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187話 魔物の迷宮

シトリーの説明を聞いて少し考えたあと、トゥアハはタルトの背中にある紋様を確認する。


「この紋様は…似ているものを見たことがある」のう

「本当ですか、トゥアハ様!?

一体、どこでそれを?」

「まあ、あせるでない、ティアナ。

エルフに伝わる蔵書の中にあったかのう。

いつから伝わってるかや著者は不明じゃが似たような紋様があった」


次の言葉を固唾を飲んで待つ一同。


「それは今は廃れた呪いを修めた蔵書であった。

だが、解呪の法は書かれておらんかった」


場には重苦しい空気が流れる。


「タルトさまはどうなるんですか…?」


タルトの手をぎゅっと握っているリーシャが泣きそうな顔をしながら尋ねる。


「お主は小さいのに偉いのう。

そんな健気な想いに応えて良いことを教えてやろう」

「?」


リーシャはきょとんとした顔でトゥアハを見つめる。


「ティアナよ。

この街を出て北に真っ直ぐ進むと何があるのじゃ?」

「北…ですか?

それは聖域と呼ばれる禁足地ですよね?

小さい頃よりそう教わりました」


トゥアハは満足そうにティアナの頭を撫でる。

知らぬものが見れば少女が年上の頭を撫でるという違和感を感じるだろう。


「大人になったのう。

小さい頃はそこに立ち入ろうとするヤンチャだったのにのう」

「だから、今はそんな話はどうでもいいでしょう!!

それでそこに何があるんですか?」


顔を真っ赤にして訴えるティアナ。

普段見せない顔に周りは笑いを堪えるので必死だ。


「最初に言っておくが伝承じゃから真偽のほどは誰にも分からんからな」

「エエ、それでも構いマセンワ。

それほど情報が足りマセンノ」

「ふむ…禁足地の中に大きな洞窟がある。

そこには重厚な扉で封印がされており、その先に地下に通ずる階段が続いておる。

それがいつから存在するかといえば…まだ神が地上にいた時と伝わっており、どこまで深く続いているかは不明じゃ」

「そこに何があるというのですか?」

「伝承によるとそこの地下20階にある道具が眠っているそうな。

その名を女神の涙といいどんな病気や呪いでも治すと伝わっておる」


最後の一言に希望を見出だす一同。


「つまりその洞窟にはいって女神の涙っていうモノを探せばいいんだな?

何だ簡単じゃねえか、ここまでの長旅に比べれば楽勝だな」


桜華は皆の気持ちを代弁した。

遂に具体的な情報を得て、あと少しという場所にあると聞いたのだから喜ぶのも無理もない。


「そう簡単にはいかないかもしれんのう」


トゥアハは真剣な顔で言い放つ。


「何故、そこが禁足地と呼ばれ洞窟に封印がされてると思うのじゃ?」

「その中にヤベエのがいるんじゃネエノカ?」

「ほう、そこの悪魔は頭が回るのう。

その洞窟は魔物の迷宮と呼ばれておる」

「魔物の迷宮…良いねえ、面白そうな名前だねえ」

「そっちの鬼の子は血気盛んじゃのう。

そこにいる魔物はそこに眠る宝を守っているのか、凶悪でそこに封じられたのかは分からぬが困難な道の中であるかも分からぬ宝を探す事にのじゃ。

それでも行くのかの?」

「他に選択肢はありマセンワ。

例え相手が神であろうと行きマスワ」


シトリーの目には固い決心の炎が宿っていた。


「そうかい。

そこまでの覚悟があるなら止めはせん。

気の済むまでやるが良かろう」

「時間もないので準備が出来次第、出発だと思うがタルトはここに残していくか?」


ティアナは寝ているタルトを見て自分の中でもどっちが良いか悩んでいる事をこの場の全員に共有する。

それだけ危険が大きいと予測される場所に動けないタルトを連れていくリスクはあるが、どんなアイテムかも分からずその場での治療も考慮すると連れていった


「タルト様を置いて行くなんてありえマセンワ。

何があってもお守り致しマスワ」

「そうだな、手が届く範囲じゃねえと守れねえしなあ」

「聞くまでもなかったか。

トゥアハ様、早速、出発しましょう」

「そうか。

今日はもうすぐ日も暮れる。

ゆっくり旅の疲れを癒し明日の朝に出発としよう」


一行は久しぶりに横になり休むことが出来、英気を養い元気を取り戻す。

エルフの里は夜に光る植物が至るところに生えており幻想的な雰囲気で見るものの心を癒した。

翌朝には長旅をしたとは思えないほど体の調子が良くなっている。


「見違えるほど元気になったようじゃのう。

準備は出来たかの?」

「ええ、問題ありません。

先導お願い致します」

「分かっておる。

付いて来るがよかろう」


トゥアハに付いて建物を出て里の裏手にある細い道を進んでいく。

少し進むと侵入を拒むように木の塀が作られ立ち入り禁止と書いてあった。


「ここから先が禁足地になっておる」

「やんちゃな誰かさんが立ち入ろうとしたところだな」

「その話は忘れてくれ!

小さい頃の話だ!

さあ、時間がないんだ、先を進むぞ!」


ティアナは木の戸を押し開けずんずんと進んでいく。

場の雰囲気も和みこれから危険の予想される死地に赴く気持ちが少し和らいだ。


「空気が変わりましたワネ。

周辺に生物の気配が一切しまセンワ」


シトリーは明らかに変わった空気に警戒感を強める。


「これこれ、まだ洞窟に入ってもいないのに気を張ってたらもたんぞ。

ほれ、あそこに見えるのが入り口じゃ」


道の終点には大きな穴がぽっかりと空き来るものを全て飲み込むかのような暗闇で奥が全く見えない。


「ここはヤベエ…。

アタシの本能が訴えてヤガル…」


悪魔であるカルンが弱気な発言をするなど珍しいことだ。

それほど肌で感じられるほどの殺意のようなものが洞窟の奥から放たれているようである。


「今からでもやめても良いのじゃが?」

「ここまで来て引くわけねえだろう。

うちは一人でもいくぜ」

「ティアナ、リーシャは戦闘よりタルト様を頼みマスワ。

何としても女神の涙のある場所にタルト様をお連れしマスワ」


決心を確認したトゥアハは洞窟へと入り大きな門の前で止まる。

そして、どこからか大きな鍵を取り出し鍵穴へと差し込む。


「この門は中に潜むものを外に出さないようにする封印でのう。

鍵は代々、長に受け継がれてきたのじゃ。

開けたという言い伝えは残ってないでのう。

何が待ち受けているか分からぬが気を付けて行くがよい。

お前達が入ったら再び門は閉めて外で待つ。

戻ってきたら門を叩くがよい」


そう言いながら差し込んだ鍵を回すとゆっくりと重厚な音を立てて門が開いていく。


「ではトゥアハ様、行って参ります。

心強い仲間も出来ましたので必ず戻って来ますから安心して待っていてください」


こうして一行は闇に包まれた通路を進んでいった。

遺されたトゥアハは先程のティアナの言葉を思い出す。


「あの子が仲間とはな。

一人で行動するのが好きで他人に興味を示さなかったのに誰かの為に一生懸命になるとは長生きはするもんだのう」


一人佇み暗闇をいつまでも見つめていたのであった。

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