262話 本当の私
タルトも自分のコピーである影と対峙していた。
だが、他の者とは様相が全く異なっている。
「あなたは本当の私なんだね…」
対峙した瞬間、すぐに気付いた。
目の前にいるのは只の女子中学生である自分だ。
勉強も運動も苦手なごく普通の女の子。
魔法少女になる前のタルトである。
見た目はそっくりだが魔法少女でない本来のタルトがコピーされたのであろう。
影は必死にタルトに対して攻撃を仕掛けるが、非力な攻撃は今のタルトにとって何も意味をなさなかった。
「そう…この力は皆がくれたものだから。
ウルを失ったときに痛いほど感じたもん…」
攻撃を受けながら本当の自分自身を見つめ直していた。
そして、魔法少女としての力は皆を守るために使うのだと改めて決心する。
「もう行かないと。
きっと皆が待ってるから」
タルトが放った魔力弾によってタルトのコピーは霧散していく。
それと同時に周囲の暗闇が消えていき元の雪原へと帰ってきた。
「皆はどこだろう?」
周囲を見渡すが死の王とクロノス以外は見当たらない。
おそらく自分と同じように異空間のような場所で自分自身との戦いをしていると思い至った。
「これは不味いかな…。
皆は努力して自分で得た実力だもんね。
そんな相手とだと苦戦するのは当然だもん」
タルトは目を閉じ意識に集中すると見えないがはっきりと絆のパスを感じた。
「さあ、助けないと。
精霊たち、力を貸して!
全属性付与!」
その頃、桜華は全力で奥義を連発し、刀と刀が衝突する金属音が響き渡っていた。
同じ実力の相手との闘いは桜華にとって久しぶりであり、ここまで決着のつかないのは初めてである。
そんな状況を心から楽しんでおり、更なる成長を目指していた。
そんな時に身体の変化に気付く。
「これは…。
この内から湧き出るような力は以前にも…」
すぐにタルトの仕業だと理解する。
そして、対峙している自分自身へと話しかけた。
「てめえは確かに強かったぜ。
おそらくうちが辿り着く可能性の一つなんだろうなあ。
だが、うちには小さな女神様がついてるんだぜ。
そして、一人では辿り着けないところに手が届いたんだ…」
返事がないことは分かっているが、ある意味で自分自身へ言い聞かせていた。
桜華の持つ刀から七色の花びらが舞い散る。
様々な属性を帯びた魔力で出来た花びらである。
「終の太刀、百華繚乱」
同時7回の残撃と舞い散る花びらによる攻撃に影はなす統べなく霧散していく。
同時に周囲の暗闇も晴れていった。
既に自分自身との戦いを終え、戻ってきている者がタルトの元へ集っている。
桜華もすぐに駆け寄っていった。
「おお、無事だったんだな!
タルトの支援のお陰で楽勝だったぜえ」
「桜華さん!
楽勝だった割には傷が多くないですか…?」
「こんなもんは傷のうちに入らねえよ。
寧ろタルトの方が苦戦してると思ったんだけどなあ」
「ははは…本当の私は弱っちいですから。
とにかくすぐの治癒しますね」
治癒魔法を手傷を負った者に掛けていく。
あっという間に全員が万全の状態に戻り、死の王と再び対峙する。
「あなたの罠は突破しました。
もう諦めて降参してください!」
タルトは代表して死の王と交渉する。
骸骨の為、表情は分からないが死の王の目の窪みの奥が怪しく光った。
「笑止。
自分自身を倒したくらいで調子に乗るな。
所詮、神の前では有象無象に過ぎん。
次は人形とでも踊るが良い」
周囲の地面からおびただしい数のアイアンゴーレムが現れた。
「うわわわっ!
すっごい出てきた!」
「ケツアール殿、羅刹殿、桜華、ジルニトラ殿、リリー、セリーンはゴーレムを足止めでいきマスワ。
リリスとカルンもワタクシと一緒にゴーレムを相手デスワ。
その間にタルト様、大天使、ルシファーにて死の王を止めてクダサイ。
奴を止めなくてはキリがありマセンワ。
それとオスワルドはタルト様の護衛をシナサイ」
「良い采配じゃネエカ。
飛んでる相手は天使や悪魔が適任だろうシナ」
シトリーの指示にルシファーが同意を示す。
出現する敵を各個撃破は可能だが、あとどれくらいの増援が残されているか分からない。
無限であるならばいつか、こちらがちからつきてしまう可能性があるので元を絶つ方が最善との判断からだ。
「みなさん、気を付けてください。
絶対、生きて帰りましょうね!」
タルトの笑顔に皆が頷いて返す。
ゴーレムを任された側が四方に散らばっていく。
個々が強く特に連携が得意ではないので自由に戦った方が成果が出る。
慣れない共闘は実力を制限しかねない。
唯一、シトリー、リリス、カルンは三人で行動し役割分担で各自の長所を活かしている。
タルトからの加護として属性付与も残っており、アイアンゴーレムでは相手にならないのだ。
特に羅刹、ケツアール、ジルニトラ、リリーはずば抜けており、どんどん撃破していく。
だが、どれだけ倒しても地面から増援が現れてくる。
やはり元を絶たねばキリがないようだ。
「さあ、私たちも頑張りましょう!」
掛け声と共にタルトが巨大な魔力弾を死の王へ目掛けて放った。
しかし、衣の内側の闇に吸い込まれ消えていったのである。
死の王は黒い衣を纏った骸骨であり、顔と衣から出ている手が見えるだけで胴は漆黒の闇となっており、足はなく浮いているデザインとなっている。
次々と大天使達が魔法を放つが全て闇に飲まれていく。
「うそおーーー!
チート過ぎだよー!」
その様子にタルトも不満を言ってしまう。
「ジャア、こんなのはドウダイ?」
ルシファーが背後に回り残撃での物理攻撃を仕掛ける。
不意を突き避ける素振りも見せないため、完全に捉えた。
横に薙いだ一撃は衣を胴体ごと切断したように見える。
「馬鹿ナッ!」
なんと切断箇所が一瞬で元通りになったのだ。
「全て無意味。
存在そのものが闇であり全ての攻撃を無効化出来るのだ。
諦めて死を受け入れるが良い」
死の王が倒せないことにはゴーレムも消えずにジリ貧だ。
いつか体力が尽きた時に負けるであろう。
それにまだクロノスは動いてさえいないのだ。
「オイオイ、こんな奴どうやって倒せばいいんダア?」
「悪魔の王がぁ弱音を言うのぉ?
倒すしかぁ選択肢がないのよぉ」
「冗談に決まってるダロ。
全くガヴリエルには敵わねえナ」
冗談を言いつつ思考は常にフル回転で状況を観察し、事態の打破する糸口を探すのであった。
「これまでの清算をしなくてはな。
全てを掛けて道を切り開こう!
浄化の光!!」
上空からの光の柱が死の王を包み込む。
ミカエルの奥義であり敵を強大な光の魔力によって消滅させる。
事実、光の柱が消えるとそこにあった全ての物質が消滅していた。
「やったか…?」
ミカエルは何もないが圧倒体な気配が残っていることから警戒を解かずにいると漆黒の渦が現れ死の王が元通りになる。
存在感は変わらずあることからミカエルの奥義でさえ効果がなかったのである。
これはその場の者を絶望に突き落とすには十分であった。




