは…」
すると、周囲に円形の光の壁が銃弾を防いでいる。
勿論、中心にはタルトが立っているのだ。
そして、防御しつつ、ステッキから放たれた光弾が次々に武器を破壊していく。
「常に魔法障壁を張ってますから、大丈夫ですよー。
もう片付きますから、そろそろ行きましょうか」
もう常識外の事が多すぎて、驚くのに疲れてしまったウェンディであった。
ヨロヨロと起き上がると、記憶を頼りに地下の階段の方向へ歩き出す。
「こちらです、ついてきて下さい」
以前、何度も通った廊下を迷い無く進んでいく。
途中の障害はタルトが取り除いてくれるので、あっという間に階段へと辿り着く。
エレベーターもあるが、階段を使う方が安全である。
どんな不測な事態にも対処しやすいからだ。
「目的の部屋は地下二階です。
天井が高いので、3フロア分は降りることになります」
タルトはこんな状況にも関わらず、鼻歌を唄っていて楽しそうである。
ウェンディはこんな普通の少女が神にも等しい力を有していることが不思議にみえた。
そして、つい疑問を口にしてしまう。
「あの…、貴女はその力で世界征服しようとか思った事はないのですか?」
「えっ?
世界征服ですか?
そんなことしてなんの意味があるんです?
人の上に立つなんてめんどくさいだけですよー」
「意味…ですか。
贅沢したいとか、願望を叶えたいとか、凡人である私には、人間の欲望は果てがないと考えてしまうのです」
「毎日、ご飯が食べれて大切な人達と一緒に居られれば良いですよー。
他に願望ってあったかなー?
そういえば、あっちの世界に行ってからサブカルに触れる機会が減って寂しかったんですよね、それを普及させたいくらいですかねー」
ウェンディはタルトがいつまでも純粋でいて欲しいと心から願った。
もし、大人に成長して世の中を知り、世界を滅ぼしたいと考えたら有言実行されてしまうだろう。
それだけ異常な存在なのである。
だが、ウェンディは気持ちを切り替える。
将来の話など今を切り抜けてからだ。
結局、今、人類が滅ぶなら将来の心配をしても意味ないのだ。
作戦へと考えを戻し、階段を降りながら説明をしていく。
「この階段を降りて、右へ進んだ突き当たりの部屋がコントロールルームになっています。
さあ、もうすぐです!」
最後の言葉は地下二階へ着いて、もう目的のドアが見えてきたのと同時であった。
だが、ドアの前の通路には大型の機関銃が無数設置されており、その銃口がこちらを捉えている。
石壁や鉄板でさえ貫通する威力の機関銃による一斉掃射だが、タルトの周囲に展開された薄い光の壁には全て無効化されている。
何事も無いように進んでいき、ステッキから放たれる光弾により破壊されていった。
ドアの前に着く頃には銃声は止んで、廊下は再び、静寂が戻っている。
そして、溶接されているドアを簡単に解錠してしまった時には、考えるのをやめたウェンディであった。
「到着です!
ウェンディさん、宜しくお願いしますねー」
「はい、ここからは私がきた意味ですから。
役目を果たさなければ、今、命を懸けている皆に謝罪のしようもありません」
話しながら目の前にあるコンソールへ高速で文字を打ち込んでいく。
「これなら…いけそうです!
強制停止命令は予想通り生きています!」
嬉々として次々とコマンドを入力し、状態を確認していき、遂に停止命令へと辿り着いた。
そして、実行可否を画面が表示され、迷うことなくYESを選択した。
その様子を後ろでじっと眺めるタルトであったが、何をしているかちんぷんかんぷんであった。
だが、最後のEnterキーを押したあと、画面上が激しく画像や文字が切り替わり表示された後、部屋全体のコンピュータの起動音が停止した。
「止まった…の?」
実施すべき事は全てやった。
そして、マニュアル通り目の前の機械は停止した。
それは何度も夢にまで出てきた光景だが、まだ実感がわかない。
これは現実なのか?
外の恐ろしい兵器達も停止したのか?
次から次へと疑問が出てくる。
そんなウェンディに後ろから気の抜けた声が聞こえてくる。
「あれっ?
もう終わったんですかー?
外に出て確かめてみます?」
そんなマイペースなタルトに現実だと実感し始めたウェンディ。
「そう…ですね。
早く確かめましょう。
皆の無事を確認しなければ終わったとは言えませんから」
部屋を出て急ぎ階段を昇る。
先ほど、この道を歩いたときは不安でいっぱいだったは、今は嘘のように足が軽く感じた。
そして、タルトが作った入口から外へ出る。
だが、そこには入口を囲むようにおびただしい数の兵器に取り囲まれていた。
「嘘…」
無意味だが、身を守ろうと両腕を前に出すウェンディ。
タルトがすかさず前に出て警戒するが、ターミネーター達は沈黙したまま動かない。
「動きませんねー。
これは作戦が成功したってことですかね?」
タルト言葉に恐る恐る様子を窺ってみると、機械が起動している際は転倒してい目の光が消灯していた。
「そのようですね…。
本当に…本当に…終わったんですね…。
もう、隠れて暮らす必要なんてないんですよね…。
これで…本当に…平和な日々が…」
泣き崩れるウェンディ。
それ程までに苦難の日々を送り、絶望しかない未来だったのだ。
それが突然、夢が叶ったのだ。
感情が爆発し、今まで抑えていたものが一気に込み上げてくる。
鍛えられた軍人とはいえ、抑えることが無理であり、子供のように泣きじゃくるウェンディであった。
その横に座り、優しく背中をさするタルト。
そこは暖かい日が射し込む春の陽気だが、ここに来た時は、そんなことを感じる余裕はなかった。
だが、今は小春日和だが小鳥の声も聞こえない静寂のなか、ウェンディの泣き声だけが響き渡っていた。




