196話 西へ
「情報というのは聖女様が探されてる古い神殿に関するものや」
「神殿!?
もしかして場所を知ってるんですか?」
「ええ、反応されますな!
交渉する時はもっと本音を隠された方がええですよ。
まあ、馬鹿正直なところも聖女様の良いところですやん」
「うっ…すぐに感情が顔に出ちゃうんですよ。
それに嘘って苦手なんですよね…」
「それに今回は別に交渉するつもりもないですから安心してや。
でも、毎回そうとは限りませんから注意することですわ」
「こういう役は違う人にお願いしようかな…」
すっかり落ち込むタルト。
裏表もなく正直なので元の世界にいたときはババ抜きも弱く勝負事に向いてない性格である。
「さて、詳細な話は専門家を呼びますわ。
そろそろ王としての仕事もせなあかんので失礼しますわ」
王が合図を出すと学者風の男が入ってくる。
「後は任せたで。
では、聖女様、ゆっくりしてってな」
そう言い残し部屋を出ていった。
「何だか王様らしくない人でしたね…」
「ははは、陛下はいつもあんな感じなんですよ。
誰に対しても平等に接しますから民からは好かれています。
その点は聖女様も同じかもしれませんね」
「確かに話しやすかったかもです。
それじゃ、詳しい話を聞かせて貰えますか?」
「ここレッジドでは様々なものが流通しているのですが稀に珍しい品が出てくるんです。
その中にケントで見つかった遺跡の一部があるんです。
我々としてはかなり古い遺物としか考えてませんでしたが、聖女様が探されてるという情報が入ったのです。
どうして探されてるのか訳は知りませんが陛下が情報を伝えるとお決めになりました」
「本当に同じもの何ですか?」
「ええ、意味は不明ですが同じような紋様がありますので同年代と推測されます。
出来ればその遺跡に何があるのか教えて頂きたいものです」
「えっ、えぇーと…精霊が封印されてるのを解放してるんですよ」
「精霊…ですか。
なぜ封印されてるんですか?」
「それが分からないんですが可哀想だから出してあげたいじゃないですか」
「さすが聖女様、お優しいことです。
脇にそれてしまいましたが話の続きをさせて頂きます。
かなり昔から遺物を収集し過去の文明について調査は行われており、発見された場所近くに遺跡があるのではと考えられていました。
そして、その場所というのがこの地図でいうここになります」
文官は地図を机の上に広げた。
それはレッジド全体をほぼ網羅した地図であり、王都からさらに西方にある山脈の辺りに印が付けてある。
「風の洞窟か!?」
その場所を見てノルンが驚く。
「さすが天使様です。
ここは山脈に無数の洞窟がありその中を物凄い暴風が吹き荒れており、通称で風の洞窟と呼ばれています」
「ノルンさんも知ってるんですか?」
「ああ、更にその先には天使の住まう土地があり、その山脈は幾度となく通りすぎた事がある」
「へー、じゃあその辺りはよく知ってるから楽勝ですね」
ノルンは席を立ち窓際へと歩いていき空を眺めながら話し出した。
「そう簡単にはいくまい。
まず風の洞窟とは説明があったように常に暴風が様々な方向から吹き荒れている場所でまともの進むことが出来まい。
我ら天使も避けるように遥か上空を飛んで越えていくのだ。
次に他の天使に気づかれる恐れがある。
タルトは天使に敵対心を持たれてるからな。
バレたら襲撃を受けるのは間違いない」
「ふぅーん、じゃあバレずにこっそり行けば良いんですね。
風くらいならどうにかなりそうな気がしますし」
「何とかって…いや、お前なら簡単に成し遂げるのだろう。
では、慎重に徒歩で近づくことにしよう。
麓までは上空からの監視を森が隠してくれるだろう」
再びノルンは机に戻り地図上のルートを指差していく。
この王都から山脈までを辿りながら説明をしていった。
「暫くは街道を進んでいこう。
馬車の中にいれば見つかることはないだろう。
そして、最後の村を過ぎたら人通りがなくなるので街道はまずい。
森に入り徒歩で山脈を目指す」
「遺跡に行くならもっと応援を呼びましょうか?
また、影が現れるかもしれませんし」
「おいおい、ここは天使がうようよいる場所だぞ。
悪魔や鬼、獣人といった闇の眷属がいたら見つかった時に更に面倒だ」
光と闇は大昔より争い続けており情け容赦等、存在せずタルト達がこの世界では異常なのだ。
「だから、今回は隠密で行動し誰にも気付かれずに目的地に辿り着くぞ」
「隠密行動って格好いい響きですね!
二人ならバレなさそうかな」
じっと聞いていた文官がタイミングを見計らっていたのか話が終わりとみて口を挟む。
「話が纏まったようですので本日は食事にされては如何でしょうか?
ゆるりと滞在頂き準備が出来次第、出発されては?」
「うむ、そうだな。
今日は泊まらせて貰おう。
明日に必要なものを準備して明後日、発つことにしよう」
「やったー!
明日は街で色々見て回ろうかな」
嬉しそうなタルトは翌日、街中の散策を一日中満喫したのであった。
そして、出発の朝、タルトは大きな荷物を背負っていた。
それを見て呆れるノルン。
「その大きな荷物は何が入ってるんだ…?」
「いやー、昨日お店を見て回ったら美味しそうなものがいっぱいあったのでつい買っちゃいまして!
旅の途中で食べようかなーなんて」
「はぁ…遊びに来てる訳ではないんだが。
まあ、いい。
荷物を馬車に積んで出発するぞ」
「はーーい!」
中は様々な食材が入っており馬車に積み込むだけでも一苦労だった。
しかも、重量が増えたからか馬車の進み具合が遅い気がする。
「おいおい、これじゃ予定より到着が遅れるぞ」
「いいじゃないですかー、別に期限もないんですからゆっくり行きましょう!」
「全く…」
「ノルンさん、そういう時は…やれやれだぜって言うんですよ」
「何の話をしてるんだ?」
そんな雑談をしながら馬車は街道をどんどん進んでいった。
二日の後には最後の村に到着したので馬車を馭者に任せ徒歩で森を進む準備をする。
水は魔法で出せるのでほぼ食べ物だけを持っていく。
「出来るだけ急ぐぞ。
姿は見られないがいつ気付くか分からないからな」
ノルンが言った通り深い森は自分達の姿を隠してくれるが、反面、上空の様子が分からない。
走るように木々の間をすり抜けていく。
途中、休憩をしながら夜には山の麓に辿り着いた。
「これ、どこを歩いて登るんですか…?」
大きい荷物を背負い目の前のそそり立つ岸壁を見上げる。
「道なんてあるわけないだろう。
誰もこの山脈に立ち入るものはいないんだ。
壁ギリギリを飛んでいくぞ」
「もう真っ暗ですけど…」
「だから、黒いフードを纏い夜の闇に紛れるのだ。
森を出たら見られてしまうから、行動は素早くな」
「はーい、ぴったり付いていきます!」
山の斜面ギリギリをぐんぐんと上昇していく。
ひとつ、ふたつと峠らしき場所を越えていくと目の前に剣や槍のように尖った山頂がいくつも見えてきた。
それと同時に物凄い暴風が吹き荒れており必死に堪えないと吹き飛ばされそうだった。
「ふぎゃぎゃぎゃぎゃあああ!
風がっ!風がっ!
一旦待避!」
近くにあった岩影へ避難した。
「思った以上に凄い風だな。
見ろ、あの遠くの山肌に小さな穴が見えるだろう?
あれば風の洞窟だ」
「一体、誰があんな場所に遺跡を造ったんでしょう…」
行く手を阻むように暴風と荒々しい山肌が横たわっていた。




