26話 金策
再び、オスワルド邸の客間。
町の収入を増やす為に特産品を作ろうとお茶会を開き話し合っていた。
「聖女様のご指示通り新しい特産品の試みをいくつか試しております。
まずは武器の生産ですが量産品の作成は可能ですが原材料の鉱石が不足しております。
次に布生地ですが、水車を利用した紡績機の試作機が完成したそうです。
人手より圧倒的に早く生産できる見込みです。
原料の綿も拡張した畑で栽培を試みています。
最後に香辛料ですが森で集めた種を畑で栽培を試みてます。
教えて頂いた肥料を与えることで順調に育成中との事です」
オスワルドは各方面からの進捗を取り纏めて報告した。
この中で期待しているのは武器と香辛料である。
この世界では製鉄技術が国が管理している事から流通も少ないが需要は多いことから高額となる。
防衛でも使用するためある程度は出回っているが、反乱を起こさせないため制限をしている。
そのせいか粗悪品も多い。
量産品でも十分売れる見込みはある。
それ以上に期待出来るのは香辛料だ。
前の世界でも昔は金と同等の価値があったらしい。
ここでも流通量が少なく高額で取引されている事から本命と考えられている。
「どれも順調で良かったよー。
今は少しずつだけど儲かったお金で色々な設備を作らないとね。
もっともっと町を大きくして人を受け入れたいしね!」
「聖女様、生産に目処が立ちましたので商売の話を進めたいと思います。
我が領地で一番の商人をお呼びしましたので参加させても宜しいでしょうか?」
「もちろんですよー。
その道のプロに任せた方が良いもんね」
執事に指示を出すとすぐに丸々と恰幅のよい男性が入ってきた。
身なりは良く太っている所をみると、商売の手腕は中々なのが分かる。
太ってるということは儲かっており、贅沢な食生活だからである。
だが、タルトの第一印象は(あっ、この人トルネコに似てる)であった。
「初めまして聖女様。
この度はお目通りありがとうございます。
ワシはこの町で商いをしておりますマイルズと申しますぞ」
「タルトです。
こちらこそ宜しくお願いしますね!」
ここで改めてオスワルドから現状を報告した。
「以上が現状となります。
マイルズよ、お前の考えを聞かせて貰えるか?」
(こうやって見てるとオスワルドさんて、良い領主に見えるよねー。
最近、町の女の子の間では人気あるらしいよ)
「そうですな……。
武器に関しては卸す量は気を付けた方が良いですぞ。
大量に作ってるのが、国に知られれば警戒されると思われます。
王都の方にも供給し謀反の気がないのを示すのも良いですな。
尚、原料の鉱石については、こちらで手配致します」
(商人て皆、髭を生やしてるのかな?
やっぱり武器はソロバンだよねー)
『マスター、変な事を考えてないで真面目に話を聞いてください!』
「あと気になるのは香辛料ですぞ。
種類によって非常に高額で取引しておりますが、栽培に成功した例はありません。
需要と希少性も踏まえて何を作るか考える必要がありますな」
(そもそも正義のソロバンって素材なんなのよ?
木じゃすぐに壊れそうだしなー)
「確かにすぐに栽培できては、希少な訳がないか…。
聖女様はどのように思いますか?」
(うぅん…鉄だと重いし、正義っぽくないよね。
輝くような素材が良いかなー)
「…聖女様?」
「えっ?あっ、すいません。
ちょっと考え事を…」
「これは失礼しましたっ!
思考を邪魔するとは考えが足りませんでした」
「いえっ、そんな大した事でも」
『ほら、マスター言ったじゃないですか』
(リアルトルネコだよっ!
色々と妄想したくなるじゃん)
「そうですね、武器の卸しについてはお委せします。
香辛料は希少で需要が多いものを教えてください。
栽培方法はこちらで調べますので」
「さすがは豊穣の女神様ですな!
すぐにでも資料に纏め報告させて頂きます」
「頼んだぞ、マイルズ。
聖女様の期待を裏切るんじゃないぞ」
「お任せください!
こんなに胸が踊るのは若いとき以来ですぞっ!」
これで生産から販売までの目処がたってきた。
当面の進め方を話し合った。
これからの事を考えるとじっとしていられなくなったマイルズであった。
早速、行動に移ることを伝え、部屋を出ようとした。
しかし、ドアを出る前にある事を思い出した。
「そういえば来る途中に水車なるものを見ましたが、人の手でなく水を動力とするとはすごい発明ですな。
生産効率が全然違いましたぞ」
「ぜひ他の所にも広めてくださいね」
「新しい技術も惜しげもなく平等に教えてくださるとは…。
商人としては惜しいですが人としては浅はかな考えのワシは恥ずかしい。
さすがは知恵の女神様ですな」
「えっ!?
そんな名前もあるんですか?
一体、いくつ増えたんだろう…」
そのままマイルズは急いで出ていき、準備に取りかかろうとしていた。
「さて、私もそろそろ帰ろうかなー」
「おおっ!
そんな事をおっしゃらずにごゆっくりしていってください!」
「用事も済んだし、戻ってお風呂に行く約束もありますから」
「なんとっ!
聖女様の入浴した姿を想像しただけで天にも昇る思いです!」
「やめてっ!!
なんか聞いただけでゾワゾワしてきちゃうっ!」
「ああぁ、その汚物を見るような視線は癒されますなっ!」
タルトはやっぱりこの人は駄目だと改めて思うのであった。
(でも癒しか…。
銭湯を作ったけどもっと娯楽があってもいいかな)
そんな事を考えながら急いで帰路につくのであった。
すぐにでもその場を離れたかったのである。




