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205話 父親

賭博騒ぎの数日後、タルトはエグバートの店で朝食を食べていると桜華が駆け込んできた。


「おい、タルト!

戦争がはじまっちまう!」


タルトは椅子に座り口いっぱいに頬張ったまま呆れたように桜華を見る。


「もう麻雀は駄目って言ったじゃないですかー。

また掃除がしたいんですか?」


前回の騒動の罰として桜華とカルンは街の掃除をしたのであった。


「ちげえぇってっ!!

そっちじゃねえよお!

ガチの戦だって!

前回を超える大規模な鬼族による襲撃の可能性があるんだよ!」

「ええええええぇぇ!!

一大事じゃないですか!

すぐにみんなを集めて話を聞かせてください!」


慌ただしく神殿へと戻るとすぐに来れるメンバーを集めた。

執務室にいたシトリー、兵を鍛練していたノルンとティート、桜華と雪恋はもちろん参加だ。

そして、揉め事の仲裁を行っていたオスワルドをシトリーの乱入で恐怖により一瞬で終わらせ連れてきていた。


「それで桜華さん。

戦争ってどういうことなんですか?」

「まあ、これを見な」


桜華は胸の谷間から一通の手紙を取り出し机の上に投げた。

タルトは手紙を広げてみると大きな荒々しい字で一言だけ書いてある。


「来い…何ですか…これ…?」


そう、手紙にはそれしか書いていなかった。


「来いってどこに何でしょう…?

そもそも誰からの手紙何ですか…?

それにこれのどこが戦争に繋がるんでしょう?」


タルトも含め他のメンバーにも意味が伝わっていないようだ。

だが、桜華と雪恋だけは意味が伝わってるらしく神妙な面持ちである。


「それ…うちの親父からの手紙だ」

「えっ!?

桜華さんのお父さん!?

ますます意味不明ですよー」


桜華は困ったように天井を見つめてる。

補足するように雪恋が説明を始めた、


「それは私めが説明致します。

まず、姫様のお父上は我らが鬼族の頂点に立つお方です。

御名を羅刹様と申します。

基本的には政には興味がなく武力にて統治を行っているのです。

その強さは鬼神如く闘鬼と呼ばれる程です。

そして、タルト様に興味を持たれたらしく手紙を出されたようです…」

「この来いって…そういう意味なんですか?

それで私に会ってどうしようというんでしょう…?」

「羅刹様は強者と闘う事を望んでおられます。

最近のタルト様の活躍を耳にされたようで…」

「えぇー、嫌ですよぉ。

そんな変な人と会いたくないし闘いたくないですよー」


タルトは嫌そうな顔をしている。

珍しく桜華が申し訳なさそうに再び話し出した。


「すまねえとは思うんだがよぉ…断ったら戦争になっちまうんだ。

簡単に言えば拒否出来ねえんだよ」

「戦争ってそういう事ですか!?」

「ああ、親父が言ったことは絶対だからな。

力ずくでも実現させるんだよ。

配下は無理にでもタルトを引っ張り出そうとするだろうなあ」

「そんな危険な場所にタルト様を行かせられマセンワ」


じっと聞いていたシトリーがバッサリと切り捨てる。

明らかに危険があるのがわっているのだ。

タルトを一番に想うシトリーとしては当然である。


「シトリーの想いは分かるが、襲撃を受ければ少なからず被害は出るだろう。

それはタルトの願いではあるまい。

羅刹というのはどれほど強いのだ?

今のタルトでも敵わないほどなのか?」

「ノルンは天使だから知らねえだろうが、うちの親父は化け物だ…。

うちが考えるにタルトでも無理かもしれねえ」

「タルト様が敵わないとは思いマセンガ、悪魔王ルシファーに匹敵すると聞いたことがありマスワ。

そんな危険な相手に会わせるなんてありえマセンワ」


タルトが不在だったがルシファーが現れたときのことを思い返す。

大天使のガブリエルがあっさり殺された相手なのだ。

それに匹敵するとは脅威以外の何者でもない。


「仮にタルトが闘って敗けたらどうなるのだ?

それで満足し生きて帰れる可能性はあるのか?」


ノルンは桜華を問いただす。


「生きて帰れる可能性はある…。

だが、アイツの攻撃をまともに喰らえばまず死ぬだろうな…。

生きていても満足な状態じゃねえよ」

「その状態で他の鬼に襲われれば全滅デスワ。

タルト様の敗北は同行する者も含め全滅を意味シマスワ」


闇の眷属の二人がそう想うのも無理はない。

三大勢力の一角である鬼族の頂点に立つ者なのだ。

悪魔の頂点であるルシファーや獣人の頂点であるケツァールと同格と見られている。

そんな相手と闘うのは死を意味するのだ。


「つまり選択肢は二つだな。

一つは断って鬼族の襲撃から街を守る。

これはいつまで続くか分からず被害も大きくなるだろう。

もう一つはタルトが一騎討ちに応じる。

後は勝てるかどうかだけだが被害はタルトと同行する者だけだ」

「どちらにしてもタルト様を失えばこの街は終わりデスワ」

「確かにそうだな。

今まで積み上げたものが無に帰すだろう。

さあ、タルト、どうする?」


真剣な表情でシトリーとノルンの話を聞き入っていたタルト。

最終判断は当然ながらタルトに求められている。


「そのなの決まってるじゃないですか!

私一人で行ってきますよ!

街の人にもここのみんなも誰一人として被害を出したくないですもん…」


そんなタルト向けて高速でグラスが飛んで来たので紙一重で避けた。

後ろの壁にグラスが当たり粉々に砕ける。


「桜華さん、危ないじゃないですか!

当たったら怪我しちゃうじゃないですか!」

「ああ、馬鹿なこと言ってるから目を覚ましてやろうと思ってな。

てめえ、一人で背負ってんじゃねえよ!」

「でも、今回は狙いは私だけですし…」

「ぶん殴らねえと分からねえのか?

前回、うちが同じことしようとした時に止めたのはタルトだろうが!」


前回の鬼の襲撃の際は狙いが桜華であった為、一人で向かおうとしたらタルトが止めたのである。

今回は全く逆の立場になってしまった。


「ワタクシは何処までもタルト様のお側におりマスワ」

「私もだな。

タルトが目指す未来の為に全力を尽くそう」

「桜華さん…シトリーさんにノルンさんまで…」


本当はちょっと心細かったタルトにこの言葉は心に染みた。


「でも、危険があることに代わりはないですから一緒に行く人は少数にしますよー。

そして、出来ればもし私に何かあっても残った人でこの街を守ってくださいね」

「それは付いていくうちらに言われてもなあ。

残る奴に言っときな」

「それじゃみんな付いて来ちゃうから一緒に行く人は私が決めますから!」

「けど、鬼族の本拠地に行くならうちは必須だろ!

道案内もしてやるから絶対に外すなよ。

外されても付いていくかもしれねえかもな」

「もう桜華さんは…。

とにかく決めたら絶対ですから!」


それから遠征の準備にすぐに取り掛かる。

同行するメンバーはオスワルド、桜華、雪恋、シトリー、リリスの少数精鋭に決まった。

他のメンバーから抗議が出たが何とか説得し出発の準備を進める。

そして、出発前夜になりタルトはリーシャをぎゅっと抱き締めてベッドに入った。


「タルトさま…いっちゃやだぁ…」

「リーシャちゃん…」


その小さな手でタルトの服をぎゅっと握りしめ悲しそうで今にも泣き出しそうな顔をしている。


「大丈夫だよ、絶対に帰って来るから。

私が嘘を言ったことないでしょ?」

「…はぃ…」

「だから、ちゃんと良い子で待ってるんだよ。

次、帰ってきたらみんなで温泉でも行こうね」

「やくそくです…」


リーシャは枕元に置いてあるお気に入りのリボンを手に取るとタルトの手首に巻き付けた。


「かえってきたらいつものようにリボンでリーシャのかみをゆってください」

「うん、約束。

可愛く結ってあげるからね。

ほら、もう寝ないと」

「はい、おやすみなさい、おねえちゃん…」


背中の方ではミミとリリーの寝息が聞こえる。

子供たちの温もりを感じつつ夢の中へ落ちていく。

こうしてその夜は更けていったのであった。

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