外伝その2 光の先は異世界でした①
瓦礫の中を全力で走る。
深呼吸する度に焼け焦げた空気を吸い込み気持ち悪くなる。
そして、口の中は血の嫌な味で満たされている。
隣にいる男も同じことを考えていることだろう。
「そろそろ体力も限界だ。
どうせ、逃げ切れるわけはないんだから、この先に開けた場所があるから迎え撃とう!」
隣を走る男も頷く。
お互いに戦場を長く一緒にいるので、考える事は同じなのだ。
「急げ、マイク!
1ブロック先を右に曲がれば広場がある」
マイクと呼ばれる男は足を負傷しているのか、少しずつ離されていた。
無理もない、重い銃や装備を背負ったまま全力疾走してるのだ。
体力の限界はとうの昔に超えており、精神力で支えているのである。
「よし、広場に出たら瓦礫に隠れるぞ!
敵が来たらありったけの弾を撃ち込んでやろう」
崩れかけたビルを曲がり、広場へと辿り着く。
だが、男は予想外の光景を目の当たりにする。
「おい、ユージ!
急に止まるな!
すぐに追い付かれるんだぞ、その前に隠れるんじゃないのか?」
後ろから来たマイクは前を走るユージが急に足を止めたことに戸惑う。
しかし、その理由はすぐにマイクも理解した。
なんと、目指した広場に人が立っている。
しかも、女の子が4人もだ。
これが数年前なら街中にいるのになんの違和感も無かっただろうが、今のこの場所は戦場だ。
子供は地下の避難所にしかいないはずなのだ。
「おい、お前達!
ここは危ないぞ!
どこから来たのか分からないが、すぐに元いた避難所に逃げるんだ」
ユージは混乱しながらも冷静を装いつつ、避難を促す。
取り敢えず、誰で何処から来たのか知る余地もないが、ここが危険だということは間違いないのだ。
声をかけたのはいいが、近付くにつれて更に不思議な状況に気付く。
一人目は幼く低学年だろう。
二人目は金髪であることから外国人と思われ、中学生くらいであろう。
この二人はここにいる事と服が綺麗すぎること以外は普通だ。
問題は残りの二人である。
三人目は和装を着ており、腰には帯刀しているが、それより気になるのは頭に角が2本見える。
そして、最後の一人は歳は中学生くらいか黒くピチッとした薄着なのだが、何より不思議なのは背中に小さな翼があり、少し宙に浮いてるように見えるのだ。
仮装にしてはリアル過ぎるし、戦場に仮装する奴などいるわけがない。
どう扱っていいか悩んでいると金髪の女の子がこちらへ振り向いた。
「あのー、今のって日本語でしたよね?
ここってもしかして日本ですか?」
一瞬、何を聞かれているか理解出来なかったが、警戒はしたまま返答を試みる。
銃口は少女達に向けたまま、何かあればすぐに反撃するのだ。
「ここは日本だ。
まあ、今となっちゃ国境なんてあまり意味ないがな。
次はこちらの質問に答えてもらおう!
お前達は何者だ?
そして、どこから来た?」
「えぇ!
やっぱり、そうなんですね!
何か見渡す限り廃墟になってるし、誰もいないから確信が無かったんですよね。
それにしても…おや、何か近付いて来てる」
オーバーリアクションで驚く少女に、緊張感が解け、つい気が緩んでしまう。
だが、すぐに戦闘のプロに戻った。
後方から複数の接近してきたモノに銃口を向け直す。
そこには機械の大型犬と表現するのが合ってるであろうモノが廃墟を軽々、飛び越えて現れたのだ。
その数は3体おり、左右が広がり、こちらを包囲するように陣形を取り始めた。
「ちくしょう!
やっぱり追い付かれたか!
おい、マイク!
ここらが正念場みたいだな」
こうなっては少女達の正体等、どうでも良くなった。
敵でさえなければ良いのだ。
喫緊の問題は3体の金属製の獣達である。
本当は広場にて隠れられない相手を隠れながら、ライフルで射撃したかったのだが、今さらもう無理な話である。
ただ、最後くらいは自分を犠牲にしても少女達を守って死にたいものだと考えた。
「誰かは知らないが俺たちが引き付けてる間に出来るだけ逃げろ!
長くは持たないから意味はないかもしれないがな…」
ユージは覚悟を決めて囮役となるため、一歩足を出そうとしたら、横を通り抜けて前に出たものがいた。
「なんだ、こいつら敵なのか?
なら、うちが相手しても良いんだよな?」
一番年長であろう角の生えた和装の少女である。
高校生か大学生くらいの歳であろうか。
笑みを浮かべ、散歩するように軽い足取りで進んで行ってしまう。
「おい、待てっ!
なにするか知らないが死ぬぞ!」
ユージが声を掛けたのと同時に1体の獣が襲いかかかる。
通常の動物ではありえない俊敏さで飛び掛かるのを目の前にして、少女は刀に手をかけた瞬間、驚くべきことが起こる。
なんと、金属製の獣を一刀両断に斬ったのだ。
「なっ…!?」
次の瞬間、少女の姿が消え、もう1体の獣も斬っていた。
その背後から襲い来る最後の獣も、分かっているかのように躱しながら、斬る。
「へえ、思ったより速かったなあ。
久しぶりに面白い遊びが出来たぜ」
「桜華さん、お疲れさまでした!
まさか、本当に斬っちゃうなんてさすがです!」
少女達は集まってワイワイとはしゃいでいる。
理解が追い付かず混乱するユージとマイクをそっちのけで。
「ちょっと待て!
今のは何だ?
刀で斬ったのか?
その角は何なんだ?
それにそっちは浮いてるのはどうなってやがる?」
ユージの勢いは止まらない。
今までの緊張感が解けて、一気に爆発したのだ。
「ちょっ、ちょっと待ってください!
ちゃんと説明しますから!」
金髪の少女がユージの勢いに圧されながら必死に返答しようとしている。
「えっとぉ、私はタルトです。
そして、こっちから鬼の桜華さん、悪魔のリリスちゃん、で最後がリリーちゃんです」
「待て、待て!
鬼と悪魔ってそんなわけないだろ!
それとも、俺達はもう死んでしまっているのか?」
「それはぁ…あのぉ…言いにくいんですが異世界から来まして…」
「異世界って、おいおい…。
そんな漫画やアニメじゃないんだし…」
「私は日本出身なんですが、ただ、ここは私の知ってる日本じゃなさそうなんですよね…」
「どういうことだ?」
「女神様に連絡してるんですが、返事がないんですよね…」
「女神もいるのかよ…」
「予想になりますけど話しますね。
実は…」
時は遡り、数時間前のアルマール。
タルトはリリスと桜華を追い掛けていた。
「桜華さん、待ってくださいよー!」
「嫌だね!
うちはパーティなんて出ねえって」
「駄目ですよー!
桜華さんの誕生日も含めてるんですから必須参加なんです!
それに綺麗なドレスも用意したんですよ」
「そんなヒラヒラして動きにくい服なんか着たくねえ!」
「諦めロヨ。
ワタシも気が乗らないのは一緒ダ。
ワタシ一人だけそんな恥ずかしい事はしたくないんだから一緒に参加シロ!」
神殿の外を桜華がダッシュで逃げるのをタルトとリリスが追い掛ける。
すると、前方からリーシャとリリーが話しながら歩いてきた。
「チャンス!
リリーちゃん、桜華さんを捕まえて!」
「マジかよ!
リリーは反則だろ!」
さすがの桜華も龍人であるリリーの本気には敵わない。
必死に躱そうとするが、ガシッと体当たりを喰らって倒れる。
そこにタルトとリリスも被さるように乗っかってくる。
「捕まえましたよ!
さあ、ドレスの試着があるんですから、こっちに…って、あれ?」
目の前の空間が光輝きタルト達は包まれていく。
「これって女神様の異世界に行くときに使う魔法じゃ…」
言い終わる前にタルト達は消えていた。
残されたのはリーシャだけであった。
一方、タルト達は気が付くと廃墟の中に立ち尽くしていた。
そして、遠くから人の声が聞こえたと思ったら、軍人風の二人組がこっちに何かを叫んでいる。
「何言ってるんだ、アイツ等?
おい、タルト。
意味分かるか?」
「あれは日本語ですね…。
ちょっと待ってください。
ねえ、ウル。
桜華さん達に私と同じように翻訳って出来るの?」
タルトは異世界で精霊に言葉を変換して貰っている。
それと同じことが出来ないか確認しているのだ。
「出来るの?
良かった、では、これを受け取ってください」
掌から光の玉が現れ、桜華達の体内に消えていく。
「これで私の精霊が翻訳してくれますよー」
「そりゃ、すげえな!
なんか、アイツ等、こっちに敵意持ってるぞ。
斬るか?」
「待ってください!
たぶん、私達が何者か分からないから警戒してるだけっぽいですから、話せば大丈夫ですよ」
そして、この後は桜華の大立ち回りがあり、今に至る。
「だから、何かの手違いで女神様が私達をここに送っちゃったんだと、思うんですよ」
ユージとマイクは口が開いたまま、目が点になっている。
「信じられない話だが、鬼が実際に追跡特化犬型ターミネータータイプ2を刀で斬るのを見た後じゃ、疑いようがないな…」
「ユージ、俺も同じだ。
神話は本当の話が元に出来てるのかもしれないな。
それにこの子達は友好的だ。
さっきは助けてくれて礼を言おう。
俺達だけなら死んでいただろう」
ユージとマイクは深々とお辞儀した。
「気にしないでください。
それよりもここが日本だとして何でこんな廃墟になってるんですか?」
そして、ユージから驚きべき事実が語られるのであった。




