257話 苦戦
フォアと熾烈な戦いを繰り広げているのは羅刹、ケツァール、雪恋である。
攻撃したエネルギーは全て吸収され返されてしまう。
防御無視で戦っており、羅刹はひたすら耐えて、ケツァールは再生により互角のように見える。
「再生が少し遅くなってるんじゃないのか?
その程度で音をあげはせぬだろうな?」
羅刹はケツァールに対し皮肉を言った。
「見た目がボロボロの主に言われとうないわ。
まさか、もう耐えるのは限界とは言わないだろうな?」
ケツァールも負けじと皮肉を言い返す。
「お二人とも冷静にお願いします!」
見かねた雪恋は遂に凄い剣幕で二人を叱ったのである。
「鬼の子よ。
主こそ怒るでないぞ。
余はいつでも冷静だ」
「それでは落ち着いて聞いてくださいね。
私はお二人の闘いを見ていて気付いたことがあります。
奴が攻撃を吸収すると腕が僅かですが一瞬肥大化するのです。
それは反撃をすると元に戻るのでエネルギーが蓄積されることが起因だと考えられます」
「見えてきたぞ。
主の狙いは蓄積には限界があると言いたいのであろう?」
「そうです。
ですが、それには反撃させてはいけません。
とにかく奴に反撃させずに吸収だけをさせなければいけません」
「それくらい一人で余裕だ。
限界値を超えるほどの攻撃をすれば良いのだろう?」
「今までに放った大技では足りないようです。
思うにお二人が協力しなければ無理です」
「ケツァールと協力だと!?」
「余も気に入らんな」
「敗北よりましではないですか?
僭越ながらお二人が指示通り動いて頂けるなら勝ち目があると思います」
ここで二人は顔を見合わせる。
長年、ライバルとして思っていた相手と協力するのは気に食わないが、敗北はもっと嫌だったのだ。
「良いだろう。
一度だけお前を信じてやろう。
桜華は小さい頃より誰よりもお前に信をおいていたな」
「ふむ。
あのタルトの采配を信ずるとするか。
実力に劣る主をここに付けたのは、こういう意味であったのであろう」
「お二人ともありがとうございます!
良いですか、作戦はとても簡単です。
それは…」
雪恋より作戦を聞いたふたりはすぐに行動に移す。
まず動いたのはケツァールだ。
「これにどれだけ耐えれるかのう。
真神ノ雷!」
魔力を用いた最大級の雷を発生させフォアを中心に巨大な渦を発生させた。
その中に囚われた者は常に激しい電流にさらされるのである。
そこへ羅刹も飛び入りケツァールと共に息の合った連撃を繰り出していく。
そう、今までの無秩序に好き勝手に攻撃していたのとは違い、連携することで反撃の隙を与えないのだ。
それにより雷の常時ダメージに二人による激しい攻撃も加わり、みるみるフォアが肥大化していく。
「そのまま続けてください!
限界は近いはずです!」
限界はすぐに訪れた。
フォアの両腕の肘辺りが急に爆発したのだ。
今までの観察にて手の平から吸収していた為、今が最大の好機である。
「雷よ!
集まりて龍と化せ、神ノ龍!」
周囲に覆っていた雷の嵐が一つに集まり龍を形作った。
それは触れるモノ全てを炭と化すほどの威力を秘めており、光の速度でフォアを貫いた。
吸収出来ずに形を残したまま炭と成り果てる。
「今までに蓄積されたエネルギーを返されていたら敗北しておったの。
上手く事が運んで何よりだ」
ケツァールは攻撃中、薄氷の上を歩いている気分であった。
一瞬の油断でフォアが限界まで溜めたエネルギーを返されていたかもしれないのだ。
勝利したとはいえ最高戦力である二人がここまで手傷を負い、疲労していたのは予想外であった。
各地で勝利を手にする一方、窮地に陥っている場所もあった。
サードの術に嵌まったウリエル、桜華、リリスである。
重力を操るサードによって動けなくなっていた。
そんな桜華に対し、ゆっくりと近づき巨大な刃を振り上げる。
「全く動けぬ!
鬼の娘よ、自力で回避せよ!」
ウリエルほどの鍛えられた肉体をもってしても重力に逆らって一歩も動けない。
三人とも術中に嵌まっている状況では助けは期待出来なかった。
「ふっ!」
桜華は口に含んでいた仕込み針をサードの顔めがけ吹き出す。
不意を突かれたサードは目を庇うように避けた途端、体が軽くなり桜華は後方へ全力で回避した。
「危なかったぜえ。
どうやら目を閉じると解除されるみてえだな」
再び距離をとり三人で作戦会議する。
「視認されるのは関係なく一定の距離内は奴の術中のようだな」
「ジャア、遠隔で攻撃すればいいじゃネエカ」
ウリエルに同意するようにリリスだが、ふと三人でお互いの顔を見合い、あることに気付いた。
ウリエルが得意なのは体術を用いた肉弾戦、桜華は剣術を用いた近接戦、リリスも毒と併用した肉弾戦である。
誰も遠隔で攻撃手段を持たない。
全くないわけではないのだが、サードに通じるようなものはないのだ。
「何だこの組み合わせは!
バランスが悪いではないか!」
「お前も天使なのに何で肉弾戦なんだよ!」
「詰んだナ…」
ギャーギャーと文句を言い合っているとサードから接近してきた。
「不味いな、全員散らばって距離を取れ!」
ウリエルの合図に会わせ一気に走り出す。
幸いなことに三人ともサードよりスピードがあり、距離を保つことに成功している。
「リリス、ひとつ頼みがある。
例のをやってくれねえか!」
「良いノカ?
一定時間がたてば暫く動けネエゾ!」
「ああ、分かってる。
でも、これしかねえと思うんだ。
あと、天使のおっさん!
少し時間を稼いでくれ」
「勝機はあるんだろうな?
そんなに長くは抑えてられんぞ!」
ウリエルは地面から石を拾い全力で投げつける。
巨大な石をも貫く威力だが、サードには見切られており難なく回避されてしまう。
だが、回避行動に専念し動きは封じていた。
「桜華、いくゼ!
無茶すんナヨ!」
リリスの爪が桜華の肩に突き刺さる。
次の瞬間、体内に焼けるように熱くなっていくのを感じた。
これは限界を超える能力を引き出す毒であり、一定時間しか効かない。
その後は副作用と酷使した肉体により動けなくなる諸刃の剣のような毒であった。
「百華剣よ…仲間を守るために力を貸してくれ」
刀を抜き放つと美しい花びらが舞うような錯覚が見えた。
そして、体勢を低く下段に構える。
「一撃で終わらせるぜ。
影桜一閃!」
一筋の光と少し遅れて花びらが舞う。
桜華の姿が消えてサードの後方へ現れた。
そのまま倒れこむ桜華の方へ振り返るサード。
「駄目だったノカ…?」
静寂が訪れたがすぐに破られた。
巨大なサードの上半身が地面へと崩れ落ちたのだ。
「何という速さで斬ったのだ!
あれはラファエルをも超えていただろう!」
百華剣は魔剣であり蓄積した魔力を使い肉体を飛躍的に強化する。
それにリリスの毒を併用して最速の技にてサードを術を発動するより速く斬ったのだ。
だが、それに肉体が耐えきれず桜華も動けなくなっていた。
それでも、何とか勝利を得たのであった。




