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外伝その2 光の先は異世界でした④

室内にあった簡易ベッドで寛いでいると、ウェンディがカートを押して部屋に入ってきた。


「失礼します!

お食事とお飲み物を御用意しました」


慣れた手付きで簡易テーブルの上に並べていく。


「わあぁーい!

お腹空いてたんですよね!」


タルトが喜んでテーブルの上に置かれたものを見て驚愕した。

そこにはコップに注がれた少し色の付いた水と缶詰があったのだ。


「誠に申し訳ございません。

現状、御用意出来るのは、これで精一杯になるのです…」


事情は言われなくても理解できた。

世界が荒廃し、地上に出られないのだから、飲み水も食料も手に入る訳がないのである。


「いえ、私もちゃんと理解してなかったと思いました。

あの…皆さんは毎日、どんな生活をしているんですか…?」


ウェンディは質問の意図を考える。

この世界に生きるもので知らないはずのない事なのだが、先程、上官から聞かされたのは異世界から来たという話であった。


「なるほど。

貴女方の世界がどのようなものかは知るよしもありませんが、この世界ではもう希望はないのです。

敵は死を恐れず、通常武器では破壊不能な軍団が相手です。

そして、いくら破壊しても日々、製造され減ることもない軍隊です。

もう既に人類の敗北は決定しており、少しだけ絶滅を先延ばししているに過ぎません。

更に悪いことに食糧と水が間もなく尽きるのが早いかもしれません。

奴らは人類のみを敵とみなしているため、自然や動物は生存しています。

ですが、それを人間が狩猟しにくるのを待ち構えているのです。

ですから、我らは街に残された非常食や綺麗とはいえない水を飲むしかないのです、、、」


目の前に置かれたものを見て、疑いようがないのは理解している。

そして、貴重な食糧を提供して貰っているのも理解している。


「これはここにいる子供達に食べさせてあげてください。

そして、飲み水を保管している場所に案内して貰えますか?」

「ですが、貴女方は大切な来賓であり、もしかしたら現状を変えることが出来るかもしれない実力をお持ちです。

お気遣いは有り難いですが、優先事項としては貴女方を優先せざるを得ません」

「そうですか…。

だったら、私達が貰った上で、誰かにあげるならばウェンディさんも困ることがないですよね?」

「それは…そうかもしれませんが…」

「大丈夫ですよ。

ここにくる前にいっぱい食べてから来てますし、ぱぱっと解決して元の世界に帰れば良いんですから。

そういえば、自然は残ってるということでしたから、街の外には畑だった場所がありますよね?」

「仰る通りに畑は放置されたままであり、今でも野菜や果実が実っています。

ですが、それを取りに行くことは不可能なのです。

罠のようにたくさんの兵器が待ち構えています」

「じゃあ、私達で収穫してきますので、地図とかあります?」

「ちょっとお待ちください!?

説明しました通り、罠なんですよ!

行ったら生きて帰ることなんて…」

「私達だけなら大丈夫ですよー。

さっと行って収穫して帰ってきますから」

「それは…分かりました。

私では判断できませんので、上官に相談してきます」


ウェンディは急いで部屋を出ていった。

暫くするとさっきまで一緒だったユージを連れて戻ってきた。


「待たせてすまない」


入るなりユージは頭を下げながら、一言謝罪した。


「君達の提案だが受けようと思う。

だが、その代わり今回の作戦を君達の実力をテストとさせて欲しい」

「テストってどういう意味ですか?」

「今、君達が現れた事で最後の決戦に向けた作戦を考えている。

だが、作戦を立案するためにも君達の実力をもっと正確に知っておきたい。

今回の作戦が実現できないようなら、敵の本陣に乗り込む事は不可能と言えるだろう。

だから、私とウェンディが同行し、トラックの荷台に収穫して持ち帰るという作戦をテストとして判断材料とさせて貰うつもりだ」


ユージは淡々と正直に考えを伝える。


「良いんじゃねえか。

説明するより実際に闘う方が分かりやすいし、うち好みだぜ」


じっと話を聞いていた桜華が賛同を示す。


「もう桜華さんは闘いたいだけですよねー。

まあ、今回は行きますけど、目的は食糧確保ですからねー」

「分かってるって。

まあ、警護はうちらに任せて収穫をゆっくりやって貰えば良いんじゃねえか」

「そうですね。

私達が安全の確保をしますから、収穫はお任せするという感じでどうですか?」


二人のやりとりにユージは頷く。


「それで構わない。

俺達の命を預けよう。

それで、こちらは何時でもいけるがどうする?」

「それなら、すぐに行きましょう!

今日の夜ご飯に間に合うようにしないとですね」

「了解した。

ウェンディ、この子達を連れて13番出入口で待機してくれ」

「承知しました。

では、私に付いてきてください」


先程通った通路とは別の道を歩いていくと、隠した出入口を潜る。

そこは地下鉄だったと思われ、レールがずっと続いている場所だった。


「ここでユージさんを待ちます。

そして、この地下鉄跡を使って畑のあるエリアまで地下を通っていきます」


すると奥の方から明かりが近づいてくるのが見えた。

それはどんどん大きくなり、1両だけだが電車がレールの上を走ってきた。


「待たせたな。

さあ、これに乗ってくれ」


停車した電車の運転席にいたのはユージだった。

開いたドアからタルト達は乗り込んでいく。

そして、ゆっくりと動き出す。


「へえ、これは便利だなあ。

馬車よりすげえ速いんじゃねえかあ」


電車を初めて見る桜華の反応だ。


「ワタシは飛んだ方が速いから何とも言えネエナ。

ダガ、これが人間が開発したとなると恐ろしく感じるナ」


リリスは流れ行く外の景色を見ながら意見を言う。

そこには、この世界の技術に対しての素直な感想だった。


「リリスちゃんの言いたいことは分かるよ。

だから、私は技術の発展には気を付けたいと思ってるんだよね。

まあ、私は女神様だから最後は力付くで止めて見せるけどね」

「力付くってどんな女神ダヨ!」

「しょーがないもん。

その方が手っ取り早いんだもん」


そのやりとりを見ていたウェンディは思わず吹き出してしまう。


「すいません!

貴女方を見ていると素朴でも平和な世界の方が羨ましく思えてきました。

いくら文明が発展しても逆に不幸になったのが、今のこの世界ですから...」


そんなウェンディの横にタルトが座り、満面の笑顔を向ける。


「もしかしたら、そんな世界を救うために私達が呼ばれたのかもしれませんね。

もし、この戦争が終わったら何がしたいですか?」

「そう…ですね。

普通の生活をしてみたいです。

いつも家族がいる、そんな普通の生活です」

「では、その願いは女神であるタルトが聞き届けました。

この戦争を終わらせますので、その後の世界を作るのはウェンディさん達次第ですからね。

頑張って幸せな世界を作ってください」


その言葉はウェンディの心の奥まで響き渡る。

そして、無意識のうちに跪き、頭を下げていた


「女神の祝福を有り難うございます。

与えて下さった機会を大切にして、必ずより良い世界を実現するよう努力致します」


目の前にいるのは魔法少女ではあるが、普通の女の子である。

だが、見た目の美しさだけでなく、神々しさを感じ、女神というのも素直に受け入れられた。

何より絶望の中にいたウェンディにとって、唯一の光であり心の救いなのであった。


(タルトちゃん、聞こえる?)


丁度、その時、今回の元凶である女神より連絡が入った。


「やっと繋がりましたか!

ちゃんと聞こえてますよー」

(それは良かったわ。

まずは謝罪からね。

あまり覚えてないのだけど、寝ぼけて転移させてしまったみたいなの、ごめんなさいね)

「そうじゃないかと思ってましたよー。

取り敢えず連絡が取れて、一安心しましたよー」

(そこには他の子も一緒にいるのかしら?

それなら、こちらに再度転移させてあげるわよ)

「それはちょっと待って欲しいんですよね。

こっちで約束が出来ちゃいまして」


タルトはこれまでの経緯を簡単に説明する。


(あらあら、大変な事に巻き込まれてるのね)

「なので、こっちの世界を救ったら連絡するでも良いですか?」

(そんな世界を救うなんて簡単に言うんだから。

でも、今の貴女なら大丈夫そうね。

無理せずに何か助けが必要なら連絡頂戴ね)

「分かりました!

リーシャちゃんに安心してお留守番してるよう伝えておいてくださいねー」


無事に帰る手段も確保出来たので気が楽になったタルト。

意気揚々と畑での収穫に向けて気持ちを新たに切り替えていった。



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