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173話 ケント

タルトはリーシャを抱えケントの上空を王都目指し飛行中である。

リリーとミミは学校もあるのでアルマールへ戻ることとなり別行動になったのだ。

眼下には黄金に輝く穂が揺れて一目で農業大国なのが伺える。

どこまでも続く畑と時々見える集落は元の世界の田舎を思い出させどこか懐かしく思えた。

やがて、目的の場所が見えてくる。

ケントの王都はとにかく広いが周囲の城壁も低く襲撃に対して他の王都と比べても心許ない印象を受けた。

位置関係では最前線からは遠くその心配は要らないのだろう。

少し手前で地面に降り街道を歩いて行く。

街道には荷車が行き交い収穫された農作物や他国からの輸入品と国交が盛んに行われてるのが見てとれた。


「お嬢ちゃん達だけで旅をしてるのかい?」


街道を歩いていたら馬車に乗ったお爺さんに声を掛けられた。


「はい、そこの王都に向かってるんです」

「それにしても随分軽装じゃな。

まあいい、子供だけでは危ない。

もう少しだが乗っていきなさい」

「本当ですか?ありがとうございます!」


タルトとリーシャは喜んで馬車に乗り込む。

それを確認して再び馬車が動き出した。


「何処から来たんじゃ?

幾分、平和になったとはいえ危ないときもあるんじゃぞ」

「バーニシアから来たんですよー」

「バーニシアだと!?

荷物を持たずにか?」


驚くのも無理はない。

ケントからバーニシアは遥か遠く夜営もする日もあるにも関わらず、小さいカバンしか持っていないのだ。


「えへへー、途中までは一緒に乗せて貰っていて近くで別れたばかりだったんです」

「そうか、まあ、そうじゃなきゃ無理じゃろう。

その子はハーフのようじゃが使用人か?」


タルトの咄嗟の言い訳に納得し隣に座っていたリーシャについて聞いてきた。


「リーシャちゃんは血は繋がってなくても妹なんです!

とっても良い子で可愛いんですよー」

「ふむ…珍しいこともあるものじゃ。

ケントは戦いとはほぼ無縁だからハーフに対する憎しみも薄い。

聖女様の方針で奴隷が廃止される前から虐げる事はしていないが、家族のように接する者は初めてみたわい」

「おじいさんはリーシャのことがきらいですか…?」


リーシャが悲しそうな顔をしている。


「はっはっはっ、こんなに可愛らしいお嬢ちゃんを嫌いな訳はなかろう!

ワシは昔からハーフの事を嫌ってはおらん。

じゃが、そんな事を言ったら周りに変な風に見られたからのぉ。

それも聖女様のお陰で世の中が大きく変わって良かったわ!」

「そうやって理解してくれると嬉しいですよー」

「バーニシアから来たなら聖女様に会ったことはあるかの?

さぞや美しい方じゃろうな」

「え、えぇ…一応会ったことはあるかなぁ。

勿論、美しい方でしたよ!」

「やはり、そうか!

死ぬ前に一度会ってみたいものじゃ」

「もし会えたら何かお願いしたいことはありますか?」

「そうじゃのー、会えるだけで充分じゃが。

まずはお礼をいうかの、農業が発展し収穫が増えたのは聖女様の叡知のお陰じゃ」

「他にはないんですか?」

「そんな事言われてものう…。

噂では病気も治してくれるらしいから婆さんを看て貰いたいの」

「お婆さんは病気なんですか?」

「ああ、今はほとんどの時間を寝たきりなんじゃ。

もう一度一緒に街を歩きたいのう」

「私が看ても良いですか?

少し医学の知識はあるんです!」

「若いのに偉いのう。

話し相手もいなくて寂しがっていたから丁度良いじゃろう。

ひとつ頼むとするか」


暫く会話を続けてると王都に着いた。

そのまま老人の家まで着いていく。

街の外れにある長屋のように小さな家が沢山並んでいる中にある一軒で古さを感じさせる佇まいであった。


「帰ったぞ。

今日は可愛いお客さんも一緒じゃ」

「お帰りなさい。

あらあら本当に可愛いのね」


家の奥の部屋に着いていくとベッドに上半身だけ起こして座っている老婆が迎え入れてくれた。


「こんにちはー。

街まで馬車に乗せて貰ったんです。

それでお婆さんが寝たきりだって聞いたのでお礼がわりにお役に立てればと思って」

「そんなわざわざいいのに。

お爺さんは好きでお節介をやくのが好きなのよ。

ほら、お爺さん、お客さんにお茶くらい出して」

「分かっとるよ、ちょっと待ちなさい」

「あっ、直ぐに終わりますからお気遣いなく。

それでどこが悪いんですか?」

「それがねえ、膝が痛くて。

お医者さんに看てもらったら治らないんだって」

「ふむ…ちょっと看ますね」


タルトはお婆さんの膝を触って魔力を少しだけ流し内部の状態を探る。


(治せるか教えて、ウル)

『これは…膝に水が溜まってますね。

水を抜いてから治癒魔法をかければ大丈夫でしょう』


ただ触るだけで何が分かるのか不思議に眺めておる老夫婦。

医者にも匙を投げられたのだから子供のタルトにそんな期待はしていないが、その一生懸命な気持ちが嬉しいのだ。


「うん、大体分かりました!

では、治療しますね」

「治療ってお嬢ちゃん、無理しなくていいんだよ。

道具も何も持ってないようだし」

「まあ、見ててください」


タルトが椅子から立ち上がりクルっと回転し魔法少女の姿に返信する。


「一体何が…」

「じっとしててくださいねー」


驚く二人を気にすることもなく患部に手を当てると目映いほどの光に包まれていく。

老婆は膝に暖かさを感じたと思ったらみるみる痛みが消えていく。

ほんの一分も掛からず部屋の明るさが元に戻る。


「はい、終わりです!

もう立てると思いますけどゆっくり立ってくださいね」

「お、お前さんは…」

「まあ、私の事よりお婆さん、ほら肩を貸しますから」

「え、えぇ…」


驚きは収まらないまま言われた通りタルトの肩に手を掛けて立ち上がってみる。

すると筋力は衰えて覚束ないが痛みもなく自分の足で久しぶりに立つことが出来たのだ。


「おお、お前立ってるぞ…。

もう無理かと思っていたのに…」

「えへへー、良かったですねー」

「そのお姿に奇跡とも思える神業…お嬢ちゃんはもしかして…」

「今はただの旅人ですよー。

まだまだ元気に長生きしてくださいね!」

「せめてお礼だけでも言わせてくだされ。

婆さんの病気を治してくれてありがとう。

それに聖女様に会えてワシは幸せじゃ。

じゃが、綺麗というより可愛らしいだの」

「むぅ、これから成長するんですよー。

あはは、それでは私はそろそろ行きますね 」

「何かおもてなし出来ればのぉ」

「お気遣いありがとうございます。

でも、まだ用事がありますので」


そういってタルトは老人の家を後にした。


「もう夕方かー、一応お城の方に行ってみようか。

それにしても広い街だね」

「でも、ひとがそんなにおおくないです」

「うん、商業より農業が盛んだからどこかのんびりした雰囲気だよね」

「みたことないやさいがいっぱいです」

「本当だー、あっ、あそこに野菜いっぱいのスープが売ってる。

お腹も空いたし食べていこうか

リーシャちゃんもお腹空いてるでしょ?」

「はい!」


リーシャと二人でスープを片手に座りながら流れ往く景色を眺めている。


「こうやってリーシャちゃんがハーフってことを隠さずに普通にいられるようになってくたんだね」

「それはタルトさまのおかげです」

「私だけじゃないよ。

リーシャちゃんのようにみんな本当は良い子だから、それを人間にちゃんと知って貰えたからだよ。

あのお爺さんたちも元々から悪い感情を持っていない人も沢山いると思うんだよね」

「リーシャもおてつだいできることはもっとがんばります!」

「ふふ、本当に可愛い!

さあ、食べ終わったしお城に行ってみよう」


こうしてスープで空腹を満たし人心地ついたところでお城に向かうことにした二人であった。



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