231話 魔装兵器
「ところで聖女様は良いとしてお前は何者ダ?」
アスモデウスはクローディアの左腕を狙い撃ちする。
肘に命中し左腕が空に飛んで地面に落ちた。
断面は流体金属が蠢き滑らかな表面を形作った。
「生物じゃなさそうダナ…。
見たことも聞いたこともネエ」
「私ハ主様ノ人形デス」
「機械人形みたいなもんカ。
そんな技術はないはずだがお前を解体して増産できれば素敵な軍隊が出来上がりそうダゼ」
その間に何とか立ち上がろうとタルトは必死に頑張っていた。
だが、無情にも一発の弾丸が左足を撃ち抜く。
「うわあああああああああああ!!」
あまりの痛みに叫び声をあげる。
足に力が入らず再び地面に倒れ込んだ。
「タルト様!!」
シトリーは激昂していた。
もう人間などどうでもよくタルトを救うためにアスモデウスへすぐにでも攻撃を仕掛けたいという想いを必死に抑えている。
対称的にクローディアは落ち着いていた。
「貴殿二問イマス。
主様ヲ救ウ選択肢ヲ提示願イマス」
「ほう、機械だから自分の主を優先スルカ。
まずは主の意に反して俺を殺ス。
後は俺を説得して呪いを解除させるかのどちらかダナ」
「私ハ主様ノ命令ニハ逆ラエマセン。
後者ノ方ヲ選ブトシテ条件ノ提示ヲ求メマス」
「お前は分かりやすくて良いナ。
だが、聖女様を生かしておくと手がつけられなくなるカラナ…。
まずはお前の主従契約を俺に移す事は出来るノカ?」
「…可能デス」
「貴女、タルト様を裏切る気デスノ!?」
これにはシトリーも驚きを隠せない。
「コレ以外二良イ方法ガアルナラ提示クダサイ。
主様ヲ救ウノガ最優先デス」
「クッ…」
タルトの命令に縛られ苦悩するシトリーに妙案はなかった。
今にも村人を見捨てアスモデウスを倒したいのだから。
「シトリーも物分かりがよくナレヨ。
お前とそこの機械が俺に服従したら聖女と村人は生かしといてヤルゼ。
但し、聖女は手間が掛かるが従属の呪いで奴隷にしてやるガナ」
「お前に服従するくらいなら死を選びマスワ!」
「シトリー様ニハ考エル時間ガ必要ナヨウデス。
マズ私ノ契約ヲ行イマショウ」
激昂するシトリーを宥めクローディアは前へと進み出る。
アスモデウスは二人の動きを警戒しながら教会に仕掛けた起爆スイッチをいつでも押せるようにボタンの位置を確かめた。
人間だった頃はスナイパーや工作員として世界の戦場を駆け回っていた。
全面に出るのではなく用意周到な罠を仕掛けた場所に敵を誘導し安全な場所から敵を殲滅するのが得意なのである。
それは用心深く残忍な性格とも相性が良く、相手を苦しませ死んでいくのを見るのが好きだった。
そんな彼も戦闘中に重傷を負い気を失った後、目を覚ますと異世界にいて悪魔へと変貌していたのである。
そして、ノアールの指示により大悪魔として村の管理を行っているのだ。
強大な力を手に入れ法に縛られる事もなく自由に好きな生き方が出来るこの世界を気に入っており邪魔をするものには容赦がない。
タルトの情報を得てからは弱点を突くよう用意周到に準備をしていた。
思い通りに事が進んでいるが決して油断することなくクローディアとシトリーの動きを最大限に警戒している。
「そこで止まレ。
契約変更のやり方を説明シナ」
そう簡単に近寄らせるアスモデウスではない。
それに素直に応じるクローディア。
「承知シマシタ。
コノ距離ナラ問題アリマセン。
ソノママ動カナイデクダサイ」
両手を前に出し目を閉じる。
その一挙手一投足を観察し怪しい素振りを見せればすぐに起爆するつもりのアスモデウス。
だが、その直後の予想を越えた事が起こる。
バキッと音と共に起爆スイッチが破壊されていた。
「馬鹿ナ!?
何者の仕業ダ?」
地面から棒状の金属が伸び貫かれている。
その形状は液体状に戻りクローディアの方へ向かった。
「まさかさっき銃弾で吹き飛ばした腕を遠隔操作したノカ!?」
「ソノタメノ時間稼ギト精緻ナ操作ヲスルタメニ近ヅク必要ガアリマシタ」
その機会を逃すまいとシトリーが一気に間合いを詰める。
激昂した魔力は周囲を燃やさんとばかりに溢れでていた。
「よくやりましタワ、クローディア。
初めて貴女を褒めても良い気がしまシタワ」
「チッ!
一旦、引くゼ」
地面を踏むとあっという間に煙に包まれる。
逃走のためにアスモデウスは幾重にも罠を仕掛けていたのだ。
「煙幕で逃げる気デスワ!
また何か策を準備されると厄介ですから逃しては駄目デスノ」
その実力以上に警戒すべきはどんな卑怯な手でも使うその戦略なのだ。
次は近づくことが出来ないかもしれないので、この機会を逃す訳にはいかないのである。
「魔力反応ハアッチニ移動シテイマス」
「やりますワネ。
追いますワヨ」
普段はタルトの世話役を奪ったクローディアをよく思っていないが、それ以上にアスモデウスへの怒りが圧倒していた。
二人はアスモデウスの後を追う。
「前方カラ高速ノ飛来物ガアリマス」
「邪魔するなら燃やし尽くすだけデスワ!」
二人の周囲に業火の渦が現れ飛んできた銃弾を蒸発させた。
「あの二人が一緒だと相性が最悪ダナ!」
逃げながら後方へ射撃を繰り返す。
だが、その全てが炎の壁で燃え尽きた。
しかも、地雷や時限爆弾を設置したがクローディアによって見抜かれ回避されている。
「大悪魔にしては二人相手に逃げるとは少し変な気がシマスワ。
表に出てこなかったから実力が未知数でしたが、この程度な訳はないデスワ」
「デスガ逃走サレルノハ明ラカニ悪手ナノハ間違イアリマセン」
すると少し開けた場所にアスモデウスが待っていた。
「逃げるのは終わりデスノ?」
「ただ逃げてたんじゃネエゼ。
ここに誘導したダケサ。
これの所ニナ!」
地面に魔方陣が出現し鎧のようなものが浮かび上がってきた。
それがアスモデウスの全身を覆っていく。
「あれは鎧デスノ…?」
「イエ…私ノヨウナ兵器ダト推測サレマス」
全身を輝く金属に覆われた姿はまさにアイアンマンを彷彿とさせるが、機械のない世界では理解を超えたものである。
「これが科学の極みダゼ。
俺の魔法は武器や道具の生成が得意なようデナ。
これはその成果で攻撃と防御を超絶的に強化してくれるノサ」
「たかが鎧を着たくらいで良い気にならないでクダサル。
すぐに溶かして差し上げマスワ」
「甘く見すぎダゼ」
機械音と共に身体の数ヵ所から魔力がジェットのように噴射され速度を飛躍的に増加させる。
一瞬でシトリーの目の前に現れ正確に心臓を狙いナイフを繰り出す。
元々、近接戦闘があまり得意ではないシトリーは反応が遅れ回避出来るタイミングではなかった。
「チッ!?」
「殺ったゼ!」
ギリギリのところでクローディアが間に割り込みシトリーを突き飛ばす。
ナイフはクローディアの肩口を簡単に貫いたがすぐに元通りになった。
「助かりマシタワ…」
「オ気ヲツケクダサイ。
カナリノ使イ手ノヨウデス」
アスモデウスは余裕をみせ追撃せずにいた。
「ビックリしたようダナ。
これが研究を重ねた上に到達した奥の手ダ。
機械と言っても理解できないだろうから魔装兵器とでも呼ぼうカ」
全身に纏った魔装兵器はアスモデウスの膨大な魔力を動力源とし、本人の近代近接戦闘技術が合わさった恐るべき兵器となる。
「すぐに溶かしてあげマスワ!!」
シトリーが呼び出した業火はアスモデウスを包んでいく。
だが、何事もないようにゆっくり前進してくる。
「表面には魔法を反射させる効果が付与してあるから無駄ダ。
それにこんな事も出来るんダゼ」
腕の一部が開いて小さいミサイルのような魔力で出来た弾が無数に発射される。
誘導弾となっており二人を自動で追尾する。
「迎撃シマス」
クローディアは地面から小石をいくつか拾い正確にミサイルを撃墜した。
「やるナ。
実はこの兵器に人工知能を搭載して最強の軍隊を作りたいんだが、どうしても成功しなくテナ。
お前を分解してその技術を盗んでヤルゼ。
お前ら二人には俺は倒せネエヨ」
確かに二人の攻撃手段ではアスモデウスに効くものがない。
タルトは呪いに苦しんでおり援軍も期待出来ない状況では詰んでいたのだ。




