外伝その2 光の先は異世界でした⑧
間もなく夜明けを迎える。
基地内は慌ただしく戦闘開始に向けて準備を進めていた。
タルト達はウェンディに案内され、かなり広く地下とは思えない空間が現れた。
「わあー、凄い広いですねー!
しかも、武器とかいっぱい置いてあって、映画に出てくる感じですー」
バタバタと軍服を着た人が行ったり来たりしている。
あちらこちらで箱から武器を取り出し、動作を確認していた。
そして、広い空間の中央に目的の物が鎮座している。
「これってヘリですか?」
それは映画などで見覚えのあるような軍用ヘリでる。
「そうです。
これが唯一残されたヘリコプターになります。
おおよそ1時間ほどで目的地へお連れすることが出来ます」
「へー、今度はこれに乗るんだなあ。
なあ、タルト。
これってどうやって動かすんだ?」
桜華はヘリに興味津々のようで、うろうろと周囲を回って観察している。
昨日の電車やトラックが大いに気に入ったらしく、自分も操作したいと昨晩から言っていたのだ。
「私も操作方法は分からないですよー。
でも、これは空を飛んでいけるから速いんですよー」
「これが空を飛ぶダッテ?
こんな重そうなものガカ?」
後ろで眺めていたリリスも空を飛ぶことに興味があるようだ。
「残念ながら操縦は私がお任せください。
そろそろ、定刻になりますので皆さんは後部にお乗りになってお待ちください」
「はーい!さあ、乗りましょー。
桜華さんも後でトラックを運転させて貰えるようお願いしてあげますから」
渋る桜華の手を引っ張って、ヘリに乗り込んでいく。
続くウェンディも操縦席へと座って、スイッチを操作していった。
すると、上部のプロペラが回転し始める。
「さあ、そろそろ出発します。
皆さん、宜しくお願いします!」
その声と同時くらいに天井だった部分が大きな音を立てて動きだし、外から太陽の光が差し込んでくる。
「行ってくるねー、リリーちゃん。
ここの防衛は宜しくねー」
手を振りながらリリーにお別れの挨拶をする。
リリーは最近、覚えたてのグッドサインをお見送りしている。
「行ったか…」
ユージは飛ぶ立つヘリを眺めながら呟いた。
そして、隣にいるリリーへと声をかける。
「さあ、お嬢ちゃんはこっちだ。
君はタルトからのお願いで守ると約束してるからな」
そして、ユージはリリーを他の子供達や女性が待機している場所へと連れていった。
そこは地上に作られた臨時基地であり、近くには何台かの装甲車が止まっている。
既に子供達は装甲車に乗せられていた。
「さあ、君もこれに乗るんだ」
「これはなに…?」
「これに乗ってタルトの帰ってくるのを待つんだ。
大丈夫、すぐに帰ってくるさ。
それにタルトと皆を守ると約束したんだろ?
ここは一番守るべき女性や子供達がいる。
君にここを守って欲しいんだ」
リリーは装甲車の中を覗き込む。
「わかった…。
ここをまもる…かんたん…」
「そうか、良かった。
暫くは俺も一緒だし、目の前には本部もあって少佐もいる。
いざという時は頼んだぜ」
ユージはそう言い残し、装甲車の中の女性と話し始めた。
戦闘が始まったら敵のいない方へ装甲車は避難する段取りを確認するためだ。
ヘリが飛び立つと同時に敵に居場所が特定され、間もなく基地は攻撃されると想定している。
勿論、それを防ぐ手段はなく子供達を避難させる為の時間稼ぎを行うのだ。
運が良ければタルト達の作戦が成功し、僅かだが生き残るものもいるかもしれない。
だが、それは万に一つもなくここにいる兵士は未来のために死ぬ覚悟でいるのだ。
そして、それは現実となる。
地上に設置した簡易テントを利用した即席の本部では、けたたましく警告音が鳴り響いている。
「少佐!
レーダーに敵と思われる物体が多数、捉えられました!」
「来たか…。
それでどれくらいいる?」
「えっと…とても数えきれません!
数千以上はいると思われます!
監視カメラには人、獣、蠍と多様なタイプが確認されています!」
「数千だと!?
まさか、それほどの戦力を投じてくるとは…。
何としても子供達だけは死守するぞ!
全員、配置につけ!
人類のしぶとさをみせてやるぞ!」
死を覚悟した防衛戦はもう間もなくだ。
その頃、タルト達も目的地にだいぶ近付いていた。
「皆さん、あと10分くらいで到着します。
ですが、守備隊がいるでしょうから、見つかる前に着陸して歩いて行きましょう」
ウェンディは作戦通りに着陸ポイントに向けて高度を下げ始める。
「あそこの広いところですか?
なんだかロボットみたいのがいっぱいいますけど…」
タルトはそとを眺めながらウェンディに問い掛ける。
確かに本当は何もない広場のはずが、黒い何かがたくさん動き回っているのが見えた。
「まずいです!
これは待ち伏せです!
着陸出来そうなポイントに機械達を伏せているようです。
これでは、撃墜されてしまいますから逃げましょう!!」
その光景に慌てるウェンディ。
だが、桜華はヘリの扉を開け放つ。
「さあ、こっからうちらの出番だなあ。
おい、リリス。
ちょっくら行ってこようぜ」
「アア、待ちくたびれタゼ」
「ちょっと待ってください!?
もしかして、飛び下りようとしてるんですか?
パラシュートもつけずに、そんなことしたら死にますよ!
それにパラシュートを着けていても、良い的になるだけです」
今にも飛び出そうな桜華とリリスにウェンディは戻るよう必死に説得する。
だが、散歩に行くような楽しそうなテンションで返事が帰ってきた。
「こんな高さくらい問題ねえよ。
あとはタルトに任せて、うちらは地上に降りて露払いしてくるぜ。
じゃあ、後でな」
そう言い残し、地上へと飛び出していった。
リリスは追いかけるように空中へ飛び出し、桜華を追いかけていく。
ものすごい速さで落下していく。
だが、これだけの高さから飛び降りたのに難なく着地してすぐに駆け出していく。
「嘘…。
どんな身体能力を持ってるというの…」
「あれくらいは桜華さんには大したことでは無いんですよー。
戦いに夢中でムチャをしないと良いんですけどねー」
ヘリから飛び降りるのもかなりな無茶だと突っ込みたくなるウェンディだった。
それも遠くから近付いてくる無数の小さい影に気付くと、戦場にいるのを思い出す。
「不味いですね、飛行タイプの何かが近付いてきます。
速度で負けており逃げるのも不可能です…。
とはいえ、あれと戦える装備は搭載されておりません…」
「じゃあ、私が外に出て護衛しますねー。
ぱぱっと片付けちゃいますよ」
そういうとタルトは声を掛ける間もなく飛び出していった。
そして、ヘリと並走するように同じ速度で飛翔している。
「いっけえぇーーーーー!」
タルトがステッキから放った光球は正確に敵を撃ち落としていく。
幼き日にアニメで見た魔法少女を思い出すウェンディ。
「凄い…」
ポロっと出た言葉はそれだけであった。
その間にも次々と撃ち落としていくタルト。
そして、遂に目的地の建物が見えてきた。
「これは…もしかして、出入口を全部塞いだというの…。
しかも、あの色はターミネーターにも使われている合金。
残された武器で破壊は不可能です」
そこには入り口や窓を含め、1m以上はあるであろう金属で補強されていた。
只でさえ武器の残数は心許ない上に、核兵器でも破壊できないかもしれない鉄壁の守りでは攻略不可能に思われる。
既にこちらの動きは予測され対処済みのようにウェンディは感じ、この作戦は失敗に終わると思い始めたのであった。




