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241話 試練

翌朝、神殿の屋上にタルト、シトリー、カルン、ジルニトラが揃っていた。


「みんな揃いましたから出発しましょう!

ジルさん、道案内をお願いします」

「それでは行きましょうかの」


ジルニトラの背中から龍の翼が生えてきてフワッと浮き上がる。

それに続くようにタルト達も飛び上がっていった。

かなりの速度で北へと向けて進んでいく。

あっという間に最北の国であるポーウィス上空へと到達し、遠くに巨大で険しい山脈が見えてきた。

万年、雪で閉ざされ誰も踏む込むことのない領域へといよいよ侵入する。

すると山脈中腹にある広場へと降り立った。


「ここからは歩いて行きますぞ」

「飛んでっちゃ駄目なんですか?」

「ここは聖なる土地じゃ。

山に敬意を払い飛び越えるのは禁止になっておる。

無用な騒ぎは望まぬじゃろ?」

「龍族相手に戦いを挑むほど愚かではありマセンワ」


皆も納得したところでジルニトラを先頭にうっすらと道と分かるところを進み始める。


「どうでもいいけど寒すぎじゃネエカ」


明らかに薄着のカルン。

タルトはコートやマフラーなど装備が完璧だ。

悪魔は人間より遥かに寒さや暑さに強く服装は薄着の場合が多い。

それでも、ここの寒さに耐えれないのだ。


「そんなこともあろうかと二人の分も持ってきましたよー」


タルトの大きな荷物から二人分のアウターなどが取り出される。

シトリーとカルンは急いで身に纏う。


「ここは最果ての地。

常識に当てはまらないことが他にもあるので気を付けなされ」

「ジルさんは寒くないんですか?」


ジルニトラはいつも通りの服装であった。


「龍は体内には灼熱の炎を宿しておりますからの。

これくらいどうということはありませんわ」

「わー、なんか龍っぽいです!」

「イヤ、本物の龍なんダガナ…」


目を輝かせて喜ぶタルトにカルンが突っ込みを入れる。

和やかな雰囲気で歩いていたが、ふと先頭をゆくジルニトラがタルトに問いかける。


「これより先に進めば大いなる危険が待ち受けておるじゃろう。

死ぬ可能性もあるが進みますかのう?」


勿論、タルトに向けられたものでシトリーとカルンは静かに回答を待っている。


「こうしてる間にも戦争が始まってたくさんの人が死んじゃうかもしれないんです。

私が出来ることはこれしかないなら全力でやるだけです!」

「その歳で大した決意じゃ。

まさに聖女殿じゃのう。

それでは、戻れぬ領域へと立ち入りましょう」


少し進んだだけで一気に吹雪になりホワイトアウトしてしまった。

一面、真っ白な世界で目の前のジルニトラからはぐれてしまったら、あっという間に方向も分からなくなり遭難してしまうであろう。

やがて、ますます吹雪が激しくなってきた。


「うぅ…前を向けないくらい風が強すぎだよぉ。

シトリーさんもカルンちゃんも離れないようにしてくださいねー」

「アア、気を抜くと吹き飛ばされそうダゼ!

もう、あのジジイを信じて付いていくしかネエナ」


すると急に風が弱くなり視界が広がってきた。

両側にどこまで上があるのか分からない絶壁があり、少し前に立派な龍の彫刻が左右に一体ずつ彫られている。

何か入り口のような雰囲気だ。


「すっごい大きくて格好良い彫刻ですねー。

今にも動きだしそうです!」


立っているタルトの身長でも膝まで届いておらず、見上げながらはしゃいでいる。


「ここが里の入り口になりますぞ。

龍人の里、聖地リグ・ヴェーダになります」

「ここがジルさんとリリーちゃんの故郷…」


目の前に広がるのは絶壁とそこにいくつか空いている洞窟しか見えない。

しかも、人の気配は全く感じられなかった。

洞窟を見上げているといつの間にか目の前に青年らしき人物が立っていた。


「お久しぶりでございます、ジルニトラ様。

お元気そうで何よりです」

「久しいな、ヴィービル。

ここは何も変わっておらんようじゃな」

「ええ。

良くも悪くも変化がありません。

用件は承知していますので、付いてきてください」

「ああ、宜しく頼む」


ヴィービルの後に付いて歩き出す。

思っていたより友好的で拍子抜けしたタルトであった。


「思ったより友好的みたいですよねー。

このまま何もなく終わったりはしないですかね」

「タルト様、油断してはいけマセンワ。

ここは敵地であり、かの者からは恐ろしいほどの存在力を感じマスワ」

「そんな闇討ちみたいなことはせんから安心なさい。

ですが、真に覚悟が必要なのはこの先に待っておりますのじゃ」


やがて、両側の絶壁の幅が広がり、どこまでも何もない雪の平原に出た。


「この先でお待ちになっております。

どうぞ、このままお進みください」


ヴィービルは立ち止まり、先へ進むよう促す。

ジルニトラは何も聞かずに言われたまま進んでいった。

タルト達もよく分かっていないが付いていくしかないのである。

何もない雪の平原を進んでいくとポツンと一人の老人が待っていた。


「やはりお主が待っていたか、ヴリトラよ」

「本来、この役目はお前が相応しいのだがな。

ジルニトラよ、リリーを連れて出てから既に数千年は過ぎておる。

そろそろ戻る気はないのか?」

「お主には辛い役目を任せてしまって申し訳ないと思っておる。

だが、あの事件以来、もうあのお方の考えに共感は出来ん。

それにもうひとつの目的もまだ果たされておらんし、新たな道も見つけたのじゃ」

「それがそこの娘なのか?」


じっとヴリトラと呼ばれた老人がタルトを見据える。

そして、暫し何かを考えていたようだったが、ふと笑みを浮かべた。


「確かに並みの人間とは異なるようだな。

ここでも聖女と呼ばれる少女の噂は届いている。

だが、実物を見ると噂が本当だということが良く分かる」

「そうであろう?

ここにいる悪魔も含め共存の道を開いたのだ。

過去にそれを望む者は幾度となく現れたが、ここまで実現できた者はおるまい」

「今までと同様に潰されてしまうのではないか?」

「それをお主自身が確かめてみるが良かろう」

「ふむ…だから、ここに連れてきたわけだな。

竜の試練を受けさせ証明しようと」


顔見知りの二人で話が進んでいきタルト達は置いてけぼりになっている。


「あのー…良く分からないんですけどー。

私はここで何か試練を受ける感じですかね?」

「聖女とやら。

そなたの望む真実の一端を知りたければ、我が試練を乗り越えねばならん。

ここに来たという事は己の命を賭けて試練に挑む覚悟がある証明だ」

「本当は死にたくなんかないですけど、私にしか出来ない事ですしやるって決めたんです!」

「良い返事じゃ。

試練はすぐに終わる。

では、行くぞ」


次の瞬間、ヴリトラの身体が渦巻く黒いもやに包まれ、どんどん巨大化していく。

今までも対峙しているだけで圧を感じていたが、みるみる圧力が増していき肌で直接、感じるほどであった。

黒いもやから巨大な翼が飛び出し腕、足、頭とその姿が露になる。

色は鈍い銀色をしており、リリーより一回りは大きい。

眼光は鋭く、その巨躯からは桁違いの気が発せられ弱者では対峙することさえ難しいだろう。

強者であっても絶対的な自らの死を悟る程だ。


「凄い…」


正直な気持ちが言葉に出てしまう。


「さて聖女よ。

試練は我が一撃に耐え生き残るだけだ。

それだけで良い」


タルトは鮮明に覚えている。

リリーが放つ閃光が数万の鬼の軍勢を一瞬で焼き滅ぼし、その地を焦土と化した事を。

その圧倒的な威力を秘めた一撃による死が確実に忍び寄って来ているのであった。

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