269話 タルト
世界の期待を背負い諦めきれないタルトは何とか立ち上がってはみたが、事態の打開策は全く思い付かない。
小細工なしの単純な力比べであり、圧倒的な魔力量はタルトを遥かに凌駕し、どうすることも出来ないのだ。
そして、それを救えるものなどタルトで出来ないのだから存在しない。
「誰か…助けて…」
心の底から祈った。
意味がないのは分かっているが、祈ることしか出来なかったのだ。
「何故かいつもギリギリになるんだよね」
急に背後から声が聞こえる。
白いフードで顔を隠しているが、聞き覚えのある声だ。
同じようにフードを被る人物が7人いる。
「例え倍以上の魔力量が違ってもこれならどうかな?」
フードを一気にとると、そこには見慣れた顔であった。
そこにいるものは誰もが驚き、何が起こってるのか理解出来ない。
なんと7名のタルトである。
「えっ!?
私がいっぱいいるんだけど…」
オリジナルというか、元々いたタルトは混乱している。
「どうなってんだあ?
タルトがいっぱいいるぞ」
「聖女様があんなに…。
疑うのは畏れ多いがどうなっているのでしょう」
桜華やオスワルドなど戦いを見守っていた仲間の間でも動揺が走る。
「後で説明するから今は目の前の破滅を防ごう!
こっちは8人いるんだから倍の魔力くらい余裕で返しちゃうんだから!」
勝手にタルト同士で盛り上がっているのを忌々しそうにみているのがクロノスだ。
「何が起こっている。
7人のタルトだと!?
所詮、ハッタリに過ぎまい。
一気に終わらせてやる!」
言い終わるのと同時に溜めていた魔力の塊を解き放つ。
それは超巨大で周辺一帯を消し去るほどの威力を秘めた爆弾のようなものだ。
それがタルト目掛けて放たれたのだ。
「さあ、私達準備は良い?」
「えー、あなたが仕切るの?」
「ほらケンカしてないでやるよー」
何だが深刻な事態であるのを忘れているかのようにワイワイしている。
「ほら、もう目の前に迫ってるからとにかく準備してー」
しぶしぶ、オリジナルも含め8名のタルトが全力で魔力をステッキに溜めていく。
「いっせーのーーーーせー!!!」
同時に放たれた魔力は一つに纏まりクロノスの放った一撃をあっさりと吹き飛ばした。
「馬鹿な!?
あれが全て本物だといのうか!?
そうか、そういうことか。
セーラスがまたも力を貸したか…」
なすすべなくタルトの放った巨大な魔力に飲み込まれていくクロノス。
そして、上空で星が爆発したかのような閃光と爆音が世界中に広がる。
人々は何が起きたか理解出来ないが、ただ聖女を信じて祈りを続けた。
「どうなったの…?」
オリジナルのタルトが不安そうに空を見つめている。
爆発の余韻も消え、辺りには静寂が戻る。
空は青く晴れ渡りクロノスの姿は確認できない。
だが、弱まってはいるは気配は感じるため油断せずに警戒する。
「わわっ!?
何か急に光りだした!」
タルトの胸元が急に光を放ち始めたのだ。
驚いているのはオリジナルだけで、残りのタルトはニヤニヤしていた。
すると、目の前にぼやっとした人影が輪郭がはっきりし女性が現れた。
その姿は見覚えがある。
「女神様!」
「ええ、初めまして…ではないわね。
心の中で会ってばかりだものね」
「でも、封印されてたんじゃ…?」
「貴女のお陰で封印が弱まったので解くことが出来たのよ。
本当に感謝してもしきれないわ」
「そんな私なんてっ!
それより、まだ油断出来ないですよ」
「それは私に任せて。
彼は霧散してこの空間のあちこちにいるようなものね。
精霊と同様に完全に消滅することはないわ。
だから、こうして…」
セーラスが両手を空に向けて万歳をする。
すると、何かが渦を巻いて一点に集まってきた。
それはやがて小さな金属の彫刻のような物に変化する。
「先程の攻撃で彼の力は大きく弱まったので、封印しました。
このまま暫く反省して貰いましょう。
彼が弱まった影響で私も自身の封印が解く事が出来ました」
戦いが終結したと思われ仲間が駆け寄ってくる。
その中でジルニトラだけは女神セーラスの前で深々とお辞儀をした。
「ご無沙汰しております、セーラス様。
まさか再びお会いできるとは思いもよりませんですじゃ」
「歳をとったわね、ジルニトラ。
貴方はいつも私の味方をしてくれてました。
今回もタルトを陰ながら支えてくれたみたいで嬉しいわ」
「それはここにいる孫が望んだことです。
後はここにいる者達が努力した結果ですわ」
リリーはじっとセーラスを見つめている。
「龍人も変化が起きてるのですね。
タルトを中心に良い影響が広がったのでしょう。
まさか、天使と悪魔が共闘する日がくるとは夢にも思いませんでした」
そこには大天使やシトリーらタルト配下の悪魔、ルシファーが肩を並べているのだ。
そして、視線はオスワルドへと移る。
「貴方がオスワルドですね」
「はっ!
女神様にお声掛け頂き光栄です」
「そんなに畏まらないで。
私は何も出来なかった無能な女神です。
それに貴方は人間の可能性を広げてくれました」
「私が…ですか?」
「ええ。
貴方はタルトに出会い、心を入れ替え、その献身的な行動は人間という種族の評価を大きく変化させました」
「それは全て聖女様の導きです」
「そうではありません。
貴方のこれまでの努力は皆が知っております」
楽しそうに話す女神であったが、横から邪魔が入る。
沢山いるタルトの一人であった。
「あの女神様っ!
私はそろそろ時間がないので、しゃべらせてください!」
「あらあら、そうだったわね。
お先にどうぞ」
「私も早く聞きたかったですよー。
何で私がいっぱいいるのか混乱してるんですから」
オリジナルのタルトもソワソワしていたのだ。
「いーい、私。
大切なことだからちゃんと聞いてね。
私はああぁぁ…」
言葉も終わらず光の粒子となって消えていった。
「やっぱり間に合わないんだねー。
ちょっと違うけど、いつも結果が同じだもんねー」
横にいたタルトが予期してたかのような事を話す。
「私が余裕あるから説明するねー。
ここにいる私達は未来から来たんだよー」
「未来!?
じゃあ、未来の私自身ってこと?」
「そうだよー。
さっき消えちゃったのが一番先の未来から来た私だね。
遠い未来ほどいられる時間が短いんだよ」
「あっ、そろそろ私も時間切れみたい。
じゃあねー!」
隣にいたタルトが同じように光の粒子となって消えていく。
「こんな感じだね。
女神様の助けも借りて一週間ごとに過去に行かなきゃ行けないわけだよ。
そうじゃないと結果が変わっちゃうの。
だから、絶対に忘れちゃ駄目だからね」
「えぇーと…。
つまり、一週間ごとにさっきみたいに手伝えば良いんだね?」
「そうそう、やり方は女神様が教えてくれるから心配しないで」
その間にもどんどんタルトが未来へと帰っていった。
「次は私のようだね。
他の未来の事は話せないけど頑張ってね!」
「うん、ありがとう!
お互いに頑張ろうね!」
そして、未来から助けに来たタルトは全て帰っていったのだった。




