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193話 帰還

桜華やシトリー達が迷宮に入り数日が経過し入り口は再度、封印されてあった。

エルフの里の長であるトゥアハは毎日、お昼に扉の封印を解き帰還者がいないか確認している。

この日も里から一人迷宮へと赴き封印された扉の前に立ち鍵穴へ鍵を差し込む。

鍵を回し封印が解かれた瞬間、話し声が中から聞こえてきた。


「おっ、開いたみたいだな。

さっさと帰って酒でも飲み直そうぜ」

「姫様…浮かれすぎです。

未だに街は復興中なんですから」

「でも、桜華さんの言う通り哀しい事があったから祭りを再会して活気を取り戻すのも良いですね!」

「おっ、さすがタルト!

分かってるじゃねえか」


扉が開き意気揚々と帰還した一行が再び日の下へと戻ってきた。


「無事に目的は遂げられたようじゃの」


トゥアハは満足そうに一行を順番に眺めタルトのところで視線が停止した。


「この子は誰ですか?

エルフの子供みたいですがやっぱり可愛らしいですね!」


寝ていたタルトは初対面であり迷宮の入り口に子供が立っていることが不思議だったのだ。


「まあ、初めましてと言っておこうかの、聖女殿。

ワタシはここの長を務めておるでの。

じゃから年齢でいえばエルフの中で最高齢なのじゃよ」

「えぇーっ!?

私より少し幼く見えるのにお婆ちゃん…じゃなくてそんなに高齢なんですね!

だから、口調が年寄りっぽいんだ」

「気にすることはない。

よく間違われるから慣れておる。

それよりも元気になられて何よりじゃ」

「あっ、そうですね。

寝てて全然覚えてないですけどお世話になりました!

お陰ですっかり元気になりました」

「皆、ご無事に戻って良かったわ。

お疲れじゃろうから里でゆっくりと休まれるが良い」


トゥアハに付いて里へと戻ると長机の上にところ狭しと豪華な食事が並べられていた。

それを見るなり食事の前まで駆け出してなめ回すように眺めるタルト。


「よく考えたら全然ご飯を食べてないっ!!

もうお腹と背中がくっつくくらいペコペコだよぉ…」

「育ち盛りの若者は沢山食べなされ。

ここは豊かな森だから沢山の恵みを頂いておる。

素材が良いからどれも美味しいのじゃ」

「わあああああ!

じゃあ、さっそくいただきます!!」


すると目の前の料理を口いっぱいに頬張り始める。

他の場所でも料理を堪能している姿があった。

暫くの間、迷宮に潜っており日持ちはするが決して美味しいとは言えない簡易な食事しかしていなかったから箸がどんどん進む。

そんな光景を端の席に座りお茶をすするトゥアハは頃合いをみて話を切り出した。


「それにしてもあの迷宮の深部まで侵入して誰一人として欠ける事なく帰ってくるとはな。

良ければどんな場所だったか教えてくれるかのう?」

「トゥアハ様、それではワタシが説明させて頂きます。」


ティアナは皆が食事を楽しんでるなか、トゥアハに迷宮内での出来事を物語を話すように聞かせる。

それを興味津々に聞いているトゥアハ。


「… 以上です。

それがワタシが地下20階までに見た全てになります。

尚、いずれ本に纏めようと思ってます」

「そうか、それは楽しみじゃのう。

やはりそのような恐ろしい魔物が潜んでいたとは…」

「ええ、そこにいる桜華やシトリーという者はタルトの眷属になることで元々とは比にならないくらいの力量があるのですが良くて相討ちくらいの魔物でした」

「その魔物を子供のようにあしらってしまった聖女殿の実力は計り知れないのう。

お主が興味を持つのもよく分かる。

もし、ワタシが若ければ一緒に付いていきたいくらいだわい」

「興味を持ってくださると思いました。

タルトはただ強いだけでなく何かこの世界を大きく変えるものをもってるんじゃないかと考えています」


「ああ、カルンちゃん!

まだ、それ食べてないのに全部食べちゃってる!」

「へへ、こういうのは早い者勝ちダゼ!」


トゥアハとティアナは子供のようにはしゃぐタルトを眺めながら暫く語り合った。


翌日、エルフの里を発った一行はポーウィスの王都に寄り王へと挨拶をした。

そこで一泊した後にアルマールへ向けて帰路へと着く。

馬車を桜華、雪恋、ティアナに任せ残りは飛行して先を急いだ。

桜華だけは観光して帰る気で喜んでいたのだがタルトは街の様子が気がかりなのである。

リーシャを抱えかなりの速度で飛ぶことで翌日にはアルマールへと着いた。

大広場へとタルトが降り立つと民衆が押し寄せ大歓声が巻き起こる。

それだけ心の支えであるタルトが倒れた事がショックであり、元気になった姿を見て人々は歓喜したのだ。


「何の騒ぎかと思ったら無事に戻ったようだな」

「ノルンさん!!」


群衆を掻き分け白い羽を持つ天使が現れタルトを見てフッと笑みを浮かべた。

アルマールへと残り万が一の備えと街の復旧に尽力していたノルンである。


「ご心配お掛けしました。

この通り元通りに元気です!」


くるっと回り元気をアピールするタルト。


「ふむ…何があったかは分からないが魔力が更に強化されたみたいだな」

「うぅーん、確かに沸き上がるような何かは感じますが何ででしょう…?」

「詳しい話は後で聞こう。

それよりも帰ってきてすぐで悪いが付いて来てくれ」


ノルンの後ろを歩きながら集まってくれた人々へ手を振るタルト。

やがて、神殿へと入り上階の居住スペースへと移動した。

やがて、見覚えのある扉を開き中で眠る少女の傍らに立つ。

ベッドには全身に酷い火傷を負った少女が横たわっていた。


「セリーンちゃん…」


それは脅迫されていたとはいえタルトに呪いの短剣を突き刺した本人である。

その後の戦いで死人となった実の姉を止める為、自らを犠牲にしたのであった。


「セリーンは姉を抑えつけ私の奥義をまともに受けたことにより生死をさ迷っている。

僅かだがあの時、タルトの生き血を分け与えた事で一命をとりとめたのだろう。

お前なら治療が出来るのだと思うがどうする?」


民衆の中には裏切り者を断罪する意見も確かにあった。

タルト以外に治療出来るものがおらず寝込んだまま処遇を保留にしていた。

もし、タルトが死んでいたら許される事はなかったであろう。


「答えは最初から決まってます!

もちろん助けるに決まってるじゃないですか!」


なんの躊躇いもなく返答する。


「まあお前ならそう答えると思っていた。

だから、可能な限りの処置はしておいたが後は頼む」


こくっと無言で頷くと手を翳し治癒魔法をかけ始める。

あっという間に重度の火傷は消え去り元の白く美しい肌へと戻った。


「ふぅ…外傷はこれで大丈夫かな。

あとは血を飲ませないと」


タルトは魔法で腕を少しだけ傷つけ滴る生き血をセリーンの口へと垂らす。

最初は反応がなかったが喉が僅かに動き飲み込み始めた。

やがてタルトの腕を掴み直接しゃぶりつくように吸いだしたのである。

すると焦点の合わない目に光が戻るように意識もはっきりしてきた。


「ん…ここ…は…?」


そして、タルトの姿を見た途端、驚愕と恐怖に囚われたように怯え土下座するように頭をベッドに擦り付ける。


「タルト姉様!!

私…私…ごめんなさいっ!!

ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!

謝っても許されることじゃないけど…。

本当に…本当にごめんなさい!!!」


タルトはセリーンに近付きそっと頭を撫でる。

怯えながら顔をあげるセリーンをぎゅっと抱き締めた。


「怒ってなんかないよ。

セリーンちゃんは私の大切な妹なんだから。

それに今まで誰にも言えず一人で辛かったね」

「ぅ…ぅ…う…うわあああああああああああああああああああああああああああぁぁ!!」


心の底から響く魂の叫びのような鳴き声は外の広場まで聞こえたという。

その声を聞いた人々は心が締め付けられるような感覚を感じた。

暫くして泣き止んだセリーンに対し一番の笑顔を見せるタルト。


「これからどんな事でもお姉ちゃんに任せなさーい!!」

「うん!」


こうして大きな哀しみを乗り越え再び復興を祝した祭りを開催したのである。

そこには本当の姉妹のように笑い合うタルトとセリーンの姿があった。


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