250話 編成
タルトのこれまでの経緯を簡単に要点だけ伝えたが、部屋は静まり返り反応を緊張して待つ。
まず先陣をきったのはカルンだった。
「アタシからしたらどこで生まれようとタルト姉はタルト姉ダゼ。
それにアタシら悪魔になる前はどこの誰だか分からねえヤツ等ばっかりなんだから何の問題もネエゼ」
「まあ、確かにタルトだから私は行動を共にしている。
タルトという人間性に惹かれた訳でどこから来たのかなど、どうでも良い話だな」
ノルンも続く。
「強さこそ全てよ。
そこに種族や生まれなど関係ない」
「羅刹と同じとは癪だが余も同意ぞ」
羅刹の言葉にケツァールが応える。
「みなさん…」
何も気にすることなく受け入れてくれる言葉に感動するタルト。
「まあ、俺は何と答えが返ってこようが嬢ちゃんの味方しようと思ってたガナ。
レディの味方だからナ」
このルシファーの言葉には素直に喜べなかったが、協力を得られたのは嬉しかった。
「俺がミカエルを抑えてるから、その間に誰かが嬢ちゃんを守る役が必要ダナ」
誰よりも早く反応したのはオスワルドであった。
「その役は私に任せて頂けないでしょうか?
聖女様の盾となる役は他の誰にも譲れません」
「だとヨ。
嬢ちゃんが良ければ誰でもイイゼ」
オスワルドはタルトの前へと進み跪く。
「聖女様、何卒その役目を私に」
「オスワルドさん…。
ミカエルさんは本当に強いしどんな危険が待ってるか分かりませんよぉ…。
それに説明したとおり私は聖女なんかじゃなくて、ただの普通の女の子なんです…」
「いえ、貴女は私にとって紛れもなく聖女です。
私を正しい道へ導いて頂き、今があるのです。
そんな貴女を守護することが私の責務なのです。
人間である私の実力に不安を覚えるかもしれませんが、この身を挺してお守りすることをここに誓いましょう!」
「オスワルドさん…」
おそらくオスワルドの固い意志は変わらないのだと感じられた。
何よりそのままのタルトを受け入れてくれたのが何よりも嬉しかった。
「それじゃあ、お願いしちゃいますね。
それともう一つのお願いがあるのはシトリーさんも一緒に連れていきたいんです。
もし、魔法少女に戻れたらすぐに治療してあげたいんです」
「聖女様の御心のままに」
オスワルドは優しくタルトの手を握る。
「これでミカエルの対応は決まったな。
強敵なのは明らかだったが、必要最低限の戦力の割り当てで済んだのは行幸だ」
タルトとオスワルドのやりとりを見守りつつ、本来の主題へと引き戻したノルン。
ルシファーの参戦は非常に助かったが戦況は厳しいことに変わりはなかった。
「残る相手は4人の指と集結した魔物の相手だな。
なかでもベリアルは相当の実力を秘めている。
現在、所在が不明なのがやりづらいな。
ティアナはどう思う?」
「そうだな。
まず指で遭遇したことがあるのが3名だ。
ミカエルに寄生したミドル。
不死なのか分裂してるか能力不明なピンキー。
あとは死体や魔物を操るサム。
残るフォアとサードは未知数なのが分かってる情報だ」
ティアナは今までに集めた情報を説明する。
能力については不明な点も多く誰を割り当てるかが難しいのだ。
「ピンキーは私の獲物だ」
一度、不覚をとり負けたラファエルはこの機会を待ちわびていたのだ。
「また負けるのではないか?」
「私を愚弄するのか!?」
ケツァールがラファエルを挑発する。
元は敵同士なのだから険悪な雰囲気が漂う。
「二人ともケンカは駄目ですよ!
協力しないと世界が滅んじゃうんですから。
ピンキーはどんな攻撃も平気そうでしたが、私の一撃が効いたことがあります。
ノルンさん、ティアナさんも同行してその謎を解いてください」
幼いタルトに窘められ黙るラファエルとケツァール。
「そうだな、私は一度出会ったことがある。
ティアナもそれで良いか?」
「タルトに従うよ。
実力は及ばないが絶対に能力を見極めてみせよう」
「では、決まりだな。
サムは軍勢を率いているから先にフォアとサードを決めよう。
残りもタルトに一任することにしようと思うがどうだろう?」
おそらく揉めていつまでも決まらないと予想したノルンはタルトに丸投げした。
皆から一目おかれているタルトであれば上手くまとめてくれそうだからである。
「えぇー、何か責任重大ですねー。
じゃぁ…フォアはケツァールさんと羅刹さんで」
その瞬間、二人は睨み合う。
昔からのライバル関係である二人は納得しかねている。
「余がこやつと…?」
「こいつだと?」
そんなことも気にせず淡々と話し続ける。
「どんな相手でも最強な二人なら大丈夫だと思うんですよー。
大丈夫ですよね?」
くったくのない笑顔で問われて、文句を言う機も失せた二人は渋々、承知した。
「あとサードは桜華さん、ウリエルさんとリリスちゃんで。
羅刹さん並みに強いウリエルさんが桜華さんと連携して、リリスちゃんがサポートに入れば大丈夫だと思うんです。
あとはガブリエルさんをリーダーに残る戦力でサムにあたりましょう」
この案に異論を唱えるものはいなかった。
「それとこの街をカルンちゃんに任せて良いかな?」
「アア、問題ないゼ。
リーシャ達が心配だしナ」
「何もなければ良いんだけど、私の思い入れがあるこの街は狙われると思うんだよね。
無理せず駄目そうならすぐに逃げてね」
「心配すんなっテ!
アタシは逃げ足は早いカラナ」
こうしてタルトが場を和ませて会議がトントン拍子に進んでいった。
各個、目標の指を撃破したら死の王へと向かい合流次第、決戦を仕掛けることに決まる。
連戦に加えて予定通り進めば、クロノスとの最後の戦いが待っているが、余力を考えながら戦うのは難しいと思われた。
だが、この順番に倒すしかないので全力で挑む以外に方法はないのだ。
各自、早急に戦いの準備を整え指の待つ地へと旅だっていく。
今回は勝つ以外の選択肢はない。
逃げても世界は滅亡へと向かってしまう。
だが、別れを言う者はおらず、勝てると信じた顔をしているのだ。
そして、タルトもルシファー、オスワルドと共に出発を迎える。
「カルンちゃんの言うことを聞いて良い子に待ってるんだよ。
これに勝てばリーシャちゃん達が笑って暮らせる世界がくるから」
「リーシャはタルトさまがげんきにもどってきてくれるほうがうれしいです」
「大丈夫、信じて待っててね!
じゃあ、行ってくるよー」
空飛ぶ魔物に馬車を繋ぎ空を飛んで移動することで一気に目的地へ着くことが出来る。
タルトも乗り込むとミカエルが待つ光の神殿へと飛び立ったのだ。




