外伝その2 光の先は異世界でした⑥
基地へと到着するとたくさんの兵士達が待ち受けており、収穫した野菜や果物を降ろして食堂へと運んでいく。
「それでは私も腕をふるっちゃおうかなー」
タルトがやる気まんまんで食堂へ向かおうとするので、リリスが危険を察知する。
「タルトは水の改善をするんじゃネエノカ?」
「あっ、そうだね。
料理にも水は必要だしね」
これでひとまずは危険は去ったと安堵するリリス。
「ウェンディさん。
水を貯めてある場所を教えてもらえますか?」
「はい、こちらになります」
もうタルトのことを疑う余地はなく、任せておけば良い結果が出ると信じているのだ。
ウェンディに付いていくと、大きなタンクがいくつも並んでいる広い空間に出た。
「ここに雨水を可能な限り濾過したものを貯めています。
ですが、設備は古く濾過機能も低いため、少し淀んだ水で我慢するしかありません。
しかも、最近の雨不足で残りは一つだけとなっています」
「なるほど。
では、ここからいきますねー」
ふわっと浮き上がったタルトはタンクの上に降り立ち、蓋を開けた。
「ウンディーネさん、お願い!」
うっすらと精霊のようなものが浮かび上がり、綺麗な水がタンクへと一気に貯まっていく。
同じように次々とタンクを満たしていった。
「さあ、これで終わりですね!
じゃあ、やっとご飯でも作りに」
意気揚々と調理場へ向かおうとするタルトの首根っこを桜華が鷲掴みにする。
「こら待て。
お前は一切、料理をするなと言われているだろ!
ここでも死人を出すつもりか?」
「ひどいです!
誰も殺したりはしてないですよー」
「食べた全員が意識が飛ぶような危険なものは食べ物とは呼ばねえんだよ!」
「うぅ…私ももっとみんなのお手伝いしたいですよー」
「なら、果物でも配ってこい。
特に皮を剥く必要もないから渡すだけだぞ」
「はあぁーい。
しょうがないから、そうしますかー」
渋々、妥協して果物を置いた倉庫へと歩き始める。
そこにはユージがテキパキと指示を出して、仕分けをしていた。
「ユージさん、果物を配るのを手伝いたいんですけど」
「丁度、これから配布を始めるところだったんだ。
そうだな、そこの端にあるのを子供達に配ってくれるか?
場所はウェンディが案内する」
「分かりました!
リリスちゃん、一緒に行こ!」
「しょうがネエナ。
子供の相手はワタシよりカルン向きなんダガナ」
文句を言いながらもさっと果物を山積みされたカゴを軽々と持ち上げる。
自分と同じくらいの物量を軽く持つ姿は、やはり異世界から来た悪魔だと思い出させるのだ。
タルトも変身しなくても魔力をコントロールし、さっと重いカゴを持ち上げる。
一番、力のありそうなウェンディが持ち上げるのに苦労しているように見える。
「こちらです。
付いてきてください」
そこは基地の最奥部にあたり、子供が多くいるエリアだ。
最優先で守る対象であり、ここまで攻められたら、もう終わりなのだ。
そこには大人達よりは元気があるが、笑顔はなく壊れたおもちゃで遊ぶ小さな子供達がいた。
「さあ、みんな注目だよ!
今から美味しい果物を配るから、ここに集合だよー」
なんの事か分からずキョトンとする子供達。
果物など久しく食べてないのだ。
しかも、もう一人は明らかに悪魔である。
一緒にいた母親達は立ち上がろうとした子供を制止させた。
「皆さん、聞いてください。
この方達は異世界から来られたのだ。
とても信じられないだろうが、常識では考えられない実力を持っており、この果物の収穫も助力頂いた。
見た目が悪魔に見えるかもしれないが、味方です。
このウェンディが安全を保証しますので、安心して食べて欲しい」
ウェンディの真剣な言葉に母親達は顔を見合わせて、少し悩んだがそっと手を緩めた。
子供達には栄養が必要なのだ。
いつも空腹状態で美味しい果物なんて記憶の中のものであった。
すぐにタルトの周りには子供達が群がり、次々とリンゴやオレンジといった果物を受け取っていく。
それを母親のところに持っていき剥いて貰う。
そして、口に入れると果汁が広がり、久々の甘味に笑顔がこぼれた。
そんな子供の笑顔をみた母親は泣き出す者もいたのだ。
そんな母親の前にそっと座り、オレンジを渡すタルト。
「いっぱいありますからお母さん達も食べて下さいねー」
「でも、それでは明日以降がまた、無くなってしまうでしょう…?
大人よりも子供を優先させてください」
母親達は自分達よりも子供を優先したいのだ。
今まで空腹に耐える顔を見るのが辛かったのである。
「大丈夫ですよー。
もうすぐ外に出て安心に暮らせるようになります。
それは私がこの世界を救うからです」
ウェンディが先程、タルトについて教えてくれた。
異世界から来たという話だが、目の前の少女は保護される側の綺麗だが普通の女の子のように見える。
この子があの恐ろしい機械達を相手に戦えるように見えないのだ。
「あ、疑ってますねー。
まあ、本当の私は駄目駄目っ子ですからね。
では、少し魔法を見せてあげますね」
次の瞬間、少女は光に包まれ純白な衣装へと変化する。
手にはステッキを持ち、知識として知ってる魔法少女そのものである。
「さあ、子供達も見ててくださいねー。
それー!」
ステッキから色とりどりの光輝く蝶が飛び出し、部屋の中を美しく舞っている。
子供達は夢中で捕まえようと追いかけ始めた。
「これはちょっとした光の魔法ですね。
不可能を可能にするのが魔法少女です。
みんなの願いも絶対に叶えてみせますから!」
緊張が解けた子供達はリリスの尻尾や羽を触ろうとしている。
「このしっぽってほんものなの?」
「おねえちゃんはどうしてういてるの?」
「オイオイ、タルト助けロヨ。
こういうのはカルンが得意でワタシは苦手なんダヨ」
子供に囲まれ困っているリリスを笑顔で見守るタルト。
「リリスちゃんもたまにはいいんじゃないかなー。
せっかく笑顔になったんだから、少し遊んであげよう!」
タルトは次々に簡易的な魔法を見せて楽しませていく。
母親達もその実力を少し理解したのか、子供の未来を明るいものにしてくれるかもと光明が見えた気持ちになり、もう何も言わずにタルトを信じることにした。
子供部屋を後にした空箱を抱え、戻るとユージが待っていた。
「戻ってきたか。
これから軍事会議が開かれる。
勿論、議題は敵の本拠地へ乗り込み中枢の機能停止する作戦だ。
そして、その作戦の要はお前達になる。
俺はお前達がこの世界に来たのは、神の意思によるものだと思っている。
頼む、この世界を救ってくれ」
深々と頭を下げる。
そんなユージに続き、横にいたウェンディも頭を下げた。
「頭をあげてくださいっ!
もちろん、協力はします。
こっちでいっぱい約束しちゃいましたしねー。
これでも女神ですからお願いに応えなくちゃいけませんから」
「そうか。
本当にありがとう。
この世界の者として感謝を」
「さあさあ、作戦会議してささっと世界を救っちゃいましょう!」
「そうだな。
こっちだ、付いてきてくれ」
ユージを先頭に会議室へ急ぐのであった。




