258話 融合
各地で苦戦を強いられる中、違う意味で苦戦している者もいた。
ミドルに操られたミカエルと闘っているルシファーである。
大昔よりミカエルとルシファーは同等の力を有しており、決着したことはないのだが今回は明らかにルシファーが優勢であった。
「何故、敵わぬのだ!?
ミカエルは天使で最強なはずなのに!」
「そんなことも分からねえノカ?
身体を乗っ取ったとしても技術がネエ。
俺様のように実力が同じ場合は差が出ちまうノサ」
優勢ではあるがルシファーは困っていたのだ。
実はタルトからミカエルを殺さないように頼まれていたのである。
有利に闘っているとはいえ、どうしたらミカエルを救えるかは検討も付かなかったのだ。
「お前、手加減しているな…?」
「俺様がテメエ程度に本気を出す必要はねえカラナ」
「…もしかして、殺す気がないな?
今までの攻撃は致命傷になるようなものはなかった」
めんどくさいことになった、とルシファーは心のなかでぼやく。
「悪魔の王たるお前が甘くなったものだ。
攻撃する気がないなら防御はいらないな」
ここからミドルの動きが変わった。
一切の防御を捨てて攻撃に転じたのだ。
しかも、肉体が壊れることに躊躇いがないように限界を超えた動きにより今まで以上のスピードとパワーへと変化する。
「チッ!
調子にのるんじゃネエ!」
余裕がなくなったルシファーも全力で相手をする必要が出てきた。
早くタルトが復活しないか、心のなかで愚痴が止まらない。
その頃、タルトは全力で階段を駆け降りていた。
その後ろをシトリーを背負う兵士がピッタリと付いてきている。
「ここだ!
もうすぐですから皆待っててくださいね」
最下層に到着し封印されていた扉をくぐると部屋の中が明るく照らされている。
部屋の中央に光の大元である光の精霊がふわふわと浮いていた。
『待っていたよ。
ここで君の精霊を助けてあげるね』
(ウンディーネさんから聞いたけどウルを助けるのにウィル君と一つになるって聞いたけど…。
本当にそれで良いの…?)
『一つになるだけで死ぬわけではないよ。
それに僕が君の助けになりたいんだ。
平和な世界を取り戻してね』
(ウィル君…。
そうだね、これからは一緒に頑張ろうね!)
するとタルトより次々と色鮮やかな光が飛び出した。
水、土、火、風の精霊がタルトを取り囲む。
その中で水の精霊であるウンディーネが優しくタルトに話しかけてきた。
『よく来てくれましたね、タルト。
さあ、貴女の世界から来た光の精霊を復活させます。
私達の力も出来るだけ融合させますので、もうクロノスに消去されることはないでしょう』
白、青、茶、赤、緑と五つの光が回転しながらタルトへと飛び込んで消えていく。
一瞬、部屋が真っ暗な闇に包まれたが今まで以上の光がタルトから溢れてくる。
「熱い…胸の奥が熱い…。
でも、痛くないし優しさを感じる…」
そして、ポッカリと空いた穴が埋まる感じと共に懐かしい声が聴こえる。
『マスター…。
意識がない時の記憶は融合した精霊から得られました。
心配を掛けてすいませんでした』
(うんうん、ウルが元に戻ってよかったよ!
あれ…名前はウルで良いのかな?)
『ええ、ベースはウルのままですが、マスターがいうウィルでもあります。
お好きな方でお呼びください』
(うぅーんと…やっぱりウルのままにしとくね。
さあ、また力を貸して。
皆を助けないと!)
『ええ、行きましょう。
マスター』
タルトから発せられる光は更に増していき様々な色を発している。
全てが光に包まれ何も見えなくなった。
やがて、光が収まると部屋の中心には魔法少女になったタルトだけが残されている。
今までと違いタルトからは光が発せられキラキラと小さな星が落ちて消えていっているようだ。
宙に浮いたままシトリーへと近づく。
「すぐに治しますからね」
ステッキをかざすとシトリーの傷はあっという間に癒えていく。
そして、目を開けて自分の足で立ち上がった。
「タルト様…ご無事で安心しまシタワ。
それにすっかり元通りにならレテ…」
跪き頭を下げるシトリーにタルトは溜まっていた想いをぶつける。
「シトリーさんの馬鹿あああ!
すっごい心配したんですからあぁ!」
「タルト様…」
涙ぐんだままシトリーの胸に飛び込むタルト。
シトリーは優しく抱き締めるのであった。
「もう無茶しちゃ駄目ですからね。
それに私は負けませんから!」
「エエ、もう離れないと誓いマスワ」
「もうちょっとこうしてたいんですけど、そろそろ助けに行かないと」
名残惜しそうにシトリーから離れるとタルトは入り口の方を見て、付いてきてくれた兵士に声をかける。
「私達は急いで戻りますので皆さんはゆっくりときてくださいね」
「聖女様の復活、おめでとうございます!
我らに構わずお行きください。
足手まといにならぬよう後から行かさせて頂きます」
「さあ、シトリーさん。
行きましょう!」
タルトとシトリーは物凄い速度で飛行しながら地上を目指す。
僅か数秒で地下への入り口から飛び出た。
そこにはオスワルドが血だらけになりながら悪魔達と死闘を繰り広げている。
「オスワルドさん!」
「聖女様!!
そのお姿は!
復活されたのですね!」
「今、治癒します。
それとシトリーさんはサポートお願いします!」
一瞬でオスワルドを治癒させるとシトリーに任せてルシファーの元へと急ぐ。
ミドルはすぐに異変に気付き、攻撃を止めて神殿の方を確認する。
それと同時にタルトが二人の元へと着いたのであった。
「遅えゾ、嬢チャン。
だが、前より遥かに強くなったみてえダナ」
「ルシファーさん、約束を守ってくれてありがとうございます!
後は私に任せてくださいね!」
するとルシファーは剣を鞘に納めた。
これを見たミドルは激昂する。
「何故、剣を納める?
人間一人でこのミドル様と闘うだと!?
すぐに後悔させてやろう。
ミカエルとひとつになった私の力を」
ミドルは怒りに身を任せ全力の一撃をタルトへ叩き込む。
だが、タルトはその一撃をあっさりと躱し、懐へ飛び込んだ。
そして、軽く掌底をミカエルの胸へ打ち込むと波動が起こり黒い靄のようなモノが飛び出る。
(馬鹿な!?
ミカエルから引き剥がされただと!?)
それはミドルそのものであり、解放されたミカエルは意識を失い地面へと落ちていった。
「ヨウ、会いたかったゼ。
もう遠慮は要らねえようダナ」
ミドルの後ろにはいつの間にかルシファーがいる。
(くそっ!
こうなったらお前を乗っ取ってやる!)
次はルシファーを狙い襲いかかってきた。
「もう終わりダ。
もと来た闇へと戻るんダナ、深淵」
完全な球体であり全ての光を吸収する純粋な黒色の物体がミドルを包み込む。
(なんだこれは!?
何も見えないぞ!)
「影であるお前が真の闇に飲まれるなんて笑えるダロ?
さて、おしゃべりはここまでダ。
これで消エロ」
ルシファーが指を鳴らすと黒色の球体が縮んでいき完全に消えてしまった。
「それにしてもお嬢チャン。
強くなり過ぎダロ。
俺様が苦労していたのが馬鹿馬鹿しくナルゼ」
「これは皆がくれた力です!
さあ、皆を助けに行きましょうか!」
「しょうがネエナ。
最後まで付き合ってヤルゼ。
神って奴にも文句言いてえシナ」
待ち望んだタルトの復活と最難関と思われたミカエルの攻略を終えることが出来た。
ただ、想定外であるガヴリエルが戦闘中の最強の龍人、赤帝が残っている。
その超越した実力は比較にならず、今までの勝利を引っくり返すのも容易であろう。
未だに暗雲からは抜け出せていないのであった。




