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198話 シルフ

先程までの暴風吹き荒れる音も消え去り洞窟には静寂が訪れていた。

目の前には過去の遺跡でも何回か目にした装飾に施された立派な扉がある。

そっとタルトが手を触れた瞬間、光輝きゆっくりと開いていく。

すると扉の中から爽やかな風が吹き顔に当たった。


「うわー、草原にいるような気持ちい風ですね!」

「ここは洞窟内だぞ。

しかも、この先は封印され密封された状態じゃないのか?」


警戒しながら部屋へ入ると正方形の大きな造りで中央に祭壇があるのが見えた。

ゆっくりと進みながら祭壇を登とどこからともなく声が聞こえる。


「ようこそー、久しぶりのお客さんだねー」

「誰だ!?

姿を現すが良い!」


周囲を警戒しつつ武器に手を描けノルンは少し声を荒げた。

すると祭壇上でつむじ風が巻き起こり人の形に変化していく。


「ノルンさん、聞こえるんですか?

精霊とは普通話せなくて…」

「そうのなのか?

普通にはっきり聞こえるがな」

「ああ、それは簡単なことだよー。

声って振動でしょー?

これでも風の精霊だからねー、風で振動を起こして伝えてるだけさー」


風の精霊を名乗るそれは子供のような姿をしており面倒そうに空中でうつ伏せのような格好をしている。


「君が風の精霊なの?

私はタルト、宜しくね!」

「僕はシルフだよー。

君は精霊に愛されてるようだねー」

「ええ、その通りですよ。

私から少し説明しますね」


タルトの周囲から水が現れ女性を形作る。


「ウンディーネじゃないかー。

懐かしいなー」

「久しぶりですね、シルフ。

貴方にも力を貸して欲しいのです」


ウンディーネは簡潔に事情を説明した。

その間、ノルンはタルトに通訳をして貰っている。

シルフの声は聞こえるがウンディーネの声は聞こえずにいた。

一通りの説明を終えウンディーネがシルフに尋ねる。


「説明は以上です。

それで協力頂けますか?」

「うーん、断ろうかなー」

「どうしてですか、シルフ?」

「僕は風のように自由気ままに生きるのが好きなのさー」

「雲のジュウザかっ!?」


ついツッコミを入れるタルト。


「ジュウザが誰だか知らないけども似たような人間がいるんだねー」

「ねえ、君を束縛するつもりもないし少しだけ力を貸して欲しいの。

この世界には自由に生きられない人が沢山いるんだよ。

みんなが自分のやりたいことが出来る自由な世界を作るのに力を貸して!」

「タルトと言ったかいー?

君は所謂、他人の為に努力をする良い子だねー。

実際に危険を冒してここまで来てるのがその証拠さー」

「自分が良い子かは分からないし、実際に全部を実現出来ないかもしれないけど…。

でも、手の届く範囲だけでもやれることをしてるだけだよ。

そんな理由じゃ駄目…かな?」

「そうだねー。

一つ答えて貰おうかなー?

君の進む道は険しいもので死ぬかもしれないんだよ、それでも進むのかい?」

「痛いのも死ぬのも怖いけど支えてくれるみんながいてくれるんです。

頑張れば輪が広がっていつか世界を変えれると思うの」


ゆっくりと問いに答えるタルト。

その様子をじっと見つめるシルフ。


「ふー、君は清々しい風みたいだねー。

脈拍や表情、汗の変化をみてたんだけど一切変化がないとはねー。

嘘偽りのない言葉だって伝わったよー。

だから、僕も協力しようという気になったねー」

「本当!?

良かったー!

これから宜しくね!」

「君の進む道の先が見てみたくなったよー。

それじゃー、世話になるねー」


シルフは風に戻るとタルトの周囲を回りすーっと消えていく。

目を閉じたまま内側から発せられる力を感じるタルト。


「これで4人目だね。

あと残りは光と闇だっけ?」

「ああ、六大精霊と呼ばれていて水、火、土、風の四精霊の協力を得てるから後は光と闇だけだ」

「光に思い当たる場所はないんですか?」

「無い…訳ではないが天使の本拠地に乗り込むからな。

確証もなく行くのはお薦め出来んな」

「そうなんですかぁー。

闇の精霊はシトリーさんも見当もつかないって言ってたしなー」

「焦らずに情報を入るのを待とうじゃないか。

今、あの街は薄氷の上にいる気がするからな。

あちこちから睨まれれてはいつか被害が出てしまう」

「そうですよね…。

まずは…ん?」


タルトは部屋の隅に何かが落ちてるのに気付き近寄っていく。

それは小さい四角い形をしていた。


「これって…本かな?

凄い古そうだけど」


タルトが本を拾おうと触った途端、ボロボロと崩れてしまった。


「ここは数千年も封印されていたのだ。

劣化して当然だろうから気に病むな」


失敗して落ち込んだと思いノルンがフォローを入れるがタルトは声が届いていないようにじっと本の跡を見つめている。


「ノルンさん…。

見ましたか…?」

「ん?

本が崩れるのを見たが、それがどうかしたか?」

「いや、そうじゃなくて本のタイトルです」

「一瞬だからよく見てなかったが初めて見る文字だったな。

古いものだから過去の文明の文字かもしれんな」


ノルンに対してタルトはそのタイトルに衝撃を受けていた。

あまりの驚きに動きが止まったままである。


(ウル!

さっきのタイトル分かるよね!?)


ようやく衝撃から元の冷静さを取り戻しノルンではなく同じ理解をしたであろうウルに尋ねた。


『ええ、マスターの認識した通りタイトルはアルファベットで書かれてました』


アルファベットは元の世界の文字でありノルンが分かるはずもないのも当然である。

問題はアルファベットが書かれた本が何故、こんな場所にしかも数千年も前にあったかなのだ。

尚もタルトは心の中でウルと会話を続ける。


(あの単語は教科書で見たことがあるよ。

確か…バイブルだったよね?)

『その通りです。

日本語でいうと聖書ですね。

元の世界で最も出版された本と言っても過言ではないでしょう』

(それが何でこんな場所に…?)


タルトは頭の中がこんがらがってしまった。

この世界に来て初めての元の世界のモノに出会ったのである。


『今まで疑問だった事の一つについて回答を得たかもしれません』

(あれだけで何か分かることがあるの?)


タルトの疑問も最もだ。

本が崩れる前に確認できたのはタイトルだけなのだから。


『良いですか、この世界に来て不思議に思うことがありました。

それは天使や悪魔の名前です』

(それってシトリーさんやノルンさんの事?)

『それ以外に大天使のガブリエルや悪魔王のルシファーはとても有名ですね。

勿論、カルンやリリスも元の世界の悪魔にある名前です』

(それとどう繋がるの?)

『ここは天使や悪魔がこの世界に現れる前に封印された場所です。

つまり、誰かは分かりませんが聖書を参考に天使や悪魔に命名したとすれば筋が通ります』


確かにウンディーネは悪魔も天使も知らないと言っていた。

その後に現れた何者かが聖書を手に入れ悪魔や天使に命名した可能性は大いにある。


(一体、誰なんだろう…?

私みたいにこの世界に迷い込んだ人が他にもいたのも気になる…)


予想外の出来事が発生しこの世界の謎は更に深まったのであった。

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