227話 騒ぎ
翌日、寝床から抜け出すと外がとても騒がしく兵士達の足音で目が覚めたほどだ。
「ふわわわぁ…何の騒ぎでしょう?」
「さあな、敵でも攻めてきたような騒がしさだな。
様子でも見に行ってみるか」
「アア、そうダナ。
面白そうダシナ」
「巻き込まれないようにこっそりですよ」
注意しつつも自分も気になったタルトはティアナとカルンと共に外へと出てみた。
すると体格の良い獣人が四人がかりで一人の獣人を何とか抑えこんでいる。
そして、鎖で何重にも拘束したまま引きずるように何処かへ連れていこうとしていた。
「アイツ…この前の奴と同じダゼ。
獣化だったカ…」
「気になるし付いていってみよう!」
こっそりと後をつけていくと昨日、闘いを演じた建物に辿り着く。
中へ恐る恐る入っていくと舞台上に拘束された獣人とケツァールの姿があった。
その鋭い爪が獣人の首を一瞬で切断する。
「せめて苦しまずに逝くがよい」
爪先から血が滴ったまま動かなくなった遺体を見つめている。
「いるのは分かっているぞ。
出てくるが良い」
通路の陰から見ていたタルト達であったが急に声を掛けられ驚きながらも諦めて出ていく。
「あの…すいません。
どうなるか気になって付いてきちゃいました…」
「気に病むことはない。
久しく出ていなかった獣化が最近、現れるようになってな。
救いようがないので苦しまぬよう逝かせてやるのだ」
「獣化を知ってるんですか!?
アルマールでも出たんですよ!
治す方法がないって本当ですか?」
「そうか、広まっているのか。
前にあったのは千年以上も前か…。
あの時も治療法がなく殺すしかなかった。
当時は人間から感染する病気といわれ恐れられていたな」
「人間から感染するって本当ですか?」
「真実は分からぬが急にそんな噂が広まってな。
家族を失った者が煽動して人間との戦争が頻発したものだ」
「誰がそんな噂を…。
何か原因があるなら私が突き止めてみせます!」
「そうか、期待しているぞ。
必要な情報は提供しよう。
何か判明したら報告に来い」
ケツァールはそれだけ言い残し飛び去っていった。
「いよーし、カルンちゃん、ティアナさん。
もう少しここに残って調査してみよう!」
「タルトならそういうと思っていたぞ」
「しょうがネエナ、リーシャ達も安全とは言えねえシナ」
「まずは情報収集ですね」
タルトは今回の事件を担当している衛兵より色々とヒアリングした。
獣化した獣人に見た目など共通点はなかったが一人で出掛けた後に急に発症しているようだ。
本人は凶暴化すると理性が失われるので証言を取れたことがなく周囲の者から集められた情報ばかりである。
「共通してるのはどこかに行って帰って来たときなんですよねー。
行き先を地図に書いてみるとこんな感じですかね」
「ピンポイントではないが森の特定のエリアが多いように感じるな」
「ティアナさんもそう思います?
この辺を手分けして調査してみましょうか」
三人は泊まっている部屋に戻り今後の行動を説明する。
リーシャ達は留守番し昼間でもあることからセリーンが面倒をみることになった。
ティートは危険だから止めたのだが同じ同胞の獣人としてじっと出来ないということでタルトと共に行くことで決まったのである。
早速、四人は揃って地図で見た場所に移動し三方向へと散っていった。
ティアナは左、カルンが右、タルトとティートが中央方面へと進んでいく。
「タルト様はもう原因に検討が付いているんですか?」
ティートは進みながらタルトに尋ねる。
「うぅーん、原因はさっぱり分からないんだよねー。
でも、切っ掛けがあると思うからそれを見つければ原因も分かると思うんだよねー」
そんな会話をしてると急に人影が現れる。
それは一人の若い獣人であった。
「おっ、あんたは昨日の聖女か!
すげえ闘いだったな、人間とは思えねえ強さだぜ」
「いやーそれほどでも。
それよりもこの辺は危険だから早く離れてくださいねー」
「何でだ?
ここらは小さい頃から知ってる場所だぜ」
「怖い病気になっちゃうかもしれないんです」
「はっはっはっ、子供の頃から病気になんてなったことねえぜ。
まあ、気を付けて帰ることにするぜ」
森に消えていく獣人を見送ると再び進みだそうと思った時である。
ふと感じたことのある魔力に悪寒が走った。
「この感じ…覚えがある。
あの時の影だ!」
すぐに魔力を感じる方を振り返るがさきほど獣人が消えてった方向だ。
「嫌な予感がする…急がないと!」
踏み込んだ地面が爆発するほどの勢いで消えてった獣人を追いかける。
一瞬で追い付くとそこには二人の人物がいた。
一人は先程の獣人である。
そして、もう一人は…
「そこで何してるんですか!?
すぐにその人から離れてください!」
タルトが叫んだその先には黒いフードの人物がいる。
「あなたは風の洞窟に現れた影ですよね?
確か…小指という名前の?」
黒いフードはこちらを振り返りお辞儀をする。
「久しぶりだね、聖女様。
そう、アタイはピンキーだよ」
「ここで何してるんですか?
すぐにその人から離れてください!」
「バレる前に逃げるつもりだったのに想像以上の速さで近づいて来るんだもんなー。
今日は聖女様に用はないんだよね」
「じゃあ、ここで何をしてるんですか?」
「タルト様、あの者の様子が変です!」
ピンキーの前にはさっきまで話していた獣人が棒立ちしており会話に無反応だったのだが急に頭を抱えて苦しみだした。
「うわぁ…ぁああ!
ぐうぅ…」
うずくまる獣人の筋肉が膨張し服が破れるほどだ。
「その人に何をしたんですか!?」
「何って本能を解き放ってあげたのさ!
獣人ってそういう風に出来てるからね」
「その人を元に戻してください!」
タルトはステッキを振りかぶりピンキーに突っ込んでいくが屈んでいた獣人が起き上がり襲いかかってきた。
「危ない!」
それをティートが間に入り掴みあったまま均衡する。
「元に戻せたって無理なのさ。
死ぬまで暴れ続けるんだよ。
知らなかったのかな?」
「そんなこと信じません!
絶対に戻す方法を見つけてみせます!」
「はいはい、好きにすればいいのさ。
せっかく教えてあげたのにさ。
それより君も解放してあげるよ!」
獣人を抑えているティートの足元からもう一人のピンキーが現れて手の上の黒い固まりを出した。
なんとティートの胸の辺りに押し当てるとすーっと消えていく。
「ティート君!」
タルトはすぐに駆け寄ろうとするがティートに制止される。
「お下がりください!
ぐぅ…これは…胸の奥から何かが湧き出てくるようだ…。
おぞましい…何かが…」
「さあ、聖女様。
救いは殺してあげることだけだよ。
殺し会うなんて楽しみなのさ!」
目の前には苦しむティートと今にも襲いかかってきそうな獣人。
どうして良いか分からずに戸惑うタルトであった。




