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188話 ネッソス

「次から次へとうぜえぇんだよ!!」


オークを袈裟斬りにする桜華。

周辺には斬られるか焼き殺されたか、毒殺されたかの魔物の死体があちこちに転がっていた。


「ちっ、切りがねえな。

少し進む度に大量の魔物が出てきやがる」


桜華の言う通り迷宮の入ってからというもの少し進むごとに魔物に囲まれては倒すというのを繰り返している。

それでも、何とか順調には進んでおり地下9階まで来ていた。


「それにしても見たことねえ魔物だし地上の奴より強エナ」

「カルンの言うのも分かる。

ワタシは皆の戦いを見ていたからどの個体も地上でいる魔物より身体能力が高いようだ。

しかも見た目も独自の進化をしたのか凶暴になっている」


ティアナはタルトを背負っており戦いには参加せず避難に徹していた。


「強くないと生き残れない場所なのデショウ。

弱肉強食が摂理の世界では当然デスワネ」

「それは違うかもしれないぞ。

魔物同士で争っていることは見られなかった。

外から来たワタシ達だけを敵として認識し襲ってきていたみたいだ」

「違う種族の魔物同士が仲間意識を持っているとでも言うのカシラ?」


通常、全く異なる種族の魔物同士では縄張り争いが起こることもよく見かける光景である。

強者に統率されない以外は協力して敵と戦うなどあり得ないのだ。


「何とも言えないが統率するような個体もいなかった。

だが統一された意思みたいなものを感じた気がしたんだ」

「誰かが指示してるって事カ?

こっちは急いでるんだから勘弁してクレヨナ」


リリスは心底嫌そうな顔をしている。


「それに迷宮という割には迷わすような造りになっていない。

迷路のようになっていればこんなに早くは進めなかっただろうしな」

「そんなことはどうでもいいから進もうぜ。

誰のどんな思惑だろうがやることは決まってるしな」

「姫様はもう少し考えることもしましょう…」


雪恋はお願いするように桜華に言う。

昔から考えなしに行動する桜華に苦労させられているからだろう。


「あながち桜華の言うことも間違ってないだけどな。

ワタシ達は先に進むしかないのは確かだ。

でも、未知な領域に踏み込んでいる以上、警戒しながら行かないと罠に掛かって全滅もありえるからな」


ティアナはここの構造に気になる点があった。

ほとんどが通路で出来ているがいくつか大きな部屋になっており入り口に今は朽ちているが牢のように閉じ込める構造だったように見える。

それが意味することはいくつか想像できるが確信に至るような証拠は残ってなかった。


「オイオイ、また来たみたいダゼ…」


カルンが指差す方に魔物の群れが見え、こちらにゆっくりと近づいてきている。


「今までと同じならそろそろ下に行く階段があるはずだ!

ここは戦いで体力を消耗せずに逃げるぞ!」


ティアナの進言により一斉に逃げる一行は5分も掛からずに下へ向かう階段を見つけ駆け降りていく。

転げ落ちるかのように下の階へ駆け降りると来た方向へ振り返る。


「追って来ねえな…」


警戒しつつ構えを解く桜華。


「何で来ねえンダ?」

「自分の縄張りを出ないノカ…。

それとも、絶対強者がここにいるのかもしれマセンワ」

「皆様、お静かに…」


前方を警戒していた雪恋が注意を促す。

暗い通路の先から何かが這いずるような音とシュルルルッと微かな音が聞こえてくる。

やがて、シトリーが作り出した炎の明かりに大蛇のような魔物の姿が浮かび上がった。


「シャアアアアアアァァ…」


先程の音は長い舌を出したり引っ込めたりしてるものであり、感情のない冷たい視線が一行を見定めるように見渡している。


「これはずいぶんとデカブツが出てきたなあ。

だからといってやることは…変わらねえけどなっ!!」


言い終わる前に刀を片手に突っ込んでいき魔物の首を目掛け跳躍する。

魔物が反応するより速く桜華の刃が届くが鈍い音が響き渡り硬い鱗に弾かれてしまった。

地面に着地した桜華に魔物が何か液体を吐き出し飛ばしてくる。


「キショいんだよ!」


飛んでくる液体を叩き斬ろうとする桜華。


「ヤベエ、避ケロ!!」


リリスの叫び声に一瞬で反応し攻撃をキャンセルし回避に徹する。

桜華がいた地面に液体が掛かり一瞬で溶かされていく。


「避けてなかったらあの世行きだったなあ。

助かったぜ、リリス!!」

「あれは…激やばな毒ダナ。

触れるだけで腐食させるくらいの威力トハナ…」

「とはいえ、鱗も硬えしなあ。

こんな場所で時間くってる場合じゃないんだぜ」


思わぬ強敵の出現に対応を迷う一行。


「これは文献で見たことがある気がする…。

蛇のような姿に猛毒を吐く…確かネッソスだ」

「文献というからにはかなり古いのデスワネ?

ここには神の遺物があるのですから古の魔物も封印されていても不思議じゃありマセンワ」

「古の魔物ね…。

ヒュドラには苦労させられたからなあ。

問題はこいつをどうするかだな…」


今までと違い一筋縄で倒せる相手ではないと判断したが、まだ先も長いことから時間と体力の浪費は避けたいのだ。


「コイツの相手はアタシとリリスに任せて先に行きナ」

「カルン、お前何か秘策でもあるのか?」


ティアナの問いにカルンは親指を立てて応える。


「 秘策だか何だか知らないがカルンとワタシに任せて先に進んで貰うのが得策ダナ」

「リリス、お前も…。

よし、二人に任せて先に進むぞ」


ティアナ達は全力で部屋の隅を走り抜ける。

ネッソスも反応して顔をそちらに向けようとすると無数の真空の刃に襲われた。


「お前の相手はアタシ達だって言っタロ。

少し遊ぼうゼ」

「シャアアアアアアァァ」


無表情な顔からでは判断つかないが邪魔された事で苛ついているようだ。


「オイ、カルン、勿論秘策ってもんがあるんだロウナ?」

「アア、倒すんじゃなくて時間稼ぎダガナ。

目的のモノを見つけたらおさらばッテナ」

「もしかしたら復活したタルトがどうにかしてくれるかもしれネエナ。

それでどうするンダ?」

「それハナ…」


カルンはリリスの背後の隠れるような位置に移動する。


「こうするんダゼ!

リリスの盾!!

さあ、どんな毒でも中和してヤルゼ!!」

「ハアァッ!?

お前、ナに考エテ!?」

「フシャアアアアアアァァ!」


ネッソスは再び大量の毒を吐き、リリスとカルンの頭上から襲いかかる。

リリスがカルンを振り払い素早く逃げ出すと遺されたカルンも後方に飛び退いて辛うじて回避した。

二人がいた場所の地面が強力な毒で溶かされていく。


「お前何で避けるんダヨ!?

危なく毒を浴びるところだったジャネエカ!!」

「馬鹿はお前ダ、カルン!

あんなもん、中和する前にワタシが溶けて死んじまうダロ!」

「どうにかシロヨ、毒は専売特許ダロ!!」

「専売特許にした覚えはネエヨ!

どうするんダヨ、この状況。

これが秘策じゃどうにもならねえジャネエカ!」


「フシュルルルルル…」


喧嘩する二人の目の前に凶悪な顔が現れる。


「「逃げロオォ!!!!!!」」


リリスとカルンは一目散に逃げ出し狭い通路を飛びながら後方を振り返る。

ネッソスが大きい図体の割りに予想外の速度で追い掛けてきていた。


「こうなったら皆が戻ってくるまで追いかけっこダナ!」

「まじカヨ…」

「元はといえばお前の下らない思い付きのせいダロ!」


ネッソスの移動速度では追い付かれそうもなかったので、このまま時間稼ぎしようとしていた。

狭い廊下を進んでいき先が左右に分かれていたので左に曲がっていく。


「シャアアアアアアァァ」


なんと曲がった先にもう一匹のネッソスが待ち伏せをしていた。


「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァ!!」」


空中で何とか停止し右側の道へと懸命に戻っていく。

二人とネッソスの追いかけっこはまだまだ続くのであった。

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