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174話 門番

タルトはケント王都の大通りを真っ直ぐ城へと歩いていくと城壁と大きな門が見えてきた。

そして、門の前にいる門番の兵士に声を掛ける。


「すいませーん。

王様に会いたいんですけどー」


門番はあからさまに不思議な顔をしてタルトとリーシャの顔を見比べる。


「ここは子供が来る場所じゃないぞ。

それに王様はこの国で一番偉いんだから簡単には会えないんだ。

分かったら家に帰りなさい」

「ですよねー」


どうみても二人の少女がいきなり王様に会いたいといって会えるわけがない。

門番の対応は至って普通で問題はなかった。

このままでは埒があかないと思い門番に一言こう告げる。


「誰でもいいから偉い人にタルトが来た、と言ってみてみてください」

「何を言って…」


門番は再度、追い払おうとしたが明らかに自信満々のタルトの顔に違和感を覚えた。


「おい、一応、誰かに聞いてみようぜ。

もしこの子が何処かの令嬢とかなら後が面倒だ」

「そう…だな。

ちょっと待ってろ、聞いてくる」


横にいたもう一人がフォローも相まって門番は城の中へと入っていった。

暫くすると中から走る足音が複数聞こえ全速力で来たのか息を切らした二人が出てきた。

一人は先程の門番で目の周りが青く腫れており殴られたと思われる。

もう一人は身なりが良く貴族だとすぐ分かった。


「これは聖女様、よくぞお越しいただきました。

どうぞ中へお入りください。

それにしても門番が大変失礼しました」

「どこかでお会いしましたっけ…?」


どうしてもこの貴族の顔が思い出せないタルト。


「はははははは、大勢いるなかの一人ですから覚えてないのも無理はありません」

「それなら良かったです。

あっ、ちょっと待ってくださいね」


タルトは怒られてしょんぼりしていた門番の前にいくと手をかざす。

門番はタルトにも怒られるかと思い目を瞑り防御体勢を取った。

だが、いくら待っても平手も拳もなく、寧ろ目の周りの痛みが消えていく。


「これで良しっと!

もう痛くないですか?」


目の前には笑顔のタルトが立っている。


「えっ?あ…聖女様…一体…。

怒っていないの…ですか?」

「怒るなんて。

あなたは門番として当然の対応でしたよ。

私のせいで怒られちゃったみたいでごめんなさい」

「いえいえ、聖女様が謝るような事は何も!

怪我まで治して頂きありがとうございます!

噂のとおり慈悲深く感動しています」

「じゃあ、行きますのでお仕事頑張ってくださいね!」


タルト達は貴族に付いて中へと消えていく。

残された門番二人はその様子を立ち尽くしたまま眺めていた。


「あれが聖女様…」

「何て優しくて可愛らしい…。

お前、治療して貰うなんて羨ましいぞ」

「俺…聖女様の街で警備の仕事しようかな…」


二人は日が暮れるまでぼーっとしていたのであった。

そんなことも知らずにタルトは来賓の部屋に案内されお茶を飲みながらお菓子をつまんでいる。


「うぅーん、国が違うとお菓子もお茶も違うんだねー。

新感覚の美味しさだよ!」

「リーシャもはじめてたべました!」


リーシャの尻尾はユラユラし本当に嬉しそうだ。

そこへドアが開き国王が配下を連れて入ってくる。


「あっ、ちょっと…モグモグ…待ってください…まだ口の中に…」

「ふぉっふぉっふぉっ、ゆっくり食べなさい。

我が国のお菓子はお気に召しましたかな?」

「はい、とっても美味しいです!」

「それは何よりじゃ。

事前に知らせを貰えればもっと準備出来たのじゃが」

「突然すいません、少し聞きたいことがありまして。

それだけ確認できたらすぐに帰りますので」

「せっかく来てくださったのだ。

それに今日はもう日が暮れておる。

ここに泊まってくだされ」

「そうですか、ではお言葉に甘えて!

そういえばマリアちゃんが宜しくと言ってましたよ」

「はて…マリア…。

もしかして、ウェスト・アングリア王国のマリア女王ですかな?」

「そうです、そのマリアちゃんです。

最近、知り合って友達になったんです!」

「そうですか、あの小さかった娘が立派な女王になって。

聖女様の助けがあれば問題はなかろう」

「えへへー、そんなに大した事はしてないんですが。

それよりもこれの事で来たんです」


タルトは袋から石片を取り出す。

それはオルウェンの家で見つけたものである。


「これは…何ですかな?」

「この石片の入手ルートを辿ったらどうもこの国らしいんです。

拾った場所は端が見えないほど大きい湖のほとりらしいんですが。

何かご存じかと思って聞きにきたんです」


ケント王は考え込むように目を瞑る。


「聖女様がお探しの湖はケントにございます。

ここから北東に進んだ場所にこの国最大の湖、クムトゥ湖がありますのじゃ。

そこから流れ出る川が大地を潤し農地を豊かにすることから母なる湖と呼ばれております」

「母なる湖…そこに遺跡なようなものがあるんですか?」

「それが周辺にはいくつかの村は存在しております。

お探しのような古い建物はありませんのう」

「そんな…他の場所と同じで地下にでもあるのかな?」

「周辺には広大な畑が広がっており入り口なようなものの目撃情報もありませんなあ」

「そんなー、せっかくの手がかりだったのに…」


落ち込むタルトを宥めるように再び語り出す。


「ですが、古い言い伝えがありますのじゃ。

まだ国というものが存在していなく人々が平和に暮らしていた頃、立派な神殿があったそうです。

それが一夜にして大地が割れ湖の底へ沈んだとのことですじゃ」

「それじゃあ、その大きな湖の底にあるってことですか?」

「ワシらには確認しようもございませんが、聖女様なら可能なのではないでしょうかな?」

「うぅーん、とにかく行ってみます!

見てみないと分かりませんが何とかしてみます」

「それでは今日はゆるりと休まれてくだされ。

この国の豊かな実りを使ったご馳走を用意させております」

「おお!!

何から何まですいません!

それともう一つお願いが」


タルトは何かを王様にお願いしてから案内されるがまま美味しそうな料理が並べられた部屋へと入っていく。

そこへ何人かの貴族の格好をしている青年やら婦人が入ってきた。

その中でも一番上等な服を来た青年がタルトの前に進み出る。


「お初にお目にかかります、聖女様。

私の名はヴィンセント。

祖父から貴女のお話をいつも聞いておりお会いしたいと考えておりました」

「祖父って誰のことでしょう…?

面影が…もしかして王様ですか?」

「そうでございます。

祖父より夕食のお相手と明日の案内役を仰せつかってます」

「そうなんですね、宜しくお願いします!」


その時、衛兵がヴィンセントに耳打ちをする。


「聖女様、待ち人が到着したようです。

今、こちらへご案内しております」


そこへ扉が開かれ二人の女性が入ってくる。

羽と尾が生えており一目で悪魔と分かる二人はシトリーとカルンであった。

今までの流れから遺跡には影と呼ばれる強者がいることからリリーとミミに援軍の伝言をお願いしていたのである。


「やっと入れたゼ!

一応、気を使って街に入らず待ってたんダゼ」

「エエ、この国は訪れた事がありませんから悪魔というだけで怖がらせてしまいマスワ」

「ごめんねー、さっき王様に会えたから向かいに行ってもらって良かったよー」


再開を喜ぶ三人を眺めつつタイミングを見計らってヴィンセントが声を掛ける。


「シトリー様とカルン様の事もよく存じております。

兵はもとより民にも周知しておきますからご安心ください。

それよりもささやかながら料理を用意していますので晩餐を開始しましょう」


こうして翌日のクムトゥ湖調査に向けて鋭気を養い、お城の客室にてゆっくりと休んだのであった。



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