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185話 呪いの解き方

太陽は一番高い位置まで来ている。

街では祭りの片付けではなく遺体の対応に大忙しだ。

只の遺体に戻っても墓所に戻す為には誰なのかを調査する必要があるか見分けるのが困難であった。

身元不明の遺体は共同墓地に入れることとし急ピッチで穴を掘る作業を進めている。

だが、それよりも人々の不安は別のところにあった。

民衆の期待と希望を背負い常に見守ってきた彼らの女神的な存在であるタルトが死の淵にいることである。

戦闘終了後に神殿に運ばれ寝室で休んでいるが側には心配そうな顔のリーシャがいた。


「タルトさま…」


ぎゅっと手を握り朝からずっと付きっきりで看病をしていた。

そこへ怪我人の治療を終えたミミが合流する。


「ようすはどうなのです?」

「ミミちゃん…しずかにねてるよ。

でも、なおしかたがわからないんだって…」


泣きそうなリーシャの頭を撫で励ますミミであった。

その頃、街の復旧や遺体の対応をしていないメンバは今後の方針を議論している。

オスワルドが重々しい空気の中、進行をしている。


「遺体の片付けは街の人々も協力的で少しずつ進んでいます。

それよりも問題は聖女様の事で…。

今が落ち着いて寝られているようです」


ここでリリスが呆れたように口を挟む。


「あとここにいるもう少しで右手が炭になりそうだったヤツと全身から血を吹き出して筋組織がズタズタのヤツは大人しく寝てロヨ…。

いくら悪魔と鬼の自然治癒が早くても今朝の事ダゾ」


そこには右腕と全身を包帯でグルグル巻きにされたシトリーと桜華の姿があった。


「タルト様の一大事に寝てなんかいられマセンワ。

それにあと30日しかありマセンノ。

一秒も無駄に出来マセンワ」

「うちも眠っていた力を引き出してたった一撃でこんな有り様じゃあ鍛え方が足りねえ。

お寝んねして場合じゃねえなあ」

「全く馬鹿ばっかりダゼ…」


呆れるリリスであったが今は一人でも多くの味方が欲しいところであるのが正直な気持ちであった。

頑として素直の言うことを聞く気がしないのでほっとくことにする。


「お二人も含めて聖女様の呪いについて知恵を出しあってみましょう。

私も文官に指示を出しましたがこの国の資料にはヒントとなるような記述はございませんでした…」


オスワルドは悔しそうに調査結果を伝える。


「そこでふと思い付いたのですが悪魔に呪いについて詳しい者はいないでしょうか?」

「ルシファーなら何か知ってるかも知れませんが、目的も不明のヤツの手は借りたくありまセンワ」

「多分、カドモスが詳しかったと思うが誰かさんがあの世に送っちまったカラナー」


キッとカルンを睨み付けるシトリー。


「あんなヤツ死んで当然デスワ。

タルト様への数々の無礼、万死に値しマスワ。

それよりも悪魔は呪いを掛けるのが得意だとしても解く方法はそこにいる天使の方が詳しいんじゃないカシラ?」

「簡単な呪いなら解呪の方法も聞いたことがあるが今回のは名前すら知らないな。

大天使なら知ってる者もいるかもしれないが協力どころか下手したら滅ぼされかねないからな」


先日にガブリエルが攻めてきたことは記憶に新しい。

誰が見ても協力などお願いできる関係性にないのが明らかであった。


「ひとつ良いだろうか?」


八方塞がりで沈黙するなかティアナが急に話を切り出した。


「全くもって可能性は低いのだがエルフの里に行けば何かしらの情報はあるかもしれない」

「エルフの里とは最北の国ポーウィスのあるとお聞きしてますが」

「ああ、そうだ。

前にも話したがエルフとは長命で暇を弄んでいるから世界の理を研究し続けている。

その資料の中に呪いに関するものもあった気がするのだ。

勿論、この呪いについてある保証などないのだが人間の国が所有している文献より遥かに優れていると思うぞ。

それに長老にも話を聞いてみたいと思う」


ティアナの提案に僅かだが光明が見え葬式のような雰囲気も今は消え去っていた。


「他に良い案がないのでしたら直ぐに行動に移しマショウ。

勿論、ワタクシは同行致しマスワ」

「タルトがあんな状態じゃあ、護衛が必要だろ?

うちも付いていくぜ」


ワイワイと次々立候補の手が挙がり収拾がつかなくなってきたが、シトリーの恐ろしい剣幕に皆が逆らえず決着をみたのであった。

ポーウィスへ同行するのは案内役のティアナ、治療役でリリス、警備として桜華とシトリー、二人のなだめ役で雪恋、タルトのお世話役でリーシャ、リーシャの面倒見としてカルンというメンバである。

残りはノルンとオスワルドを筆頭に街の警護として残ることにした。

暫くは遺体の対応とその傷跡が人々の心に残ったままであろう。

それを癒すためにもタルトに元気になって貰うしかないのだ。

翌日の朝にはポーウィスに向けた馬車などが用意され出発したのである。


「昼夜休まず進みナサイ。

タルト様に残された時間は少ないのデスワ」


シトリーの檄が飛び強行軍として一路ポーウィスを目指して進んでいく。

交代で御者と見張りを行い物資の補給で立ち止まるくらいであった。

ディアラ、ドゥムノニアと誰にも悟られぬよう出来るだけ早く通り抜けポーウィス国境まで通常は一ヶ月かかるのを一週間弱で駆け抜けていく。


「そろそろポーウィス領に入るな。

エルフの里に行く前に王都があるから報告だけは行っておこう。

もし、襲撃を受け戦闘が起こればこの国に迷惑を掛ける訳だしな」

「筋を通すのにティアナの言う通りにシマショウ。

ですが、用が済んだらすぐに出発しますワヨ」

「ああ、それで構わない。

国王は理解のある人だ。

事情を話せば引き留めはしまい」


かなり北に位置するだけあって気温が低くなり周囲の木々が巨大な針葉樹に変わってきている。

針葉樹の深い森を進むとやがて大きな街が見えてきたのであった。


「あれが王都だ。

私は門番にも顔が知られているからスムーズに王へ謁見出来るだろう。

タルトは寝かせたままとし後一人付いてきてくれ」

「良いデショウ。

ワタクシが一緒に参りマスワ」


他の国の王都と違い落ち着いた趣のある町並みで石造りの家が並んでいるのは寒さ対策なのだろう。

王の住む城も重厚な石積みで出来ており防御も堅牢だと思わせる。

大通りを脇目も振らずに真っ直ぐ城へと馬車を進め正門の前に止めた。


「これはティアナ様!

お久しぶりでございます、いつ戻られたのですか?」


門番はすぐにティアナに気付き話しかけてきた。


「今戻ったばかりだ。

すまないが王に急用の為、すぐに会えるか伺ってくれないか?

ヴァーニシアの聖女のお願いといえば無理も通るだろう」

「はっ、直ぐに行って参ります!!」


門番は城の中へと走って消えていった。

数分しか経っていないのに戻ってきて中に入るように指示される。

城壁内へ馬車のまま入り城内へはティアナとシトリーだけである。

近衛兵に来賓室まで案内されここで待つように言い残し去っていく。

アルマールを出発し目的の地まであと僅かの場所までたどり着いたのであった。


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