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177話 ヘレン

ウンディーネを交え落ち着いて話せるようになった一行はふとある疑問に気付いた。


「あれ?

シトリーさんやカルンちゃんもこの声が聞こえるの?」


今までは精霊を身に宿すタルトだけが聞こえていたはずだが普通に会話をしていることが不思議であった。


「聞こえたのはノームと名乗る方だけデスワ」

「そりゃそうだろう、ワシは鉱物を振動させて音を伝えているからの。

ふむ、確かにそこのちんちく…いや少女は複数の精霊を宿しているからそんなことをしなくても話せそうじゃの」

「それでは経緯を説明しましょう」


ウンディーネがノームに今までの経緯を簡単に説明すると首を傾げた。


「影ねえ…そんなもんは知らんなあ。

ワシは別嬪さんを追いかけてたらこんな場所に閉じ込められたんじゃ」

「そうですか…世の女性の平和のために再び封印しときますか」

「待てっ!?

ワシの力が必要なのじゃろう!

大人しくしとるから、な?」

「しょうがないですねー、約束ですよ」


ノームが光の玉になると人型の塊が砂へと戻っていった。

そして、光の玉がタルト目掛けて飛んでいくがヒラリと躱した。


「何で避けるんじゃ!?」

「いや、なんかえっちいこと考えてそうで…」


タルトは凄く嫌そうに光の玉を見ている。


「私が変なことしないように見張るから許してあげてね」


ウンディーネが説得し渋々、ノームを受け入れた。


「これで半分ダナ。

もうここに用はねえしさっさと出ようゼ」

「カルンちゃん、出るときも注意しないと前回はその時に襲われたんだよ」

「そうデスワ。

何事も慢心はいけマセンワ」


三人は行きと同様に警戒をしながら外へと急いだ。

ところが予想外に何にも邪魔されず外に出れ呆気にとられる。


「あれー?

今回は本当に何も起こらないよ」

「影もそんなに数がいねえんじゃネエカ?

それかそんなに暇じゃねえのカモナ」

「まあいいか。

みんなのところに戻ろう!」


砂浜まで戻るとそこに待っているはずの一行の姿が見当たらない。

いや、厳密に言えば一人の兵士だけが残っておりタルトの姿を見て急いで駆け寄ってきた。


「お待ちしておりました、聖女様!

ヴィンセント様は兵を連れて村を襲撃している魔物の迎撃をしております。

私は伝言役を任せられ戻るのをお待ちしておりました」

「魔物ですか!?

私達も急いで向かいましょう!」


タルト達は一斉に飛び立ち空から現状を確認する。

そこには無数の鳥型の巨大な魔物が逃げ遅れた人々を襲っており、ヴィンセントの部下と思われる兵士が必死に抵抗を試みていた。

どこに助けに行こうかと悩んでいるとカルンが何かに気付き一人で飛び出していく。


「えっ、カルンちゃん、どこいくの?」


カルンの向かう先にいたのは例の老婆である。

孫である青年に止められるのを必死に抵抗し何処かへ向かおうとしていたのであった。


「婆ちゃん、危ないから家に入ってくれ!」

「何を言っている!

まだ、ヘレンが帰ってきておらん、ワシは迎えに行かねばならんのじゃ」

「だから、ヘレンは数十年前に行方不明になったんだって!

もう生きてるわけねえだろ!」


その騒ぎは魔物にも聞こえたようで一匹のガルーダが二人を襲おうと空からものすごい速さで飛び掛かってきた。

青年はそれに気付き叫び声をあげるが近くに兵士はおらず助けは皆無のようである。

老婆を守ろうと抱き締めるが右手を前に出し魔物など意に介していないようであった。


「ヘレン…」

「だから、ヘレンは死んだって…」


老婆の見つめる先を見るといつの間にか目の前に一人の少女が立っていた。

羽と尻尾が生えた悪魔である少女はカルンである。

自分より十倍以上も大きいガルーダに対して怯える素振りも見せず両手を前に突き出した。


不可視の刃(インビジブル・エッジ)!」


カルンの掛け声と共に襲いかかるガルーダは見えない刃に切り刻まれ地面へと落ちていく。


「オイ、ここは危ネエ。

家に帰って隠れてナ」

「ヘレン!」

「だからアタシはヘレンじゃっ!?」


老婆は勢いよくカルンに抱きつく。

嫌がるかと思いきやじっと立ち尽くすカルン。


「この感じ…何処かデ…」


その瞬間、若い女性に抱き締められる光景が頭の中に過る。

その女性の面影が目の前の老婆から感じられ戸惑っていたのだ。


「一体今のハ…この老婆はアタシと関係があるノカ…?」


その隙を狙い背後から別のガルーダが襲い掛かろうとしているがカルンは全く気付いていない。

今にもその鋭い爪がカルンの小さな背中に突き刺さろうとした瞬間、ガルーダの大きな巨体が思い切り地面に叩きつけられた。


「大丈夫、カルンちゃん!」


それはタルトが恐ろしい威力の一撃をガルーダの脳天に喰らわせた結果であった。

タルトはカルンに近寄るがピタッと足が止まる。


「カルンちゃん…泣いてる…?」

「エ…?何ダ…コレ…?」


頬を流れる雫は紛れもなく涙であった。

冷酷な悪魔が涙を流すなど前代未聞である。


「オイ、何なんダヨ!

意味分からネエヨ!」

「待っておくれ、ヘレン!!」


老婆を振りほどき何処かへ飛び去っていく。

タルトは老婆に駆け寄り助け起こす。


「大丈夫、お婆ちゃん?

ヘレンさんはあの子に似ているの?」

「ああ、大丈夫だよ…。

母親が見間違うはずないよ、あの子は愛しい我が子だ。

数十年前に行方不明になったが生きてると信じてたよ」

「でもカルンちゃんは悪魔なんだけどなー」

「たぶん神様が助けるのに種族を変更されたんだよ。

そんなことはたいした問題じゃない、あの子が生きててくれたことが大事なんだよ」


自分の娘だと信じてる老婆に困り果てたタルトの元にシトリーが空から降りてくる。


「タルト様、魔物の対応は終わりマシタワ。

全て焼き鳥にしましたので召し上がられマスカ?」

「いやっ…それはちょっと遠慮しとこうかな…」

「それは残念デスワ。

それでこれはどういう状況デスカ?」

「何かよく分からないんだけどカルンちゃんがこのお婆ちゃんの娘にそっくりなんだって」

「カルンは何処にいマスノ?」

「涙を流してどっかに飛んでちゃった」

「カルンが涙ヲ!?

詳しく教えて頂けマスカ?」


タルトは知り得た情報をシトリーに話して聞かせた。



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