229話 幸福の村
フランク王国領を出て進むこと1時間。
岩影に隠れるタルト達の上空を悪魔が通り過ぎていく。
「なんか遭遇するのが増えて来ましたね。
山のようなものが見えてきましたけどあれですか?」
ここに来るまでに悪魔を数回見かけたが感覚がどんどん短くなっている。
それだけ敵地へ深く潜入している証拠であるが無駄な戦闘を避けたいので隠れながら進んでいるのだ。
「山のように見えますが深い森と崖のような谷間が多数存在した場所になりマスノ。
更に悪魔は増えていきますの慎重にいきマスワ」
クローディアは何も言わずにタルトの指示にのみ従う。
この旅でもタルトに寄り添い黙々と付いてくるだけだ。
「そろそろ木も増えてきたから上空を気にせずに進めそうですね。
問題はその村がこの広いエリアのどこにあるかですよねー」
「この辺一帯はよその悪魔はあまり近付かないのですが、理由としていくつかありマスノ。
ひとつは何もない場所、そして、よそ者へ何故か攻撃を仕掛けてきマスワ。
戦っても得るものがないのですから誰も近づかなくなりマシタワ」
「ふむふむ、もしかしたら村を隠すために近寄らせたくないのかもですね。
配置が分かれば守りたい場所が分かるかもです」
森の中を抜けながら上空の悪魔の配置や飛ぶ方向を地図に書き込んでいく。
その点や線を繋いでいくとやがて円を描いたような形になった。
「この円の中央が怪しいですねー。
とにかく村を見つけるまで気付かれないようにしないと隠されたり最悪、殺されちゃうかもです」
「まもなく日暮れデスワ。
暗闇を行けば見られずに進めマスワネ」
目的地を定め暗闇の中を真っ直ぐに進んでいく。
今までと違うのは地上にも悪魔がいるようになったのだ。
何となく目的地に近づいているのだと理解する。
この悪魔達は侵入者対策であり脱走者への監視でもあるのであろう。
これまで以上に慎重に音を出さずに歩を進めていくと遠くにぼんやりと灯りが見えてきた。
「あれ、家っぽくないですか?」
「造りが人間が住む家デスワネ。
それが複数ありマスワ」
「警備もいないようですし、こっそり近づいてみましょう」
音を立てずに暗闇に紛れて家の裏手に回り込む。
そして、明かりの灯った窓からこっそり中を覗き込んだ。
すると中には家族とおぼしき人間の姿が見える。
父親、母親、子供という構成で質素な服を着てパンらしきものを食べていた。
驚いたことに怯えている様子はなく幸せそうな一家団欒の姿がある。
「どういうことですか?
こんな場所にあるのに不幸な感じがなさそうですけど…」
「悪魔が管理してるとは思えマセンワ…」
「中に入って話してみましょう。
どっちにしても救出するには話さないとです」
タルトは玄関とおぼしきドアをノックして開けてみる。
鍵は付いていなく簡単の開けられた。
「あのー、お邪魔します」
ドアを開けてさっと中に入りドアを閉める。
誰かに見られた気配はなかった。
急な訪問者に少し戸惑う両親とは違い、嬉しそうな顔で近寄ってくる女の子。
「わああ!
新しい管理者様とお友達ですか?」
年齢はタルトと同じくらいに思える女の子であるが思いがけない単語に理解が追い付かない。
「管理者様?
お友達?
それってどういう意味かな?」
「え?
だって見たことない管理者様が人間の親子を連れてきてくたのかなって」
お互いに言ってることが理解できずに頭の中には、はてなマークでいっぱいだ。
シトリーはそのやりとりを聞いてあることに気付く。
「タルト様。
その子供はワタクシを管理者と思っているようデスワ。
やはりこの村は悪魔が管理してるようデスワネ」
「ねえ、この人の事で知ってることを教えて貰えるかな?」
タルトはシトリーについて子供がどう認識してるのか尋ねてみる。
「えっと、管理者様は神様の使いなんだよ。
この土地を任されてるんだって」
悪魔が神の使いとはどういう意味なのかよく分からない。
頭を悩ませてると父親が話しかけてきた。
「あの…あなた方はどこから来たんですか?」
「この村からは遠い場所から来ました。
ここに助けを求める人間がいるって聞いて来たんですが」
「助けですか?
ここは毎日、平和な村ですよ。
ああ、そういえば近くの子供が大怪我を負ったと聞きましたがその事ですかね」
思っていた展開と全く異なっており戸惑ってしまうが緊急を要する案件が出てきた事で再びやる気が出てくる。
「何だか思ってたのと違いますが怪我した子供のところにいきましょう!
案内をお願いできますか?」
「ええ、こちらになります」
父親に付いて数件先の家を訪問すると若い夫婦が迎えてくれた。
そして、奥の部屋に案内されると酷い怪我を負った小さい男の子がベッドに寝ている。
だが、傷に布が巻いてあるだけで治療した形跡はみられない。
「あの医者に診せてないんですか?」
「イシャとは何ですか?
この子が治るように毎日、お祈りをしています。
もし死ぬことがあれば運命だったのでしょう」
「えっ!?
医者を知らないんですか?
とりあえず私が治しますね」
タルトはステッキを出し治癒魔法を掛ける。
その輝きに包まれた男の子の傷は一瞬で消えていった。
「これは!
貴女は一体…?
管理者様を従えてるということは…もしかして神様に近い存在なのでしょうか?」
「私はタルト。
女神の使いであり聖女と呼ばれてます」
「女神様の使いですか。
神様とは複数いらっしゃるのですね。
我らが奉るのは男性ですので異なるのでしょう」
「その神の名前は知ってるのカシラ?」
「勿論ですよ。
ノアール様です」
ノアール。
闇の勢力の頂点である神である。
人間社会では敵として認識され忌み嫌われているはずだ。
「皆さんはいつからここにいるんですか?
そして、ここで何をしているんですか?」
タルトは訳がわからなくなり浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「いつからって…先祖代々住んでいます。
毎日、畑を耕し神様へお祈りを捧げるのが日課です」
「他には…?」
「他にすることって何があるんですか?
毎日、祈りを捧げ家族と共に食事が出来る。
それ以上、何も求めるものはありません」
まるで違う価値観に恐怖すら感じる。
確かにある意味で究極の幸せの形なのかもしれないが人間の在り方として間違っているのだ。
「この村の者には欲というものが一切ありマセンワ。
人間にとって欲とは原動力になりますノニ。
そう管理者に教えられマシタノ?」
「ええ、そうです。
足りないものは管理者様から支給されます」
タルトとシトリーは少し離れ小声で話す。
「どうされマスカ?
どうやら目的は不明ですがこの生活に満足してるようデスガ」
「おせっかいかもしれませんけど人間らしい生活を送って欲しいです。
ここの幸せは誰かに作られた偽物です。
もっと世界は広いことを知って貰ってやりたいことを見つけて貰いましょう!」
「まずは人数の把握から行いマショウ。
日が昇る前に出来るだけここから離れねばなりマセンワ」
作戦が決まったので村の人々を一ヶ所に集めるため手分けして家を回り始めたのだった。




