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170話 追い詰められたジュニア

ここは領主の城の中。

執務室で仕事をしている領主の部屋へ隊長が入ってくる。


「失礼します!

急ぎご報告したいことが」

「どうした?

昨日、賊を取り逃がしてイライラしているのだ」

「その件で耳寄りな情報がありまして」

「…。

聞こう」


隊長は敬礼をして領主に近付く。


「実はモフモフ仮面を名乗る盗賊が潜んでいる廃屋の情報が入ってきました。

部下を見張らせたところ、ハーフと思われる子供の出入りが確認されました。

そして、先日に侵入した人物に似た者もいたそうです」

「そうか…よし、私も出よう!

全兵に出撃準備をさせよ!

廃屋を包囲し一人残らず殺してやろう。

世間を騒がせる盗賊を成敗すれば私の名も響き渡ろう」

「はっ!

急ぎ準備させます!」


隊長は急ぎ部屋を出ていった。


「全くたった一人の盗賊にここまで手こずらせるとは。

商人達からの貢ぎが減っていて頭痛の種だったが、それも今日までか。

帰ったら秘蔵の一本を飲むことにしよう」


一人残った領主は椅子にもたれかかり笑みをうかべていた。


オルウェンは昼間、フードを被りハーフとバレないように変装をして街へ盗んだものの換金と食材の購入に出ていた。

用事を済ませ家に戻る頃には日が傾きかけている。

廃屋の中へ入るとザワザワと子供達が集まって騒いでいた。


「皆で集まって何かあったのか?」


オルウェンに気付いた子供が近づいてくる。


「オルにいちゃん、みて!

メリーちゃんがげんきになったんだ」

「メリーが!?

何処にいる?」

「メリーはここだよ、おにいちゃん!」


何とずっと寝込んでいたメリーが走ってオルウェンに抱きついてきた。

その顔は青白さが消え、赤みがさし元気一杯である。


「メリー…何があったんだ?

あの大病はそんな簡単に治る訳が…」

「えっとねー、めがみさまがなおしてくれたの」

「女神…様…?」

「うん、いつのまにかすぐよこにたっていたの。

メリーがいいこだからびょうきをなおしてあげるって」

「他に見た奴はいないのか?」


その質問に首を横にふる子供達。

メリーの部屋に行くのに誰にも見られずに行くのは不可能である。

それだけで常識の範囲を超えている存在なのが分かるのだ。


「それでそいつはどんな奴だった?」

「うぅーん、きれいなおんなのひとだった。

かみがきんいろできれいだった」

「金色…」


オルウェンの頭のなかで浮かんだのは昨日会った少女だ。

不思議な存在感と闇夜でも光輝く特徴的な金髪。

だが、モフモフ仮面と名乗ったり今度は女神様だ。

余計に頭がこんがらがる。


「よく分からないがメリーが元気になって嬉しいよ。

それから女神様はどうしたんだ?」

「びょうきをなおしてくれたらスッときえちゃった。

あっ、でも、これをおにいちゃんにって」


メリーは持っていた手紙をオルウェンに渡す。


「何がしたいんだ、あいつは…?

俺はちょっと出掛けてくる、警戒を怠らないようにな」


そう言い残しオルウェンは再び外の暗闇に消えていった。


その夜、暗闇の中に多くの兵士が息を潜めて木の影に隠れている。

そこに領主が護衛を伴いやってきた。


「首尾はどうだ?」

「ずっと見張っておりますがハーフと思われる子供が少し出入りしただけです。

警戒していますがこちらには気付いておりません」


そう、ここはモフモフ仮面の隠れ家と思われる廃屋であり、四方を既に多くの兵士で取り囲んでいる。


「それで奴の姿は確認したのか?」

「夕方に出掛けたまま戻ってきていません」

「ふむ…ついこの前、傷を負わせたばかりだからな。

まだ、次の仕事は出来ないだろうから暫く待てば帰ってくるだろう。

奴が戻って来たら一気に突入して一網打尽だ。

保護の法律があっても罪人は我が領地内であれば断罪しても問題ない」

「子供も含めて皆殺しにしますか?」

「子供だと?

忌まわしいハーフだぞ、ここにいるものは全て殺せ」

「はっ、兵達に周知しておきます」

「ふははは、奴は動けなくして最後に殺してやろう。

先に目の前で子供を殺せばさぞや爽快だろうな」


この領主は元々、ハーフへ強い忌諱感を持っており沢山の奴隷に対し虐待し殺していた。

それが急に奴隷虐待を禁じられイライラが募っていたのだ。

しかも、モフモフ仮面とかいうハーフと思われる盗賊が親しくしている商人を襲撃し怒りが頂点に達している。

だから、わざわざで自分で出向き日頃の鬱憤を晴らそうと考えていた。


「奴はまだか?」


短期な性格も相まって焦れてくる。


「領主様、お静かに…。

誰か近づいてきます」


隊長が領主に注意してすぐ青年くらいのハーフが暗闇から現れ廃屋へと入っていった。


「奴に間違いないか?」

「ええ、あのシルエットは間違いございません。

ご指示をおねがいします」

「ようやくか!

さあ、我に続け。

奴等はもう袋のネズミだ。

一人も逃がさすんじゃないぞ」


静かに包囲網を縮めていき突入部隊がドアの前に整列する。

訓練されてる兵達はここまで音を立てずに規則正しく素早く行動し包囲網を形成した。


「突入部隊、ドアを破り侵入しろ!

隠れてる者も見逃すな!」


領主の命令と同時にドアが破壊され兵士が流れ込む。

入り口のすぐ近くに小さい子供のハーフが怯えながら奥へと逃げていく。

それを兵士達が追いかけるとすぐに広間に出た。

そして、広間の中央にはオルウェンが一人で立ち尽くしている。


「お前は…この前の侵入者だな!

順番は違うがまずはお前を捕まえてやる!」

「どうして領主がここに!?」


突然の襲撃にオルウェンは驚愕しているが、すぐに戦闘体勢へと切り替える。


「大人しく投降しろ!

ここは既に包囲され逃げることは不可能だ。

武器を捨て投降するなら命だけは助けてやるぞ」

「そんな言葉が信じられるか!

お前に何人の同胞が殺されたことか…」

「良いのか、逆らえばここにいる者も道連れになるぞ?」

「何の話だ!?」

「分かっているのだ。

ここがお前らの隠れ家ということは。

小さい子供もいるのであろう?」

「ここには誰もいない!

俺一人だけだ!」


オルウェンはきっぱりと言い捨てる。


「強情な奴だ。

せっかくの情けを無駄にしやがって」

「ふん、何が情けだ。

仮にここにいても絶対に従わないがな」

「良い度胸だ。

よし、お前らこいつを取り囲み動けないようにしろ。

いいか、絶対に殺すなよ。

目の前で仲間を惨殺し後悔させるのだ」

「それが本性だな!

殺されるとしてもお前だけは絶対に道連れにしてやる!!」


オルウェンは武器を構え跳躍する為、足に力を込める。

逃げられないと悟り、相討ちを狙う覚悟を決めたのだ。



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