180話 哀しみの再会
明けましておめでとうございます!
今年も不定期ですが頑張って更新していきますので宜しくお願いします♪
タルト達は濃霧に包まれた街を駆け回り次々と人々を救出していき広場へと再集結していた。
「聖女様、民衆の避難は完了しております。
ただ報告によると街の周囲におびただしい数の正体不明の死体で取り囲まれているようです」
オスワルドは素早く各方面からの報告を伝える。
「街への侵入はありそうですか?」
「既に全ての門は閉じておりますし、城壁を越えられないと報告が来ております」
「カルンちゃん、雪恋さん、琉さんは広場で万が一、侵入してきたときに備えてください。
あとは私と一緒に外に行きましょう。
リーシャちゃん達はカルンちゃんと一緒にいてね。
すぐに戻ってくるから良い子にしてるんだよ」
タルト達は中央広場から大通りを真っ直ぐに正門に向けて駆け出していく。
先程のまでの祭りのあとが残っているが人影はなくすっかり様相が変わっていた。
その代わりあちこちに無惨にも手足が斬られた死体が転がっており、まだ少し動こうとしているものも残っている。
「誰がこんな事を…せっかくみんなで楽しんでいたのに…」
あまりの街の変わりように心を痛めながらも聖女としてしっかりしないと、という信念で気持ちを支えながら先を急いだ。
正門は完全に閉じられている為、城壁を飛び越えて外へと降り立つ。
城壁から少し離れたところに物凄い数のゾンビと思われる人影がずらっと並んでいた。
「死体相手じゃワタシの毒は効かなそうダナ」
「リリスだけじゃありまセンワ。
燃やしても平然と向かって来るのですモノ。
消し炭になるくらい強力な炎が必要で厄介デスワ」
「へへへ、じゃあ、ここはうちの出番のようだなあ。
五体バラバラにして動けなくすれば良いだけだしな」
「これだから鬼は野蛮なんだ。
まあ、矢が通用しなさそうだから頼もしいのは事実だが。
それでタルト、これだけの数をどうするつもりなんだ?」
「そうですねー、とりあえず片っ端から動けなくするしかなさそうですよね。
凍らせれも溶けたら動き出しそうですし。
ん…?何か真ん中に変な人が…」
タルトが見つめる方向に黒いフードを被った人物が立っており、明らかに周囲のゾンビとは様子が違っていた。
「おい、あれって遺跡に現れる奴じゃねえか?」
桜華も一度対峙したことがあり同様にフードを被った得体の知れない雰囲気を持っていたのだ。
「ワタクシ達が遭遇した影と自称していた者と酷似してマスワ」
「アア、ワタシが毒を中和できなかったらかなりヤバかったゼ」
最初に出会っていたシトリーとリリスも同意見のようだ。
「あの人がそうなんですか?
ここは遺跡じゃないのに…。
もしかしてケントの遺跡に入ったからですかね?」
「間違いないと思いマスワ。
最初に来たときもタルト様が遺跡に行かれて暫く後デシタワ。
そして、もう一つ分かることはゾンビを操ってるのはアイツという事デスワ」
「やっぱりそう思いますか!
止めて貰うようにガツンと言ってきます!」
「おいおい、話が通じる相手じゃねえと思うゼ…」
一度闘ったことのある者はよく理解していた。
リリスの相手は周辺の村も含めて全滅させようと病気を撒いていたのである。
相変わらず甘いタルトの考えに呆れながらもいつでも攻撃できる体勢のまま様子を見ることにしたのだった。
「あなたは自称、影と名乗ってる人ですか?
目的は知りませんがこの死体を操ってるのならすぐに止めて立ち去ってください!
止めないと痛い目にあいますよ」
前に出て大声で伝えるタルト。
「フフ…フフフ…フフフフフフフフフ!
止めろ?
何を止めろと言うのですか?
こんな楽しい事をどうして止めなきゃいけないんです?」
「何が楽しいですか!
祭りを台無しにして怪我した人だっているんですよ!
それに死者に対する冒涜です!」
「ご安心なさい。
直ぐに皆、死体の仲間入りですから。
それから再び死の祭りを始めましょう」
「むぅー…何を言っても駄目なら実力行使ですよ。
もう謝っても簡単には許してあげな…」
途中まで言って急に言葉が途切れる。
タルトは無数にいるゾンビの中に知り合いの姿を見つけたのだ。
「嘘…あそこにいるのって…。
ジョンさん…」
そうそこにいたのは街を守るために死んだ元村長のジョンの姿であった。
タルトが駆けつけた時には重傷で高齢ということもあり治癒魔法で助けられず大泣きしたのである。
「こりゃあ、周辺の墓場の死体が大集結って感じだな…」
特に親しい者がいるわけでもない桜華達ならいざ知らず死に別れた家族とこんな形で出会う街の人たちには厳しい試練である。
「おや?この死体に興味がおありですか?
では、再会を楽しんでください」
影の言葉が終わると同時にジョンだったモノがタルト目掛けて走り出す。
すぐに対応すると思われたタルトだったがステッキでそれを受け止めるだけで動けないでいた。
「お願い、やめて、ジョンさん!
私だよ!タルトだよ!
お願い自分を取り戻して!」
タルトの必死の説得に歯を剥き出しに噛みつこうと凄い勢いで襲い掛かる。
「その者は貴女を喰らいたいようですよ。
ぜひ望みを叶えてあげたら如何ですか?
貴女は聖女と呼ばれ人々の願いを叶えてあげてるのでしょう?」
「そんなことジョンさんが望はずがないです!
あなたが操ってるだけでしょう!」
本気を出せばすぐにでも動けなくさせられるのだが死体とはいえこれ以上傷つけたくなかったのだ。
「ちっ!」
次の瞬間、白い太刀筋だけ残し桜華が駆け抜けるとジョンの手足は胴から斬り離された。
「おい、タルト、てめえ何してんだ!
そいつはもうジョンでも何でもねえ!」
「桜華さん…でも…」
「うちらが止めねえとまだ生きてる奴が死んじまうんだぞ!」
「ぐすん…ぅん…そぅ…ですよね…」
一方、その頃、広場に残ったチームにも急報が届く。
「急遽、地面より敵が現れました。
おそらく壁の下を掘ってきたものと思われます!」
「まじカヨ…。
琉はここに残って全体に指示を頼むゼ。
アタシと雪恋で行って来ル。
ヨオシ、お前らも複数人で敵に当たレ。
所詮、死体で動きはそんなに俊敏じゃネエ」
兵士に指示を出し飛び立とうとするカルンの袖をリーシャが掴む。
「リーシャたちもいきます」
「オイオイ、危ねえからここに残ってろッテ」
「だいじょうぶです、ちゃんとたたかえます!」
「チッ、しょうがネエナ。
三人で行動しろヨ、リリー、二人を頼むゼ」
「ん…任された…」
大概のことは龍人であるリリーがいれば何とかなると思い行かせる事にした。
実際、ゾンビ程度ならリーシャやミミでも問題ないレベルなのである。
各々が街中を駆け回り侵入したゾンビを討伐していくがあちこちから侵入してるのかキリがない。
「ミミちゃん、あそこにいっぱいいる!」
「ほのおでうごきをとめるのです、きつねび!」
尻尾から炎がほとばしりゾンビ目掛けて襲い掛かり動きを止まったところをリーシャの風魔法とリリーで手足を正確に狙う。
家の影にも動くものを見つけリーシャは先手必勝とばかりに仕掛けようとするが急に停止し膝をついて座り込んでしまった。
直ぐにリリーが気付きリーシャに近づこうとするゾンビを攻撃しようとするが思いがけないことが起こる。
なんとリーシャが抱きついてきて邪魔をしたのだ。
「…??」
「リーシャちゃん、どうしたのです?」
混乱するリリーと冷静に問いかけるミミ。
「こうげきしちゃだめ…。
あれは…あれは…リーシャのおとうさんとおかあさんです…」
そう、目の前のゾンビは遺体を近くの墓地に移したリーシャの父と母だったのだ。
これにはリリーもどうしていいか分からずリーシャとミミを抱えて距離を取るのに後方へ跳躍する。
「ごめんね…リーシャのわがままで…。
でも、きずつけたくなかったの…」
「しょうがないのです。
でも、どうしたらいいのかわからないのです…」
ここ以外でも知人の死体と出会い混乱があちこちで起こっている。
ただ、外に行ったタルトがどうにかしてくれると信じて何とか耐え抜いているのだ。