外伝その2 光の先は異世界でした③
暗く静まり返った階段を降りていく。
聞こえるのは自分達の足音が地下道に響き渡っていた。
「暗いから気を付けてくれ。
常時、電気を付けるほどの余裕もないし、居場所がばれる可能性があるからな。
もう少し先にある居住区は少し明りが付けてあるから、それまでの辛抱だ」
「それなら、私が明かりを出しますね」
タルトがステッキだけを出現させ、小さな光の玉をいくつか周囲を囲むように作り出す。
「魔法って何でも出きるんだな。
まだ驚き足りないとは思わなかったぜ」
「私の場合はちょっと特殊でほとんどの事が実現できますねー。
一応、これでも異世界では女神様をやってますので」
「まあ、これだけの奇跡が起こせるなら女神っていうのも頷けるけどな。
敬語でも使った方が良かったかな?」
「そんなのいらないですよー。
私の方が年下なんですから」
「年下の女神っていうのも違和感しかねえけどな。
おっと、そこの突き当たりが俺達の基地だ」
一見、行き止まりのように見えるが左右にあるレリーフの隙間に奥へと続く細い通路が隠されていた。
隠し通路の先にぼんやり明かりが見えてくる。
「そこで止まれ!
ユージとマイクだな?
そして、連れているのは誰だ?」
影しか見えないが先にいる守備兵が銃を構え、静止するよう合図を出してきた。
「この少女等は敵ではない。
だが、俺達では判断できない部分もあり、少佐に判断して貰うため、連れてきた」
一人の守備兵が近寄ってきて、タルト達をじっと観察するが、ふわふわと浮いている無数の明かりが気になるようだ。
「この明かりはどうなってるんだ?
実態がなく宙に浮いているように見えるが、これは一体…」
「これはそこの少女が作り出したものだ。
本人曰く魔法少女なんだそうだ。
それに鬼と悪魔もいて、機械どもをあっさりと片付けたのを目撃した。
俺達の常識から外れすぎていて驚き疲れたぜ」
守備兵はユージの言葉は信じられないが、目に前の光も説明しようがないのだ。
短い思考の末、少佐の判断に委ねることをきめた。
「こっちに付いてこい。
少佐に詳しい話をして貰おう」
兵士に続き、通路を進むと広めな空間へと辿り着く。
そこには固い床の上に無数の無気力な人達が座ったり、横になっていた。
ほとんどが老人か女性、子供が大半を占める。
おそらく、戦いに出れない者達なのだろう。
タルト達が通りすぎると好奇心の目が向けられた。
この世界に似つかわしくない綺麗な服装、鬼と悪魔という少女達が急に現れたのだ。
こそこそと内緒話をしている横を通り過ぎながら、奥へと繋がる通路へと入っていく。
左右には閉ざされた扉が無数にあり、その中の一つの前で立ち止まった。
「少佐!
失礼します!
急ぎ報告すべき事があります!」
兵士は扉越しに大声で伝えると、中から低い声が聞こえてきた。
「入れ」
すると兵士は扉を開き、タルト達を中へと誘導した。
そこには椅子に腰かけている白髪の軍服姿の老人が座っている。
「これは奇妙なお客さんのようだな。
私がここを統率している長谷川だ。
階級は少佐だったが、たまたま生き残ってここを纏めているに過ぎない只の老人だ。
ユージよ、ここに連れてきた理由を説明してくれるか?」
ユージはタルトから聞いた経緯を簡単に報告する。
そして、先程見た戦闘についても要点だけ整理して説明した。
「ふむ、にわかには信じられぬ話だな。
魔法少女に鬼と悪魔か。
しかも、異世界からきたと申している。
だが、精鋭の兵士ですら敵わない機械相手に圧勝してみせたのも事実。
何かここで証明して見せることは出きるかな?」
何が良いかとタルトは思案したが、すぐに何かを思い付いたようにパッと笑顔になった。
「ここには傷ついた人達はいますか?」
「負傷兵の事かな?
それなら、病院区画に行けばたくさんいるがどうしようと言うんだね?」
「証明として私がその人達を治療してみせます!」
「ほう、そんなことが可能なのか?
もうここには健康な兵士が少なくなっているから、実現できるなら非常に有難い。
では、私も同行し証明して貰おうか」
少佐の後に続いて病院区画と呼ばれる場所へとやってきた。
そこにはベッドが足りずに床にも無数の負傷者が血だらけで寝ている。
「もう治療が出来るだけの道具もない。
病院区画と呼んでいるが、死を待つばかりの兵士が多い。
さて、ここでどんな事を見せてくれるのだ?」
ここでタルトは光に包まれ魔法少女へと変身する。
「証明だけじゃなく、ここにいる人達は全員、私が救ってみせます」
いつになく真剣な眼差しのタルトは一人の重傷者にステッキを向け、目を閉じる。
すると、重傷者の体が光を放ち、みるみる傷口が塞がっていった。
そして、光が収まるとむくっと起き上がり、自分の手を見つめている。
「傷が消えた…。
俺は…助かったのか…?」
「ええ、あなたは元気になりましたよ!」
重傷だった若者が泣きながらタルトへお礼を言っている。
その様子を見ていた少佐は表面には出さないが、内心、驚きを堪えていた。
「これは神の奇跡か…。
魔法なるものが本当に実在するとは…」
そんな、少佐を気にせずタルトは次々と治癒魔法をかけていく。
30分もしないうちに全ての兵士が元気を取り戻していた。
「これは君達の言うことを信じるしか無さそうだな。
会議室で改めて話をさせて貰おうか。
ユージよ、この少女達を会議室へ案内を頼む」
タルト達はユージに案内され会議室へと入っていく。
そこには地図やホワイトボードなどが置いてあり、作戦と思われる文字が見てとれた。
遅れて少佐が入ってくるなり、タルトへ深々とお辞儀をする。
「まずは部下達を救ってくれたお礼を言わせてくれ。
本当にありがとう」
それを見たユージとマイクも続いてお辞儀をした。
「いえいえ!?
そんな当然の事をしたまでですよー」
「君にとっては普通の事かもしれんが、私達にとっては神の御業というほどのことなのだ。
感謝してもしきれん程のな」
「なんか恥ずかしいですね…」
「さて、お礼も早々に無礼も承知でお願いしたい。
その力を私達に貸して貰えないだろうか?
死を少し遅らせる事しか出来ないと絶望していたが、光明が見えてきた気分だ」
少佐の真剣な眼差しにタルトは佇まいを直す。
「私達で出来ることなら何でもやりますよ!
ねえ、桜華さん、リリスちゃん?」
「うちとしては身体が鈍っていたからな。
戦なら喜んで手伝うぜえ!」
「ワタシはタルトが決めたことに従うゼ」
「わたしも…」
リリーも必死に右手を挙げている。
「うん、リリーちゃんも大切な役割をお願いするね」
「わかった…」
ユージはリリーという子をタルトが大切にしてるのが伝わってきて、久々に心が暖かくなるのを感じた。
小さい子も背伸びをしたくなる年頃なのだ。
ちゃんと役割を与えることで、小さいながらに自尊心を傷付けないようしているのだろう。
役割といっても安全は確保されたものなのは言うまでもない。
「こちらに着いたばかりで疲れただろう。
今日はもう日が暮れる。
明日になったら今後の作戦について話し合おう。
大したもてなしは出来ないが、ゆっくり休んでくれたまえ」
少佐はそう言い残し、部屋を出ていった。
現状の打開策が見えてきたことから、明日の会議に向けて情報の整理を行うのであろう。
残されたタルト達は少佐が手配した女官に案内され、いくつかベッドが並べられた部屋へと案内された。
「こちらをお使いください。
何か必要なものがあればお声がけください。
ご希望に沿うことも難しい状況ですが善処しますので」
「いえいえ、特に必要なものはないから大丈夫ですよー。
ところでお名前聞いても良いですか?」
「これは失礼しました。
私は元アメリカ海軍のウェンディです」
「あのー、敬語はなくていいですよ。
私の方が年下ですし」
「いえ、少佐から貴女方を支援するよう命令を受けております。
来賓として対応すべきであり、対等な関係は許されておりません」
「そうですかぁ…。
別に気にしなくて良いんですけどねー」
「それに命令がなくても、先程の仲間を救って頂いた奇跡の業を目にしましたので、神の使いに対し敬うのは当然の事です」
ウェンディは敬礼をして、部屋をあとにした。
タルト達はそれぞれの気に入った場所を決めて、少し休むことにした。




