268話 希望
クロノスと対峙しているが、どの時間まで戻れたのか分からない。
「良いだろう。
奇跡とやらを起こして貰おうか」
この台詞ですぐに理解した。
躊躇せず行動を起こす必要があることを。
この後に仲間が異次元に飛ばされてしまうのを防ぐ必要があるのだ。
そも為に時間を遡ったのだから。
「ええい!!」
言葉が終わるのと同時くらいにクロノスをステッキで殴り掛かる。
「愚かな。
まだ、攻撃が効かぬというのが、むぅっ!?」
言い終わるより速くタルトの一撃がクロノスを捉える。
以前と違い攻撃が通過せず防御を行う。
「当たった!」
防御はされたが当たることに喜びの声をあげるタルト。
「馬鹿な!
高次元にいる私に何故、届く?
むっ、僅かだが懐かしい波動を感じる。
そうか…。
セーラスか、彼女が力を貸しているのだな」
すぐに理解し冷静に戻る。
「その武器。
先程までと違い、高次元の存在となっている。
それに時間が操作された痕跡もある。
タルトよ、彼女に会ったのか?」
「ええ。
そして、あなたを全力でひっぱたいてとお願いされました」
「そうか…今でも私を否定するのか…。
まだ、完全に封印が解けたわけではないようだ。
ならば、彼女の希望を打ち砕き、再び眠ってもらおう」
クロノスは初めて構えを取る。
今までと違いタルトを脅威と認めたのだ。
(タルト。
タルト、聞こえますか?)
(女神様?)
そんな時、タルトの心に直接、声が届いた。
(もう一つだけ今の私が出来る支援しますね)
その後に起こった事は、この世界に逸話として残るであろう。
この世界に生きるもの全ての心に声が届く。
『この世界の生命ある者よ。
しばし私の声に耳を傾けてください。
私の名はセーラス。
古の時代には女神とうたわれていた者です。
今、貴方達が未曾有の脅威にさらされていて、小さな少女が希望を背負い立ち向かっていることは知っていますね。
その少女、貴方達が聖女と呼びしタルトが危機に陥っています。
今こそ聖女助け、危機に皆で立ち向かう時です。
難しい事は必要ありません。
タルトを信じて祈るのです。
その想いが彼女に更なる力を与えるのです。
皆の心が一つになれば脅威に打ち勝つ事が出来るでしょう。
突然現れた私の事を信じられなくてもタルトを信じれば良いのです。
貴方達の可愛い小さな女神様を信じ、自ら未来を勝ち取るのです』
はっきりと優しく心に語りかけてくる声。
人々は動きを止め、その声に耳を傾けていた。
場所はウェスト・アングリア王国。
女神の声にいち早く答える者がいた。
「皆の者、聞こえたでしょう!
全ての仕事をやめて祈るのです!
我らが聖女タルトの為に!」
玉座を立ち上がり、号令をかけるのは王女アンであった。
タルトの親友である彼女は自らも膝を地につけ祈りを捧げる。
その姿をみた配下は続いて祈りを捧げていく。
人々からは小さな光が飛び出し空へと飛んでいった。
その後の光景は永遠に語り継がれるであろう。
世界のあちこちで発生した光が世界を包み、タルトへと注がれる。
「なんだろう…凄い暖かい。
優しい気持ちが胸の奥から溢れてくるみたい」
タルトは目を閉じ、人々の想いを感じていた。
「美しいデスワ…」
シトリーら、その様子を見守っているが、そこが戦場と忘れてしまうくらい、その光景に見とれいていた。
光が最高潮に達し、目も眩み白の世界に包まれたが、やがて収まってきた。
「すごい…。
すごい魔力がどんどん溢れてくる!」
喜ぶタルトの姿にも変化があった。
髪色は元々、綺麗な金色であったが更に輝きが増している。
背中にある翼のモチーフは実際に光で出来た翼が生えているようだ。
他にも細かいところに変化があり、一言で言うと神々しく変化したのである。
「彼女の希望や絆を力へと変換する権能か。
本当にそなたは本当に人間か?
何故、それだけの力を得ることが出来たのだ?」
「私はどこにでもいる普通の女の子です。
勉強も運動も苦手で得意なものも特にない普通のですよー。
テストだって一回も100点とったことさえないんですから。
むしろ平均点より低い方が多いかも…。
それに得意なものといえばアニメとかサブカルに詳しいくらいのちょっぴり残念な子なんです。
でも、貴方に勝つことは出来る。
それは私ではなくみんなが力を貸してくれるからです。
みんなの希望を力に変えて貴方を倒してみせますよー!」
「だが、既に世界中の力を集めたということは、これ以上の強化は出来まい。
その希望を絶望に変えて打ち砕いてやろう。
最早、この闘いに参加できるものなど存在せぬ。
邪魔者もいない本当の一対一の闘いになるだろう」
「それは違いますよー。
私は一人ではなくみんなに支えられているんです。
一人だったらリーシャちゃんにも負けちゃいますから」
そういって笑顔で答える。
「良いだろう。
世界が相手でも神には勝てぬことを教えてやろう。
さあ、どこからでも掛かってくるがいい!」
タルトはステッキを構え、無数の魔力弾を打ち出す。
「いくよー!」
それと同時に自らもステッキを振りかぶって突っ込んでいく。
「無駄だ」
クロノスが手をかざすと空間が歪み、魔力弾が消えてしまった。
時間を戻す前に見た異次元へと飛ばされたのだろう。
それがタルトの進行方向も空間が歪む。
「それくらい分かってますよー」
予見していたかのようにくるっと回転して、その空間自体を回避し、クロノスへステッキを叩きつける。
だが、右腕でガードされてしまった。
「それも視えてますから!」
タルトがそこ場から離れるとタルトの背後に隠れていた魔力弾が飛び出す。
クロノスに直撃し爆発が起こる。
「どうですか。
ガンガンいっちゃいますよ!」
意気揚々のタルトに対し、爆発が収まりダメージが入っていないようだが無表情のクロノス。
「確か未来予知が出来るのだったな。
中々、面倒な能力だ」
「もう降参してくれればちょっとお仕置きで許してあげますよ」
「降参?
まさか、私が敗けるとでも思っているのか?
未来予知は少し厄介だが特に問題はない。
それに今の攻防で確信したわ。
そなたでは勝つことが出来ぬ」
「何を根拠に言ってるんですか?
まだまだこれからですよー」
「気付かぬか。
そなたは絆の力で確かに強くなったが、まだまだ神には届かぬ。
おおよその見立てだが私を10とするとそなたは3といったところだな」
「そんなおどしになんか屈しませんよーだ!」
「では、分からせてやろう」
クロノスは手のひらをタルトに向けた瞬間、衝撃波が襲う。
「うそっ!?」
回避も出来ず抗う事も出来ずにそのまま吹き飛ばされ地面へ激突する。
「いてて…」
よろよろと起き上がるタルト。
「これで理解できたであろう。
今のが5割程度の力だ。
世界中の人々から集めても、その程度だったということだ。
さあ、終わりにしよう。
久しぶりの闘いに興じて楽しませた褒美として、全力の一撃で送ってやろう。
回避出来ないよう一帯を吹き飛ばしてな」
クロノスの頭上に光の球体が現れたかと思ったら、みるみる大きくなっていく。
『マスター!
クロノスの言うことはハッタリではありません!
あの魔力の嵐のようなモノからはマスターの全魔力量の倍以上と測定されてます!』
「それはどうしたら良いんだろう…?
みんな信じてくれているのに何も出来ないのかな…。
やっぱり私みたいな普通の女の子じゃ無理なのかな…」
悔しさと諦めたくない気持ちでいっぱいのタルトはステッキを力一杯握りしめる。
その場にいるのがこの世界の最高戦力が揃っているが、今のタルトとはレベルがかなり劣っている。
つまり、タルトが勝てないということは誰も助けられず敗けが確定するのだ。
無情にも刻々とその瞬間が近づいてくるにであった。




