246話 真実
「我が名はクロノス。
それがお前達を破滅へと導くものの名だ」
「クロノス…。
やっぱりあなたが女神様と対をなす神様だたんですね?」
「そうだ。
少し昔話をしてやろう。
遥かな昔、我と女神セーラス以外にこの世界には龍と魔物、そして精霊達が暮らしていた。
今と違い平和な世であったのだ」
ふとタルトはあることを思い出す。
「それって前にウンディーネさんから聞いたことがあります」
「これだから精霊は困る。
勝手に真実を話してしまうのだ」
「だから、精霊達を封印したんですね?」
「そうだ。
精霊とは自然に近い存在であり完全に消滅させるのが出来ない。
それに嘘をいうことも出来ぬことから我が計画に邪魔だったのだ」
「それだけの理由で…」
「さて、話が逸れたが続けるぞ。
いつの頃からか人間がこの世界に紛れ込むようになった。
だが、脆弱な人間では魔物に襲われすぐに死んでしまった。
そんな人間が可哀想と思い、セーラスが手を差し伸べたのだ。
紛れ込んだ人間を集め、安全な村を作ってやった。
すると人間はあっという間に増えていったのだ」
突飛もない話にタルトも聞き入っている。
「世界を越える際に空間も時間も歪むことから紛れ込む人間は多種多様な文化をもっており、いつの間にか村が町となり、国へと発展するにはそれほど時間は掛からなかったほどだ。
最初は興味をもって観察していたが、やがて国同士で戦争するまでに至った。
これにはセーラスも心を痛めていた。
だから、私は人間を滅ぼそうと提案したが断固反対されたのだ。
そのまま暫く観察を続けていたが戦争を続けながらも驚異的な速度で文化が発展し、領地を拡大することで美しい自然を破壊していった。
更には生活が豊かになると人間はどんどん堕落していったのだ」
クロノスは憎しみというより哀しみを感じさせる表情に僅かに変化した。
「セーラスは何度も人間を正しい方向へ導こうとしたが全て裏切られる形で失敗に終わった。
悲嘆にくれる彼女をこれ以上、見ていられなかった。
そして、世界に善性が失われていくとセーラスも弱まっていくのを感じた。
だから、これ以上、彼女が傷つく前に封印することにした」
概要は龍の里にてヴリトラから聞いていたタルトであったが、その裏側にある事情や心情を初めて聞いたのである。
事実、タルトがこの世界に来てからも人間はお互いに争い、人身売買など闇の部分も嫌なほど見てきた。
そもそも元の世界でも戦争で作られた歴史なのでクロノスの言うことを否定できない。
「そして、彼女の封印後に世界の再構築をすることにした。
新しい世界のコンセプトは対立する勢力で争わせ、人口増加と文明発展の抑制を目指した。
その為に人間をベースとして多用な種族を造り出したのだ。
魔力に特化した天使や悪魔、身体能力に特化した鬼、魔物の特徴を取り入れた獣人など様々である。
そして、各勢力の神を演じ、教義を作って争うよう仕向けた。
また、工房を含めたこの秘密について龍人に守護を任せることにしたのだ」
淡々と語られる話は世界のどこにいても聞こえ、全ての人が動きを止め耳を傾けている。
「それじゃあ、争う理由なんてなかったって事じゃないですか!
あなたが指示したのが原因で誰も死ぬ必要なんてなかったって事ですよね!」
その中でタルトだけは怒りの感情を爆発させてる。
「それは必要な犠牲だったのだ。
本当は人間など殲滅しても良かったのだ。
だが、彼女の意志も尊重し、美しいままの世界と共存をするには制約を設ける必要がある。
それによって世界の調和が保たれるのだ」
調和という言葉にはっと思い出した事がある。
「調和って…。
もしかして死の王というのもあなたなんですか?」
「そういえばそなたは何度も邪魔をしていたと聞いている。
死の王は唯一の我が配下の事だ。
彼の者の部下は世界の調和を保つために暗躍している」
「だから、戦争を誘導したり進んだ文明を破壊してたんですね!」
「世界の調和を保つためには、その程度の犠牲は大した問題ではあるまい。
だが、そなたが全ての秘密を解き明かしたお陰で全てが無になってしまった」
「だから、私達を殺すんですか…?」
「全ての人種をだ。
まだ無垢で何も知らない赤子だけを残し再び世界を再構築する。
今度はもう少し趣向を変えねばならんな」
「そんなつまんない理由でなんて絶対に許しません!
リーシャちゃんが笑って暮らせる世界に変えてみせます!」
「リーシャとは獣人と人間のハーフだったな。
それこそ調和を乱す象徴のような存在だ。
二つの勢力の間に出来た子供など作り上げた均衡を崩す原因と成りうる。
そもそも生活が豊かになった人間は生きる目的も忘れ、怠惰で無駄な時間を生きるよう堕落してしまう。
この世界では生きることの喜びを知り、皆、生を全うしている。
人間などほっておけば勝手に増えるのだ。
寧ろ犠牲が出て数の抑制が掛かるくらいが丁度良い。
アスモデウスから聞いたがそなたが来た世界も破滅に向かっていたのであろう?
醜く殺し合う歴史に紡がれた時代では、世界を破壊しうるほど科学が発達しているという。
だが、そのスイッチは精神的には進化していないままの愚かな人間が持ったままだ。
この世界もこのままでは同じ道を辿るのは明白であり、それを防止するのは神の役目だろう。
だから、そなたの世界の聖書なる文書を参考に対立する構造を思い付いたのだ」
タルトが子供であっても世界のどこかで戦争や内紛が行われるのは周知の事実であり、核の脅威はよく理解している。
そして、今までの自分の生活とこの世界の暮らしを比較すると怠惰な生活と言われるのも納得してしまう。
そういう意味ではクロノスが目指す世界の形はひとつの理想ではないかと心のどこかで思ってしまった。
「だが、それをそなたは台無しにした。
そなたが原因でこの世界は滅びるのだ」
「そんなつもりじゃ…。
ただ、私は…」
このクロノスの言葉にすっかり勢いを失くし、自分の行動は本当に正しかったのか自問自答してしまう。
「ようやく気付いたようだな。
だが、もう手遅れだ。
この世界は一度滅び再生されるのだ。
これ以上、邪魔をしないよう力の根元を奪わせて貰うぞ」
クロノスが右手をタルトの方へ向けると心の奥底に激しい痛みが走る。
「痛い!!
なにこれ!?
お願い…やめて!」
タルトの悲痛な叫びが木霊する。
「タルト様!
チッ、こんな時に動けないトハ!」
シトリー達は必死に動こうとするが全く身体を動かすことが出来ない。
『マスター!
これは直接、私が攻撃を…』
ウルの言葉も途中で途切れたかと思った瞬間、タルトの中で何かが弾けた。
そして、ぽっかりと心に穴が空いたように虚無感に襲われる。
「ウル…?
ねぇ…お願い…返事して…」
魔法少女の変身も解け、常に感じていたウルの存在が消えていることに何が起きたか察しはついていたが、心が否定したかったのだ。
「そなたが精霊と同化しているのは見抜いていた。
完全には消滅させるのは出来ぬが数百年は元には戻るまい。
自らの行動の結末を見届けて後悔するがよい」
ウルを失ったタルトは魔法少女へ変身も出来ず、魔法も使えない普通の少女へと戻ってしまったのだ。
だが、事態は更に悪化していく。
クロノスの横にいつの間にか真っ黒なフードが浮いていた。
「死の王よ。
後は任せるぞ」
「主の御心のままに…」
クロノスが現れた時と同様に一瞬で消えてしまった。
それと同時に身体が動くようになり、その場は混乱に陥る。
「我が主に逆らう愚か者どもめ…。
ここで死へと誘ってやろう…」
死の王の地面からみるみる謎の軍勢が現れた。
ここまでの激しい衝突で死傷者の多くでているこの状況で絶望な状況なのはすぐに全員が理解している。
以前、シトリーや桜華が苦戦したアイアンゴーレムの姿も見える。
タルトに起きたことも拍車をかけて戦場には絶望感が漂っているのであった。




