169話 影響
モフモフ仮面を名乗る少女。
「お前は…モフモフ仮面のファンか?」
「違うよ!
正真正銘、私はモフモフ仮面なのっ!」
「お前みたいなのが本物の訳があるはずないだろう。
いいか、モフモフ仮面は正義の味方で弱き者を助ける真の英雄だ。
噂では家よりも大きい金庫を片手で持ったと聞く。
そんな細腕で持てるわけないだろう」
「むぅー、本物なのにー。
まあ、いいや。
あなたはどうしてモフモフ仮面を名乗っているの?」
少女の質問に仮面越しでも表情が曇るのが分かった。
「それは…モフモフ仮面は何故か消えてしまった。
俺はその志を継ぎ悪を裁き、弱気を助けるためだ」
「そうなんだ…。
でも、今日みたいに危ないことをしちゃダメだよ。
待ってる人がいるんでしょ?」
「ぐっ…お前には関係のないことだ!
それにこうしないと生きていけないやつもいる!
ここの領主や商人は悪人だ!
そこから盗んで何が悪い!!」
モフモフ仮面ジュニアの言葉に少女…いや、タルトはショックを受けた。
村人を助けようとしてモフモフ仮面になったが、こんな風な影響が出るとは思っていなかったのだ。
「それに俺たちハーフには居場所なんてないんだ…。
望んでこう生まれた訳じゃないのに…」
「ねぇ…バーニシアに自由に暮らせる街があるよ。
良ければそこに行かない?」
「噂は聞いたことがある。
聖女と呼ばれる人間がどんな種族でも受け入れてkyれる街があるとな」
「駄目かな…?」
「…確かにそこに行けば自由があるのかもしれない。
だが、俺たちだけが救われてもここには多くの弱者がいるんだ。
ここに残ってモフモフ仮面の意志を継いでいかないといけないんだ」
そこには強い意思が感じられとても説得出来るように見えなかった。
「そっか…でも、無理はしないでね。
とりあえず傷を治してあげるね」
「治すってどうやって?」
タルトは無防備のままゆっくりと近付き傷口に手を翳すと淡い光に包まれ一瞬で傷が癒えた。
「何をした!?
傷が…消えた!」
「治癒魔法だよ。
他に痛いところはない?」
「あぁ…大丈夫だ。
お前は…待て…足音が近づいてくる。
俺はもう逃げるぜ、お前もそんな格好をしてると捕まるぞ」
「最後にひとつだけ。
あなたは猫のハーフ?」
「はぁ?
いや、俺は黒豹だ、それじゃあな」
モフモフ仮面ジュニアはそう言い残すと暗闇へと消えていった。
残されたタルトも兵士達が近づく前にその場から姿を消す。
街の外れにある多くの廃屋の一つにモフモフ仮面ジュニアの姿があった。
周囲に誰もいないことを確認し建物へと入っていく。
真っ暗な屋内には複数の視線を感じたがすぐに明かりが灯り、多くの子供達が暗闇から出てきた。
「オルウェン、お帰り!」
「オルにいちゃん、今日はどうだったの?」
「オルおにいちゃん、おはなしきかせて!」
「ごめんな、皆。
今日は失敗だった。
傷を負って逃げられないと思ったら変な奴に助けられた…」
「おい、どこを怪我したんだ?
すぐに手当てをしないと!」
「ああ、それは大丈夫だ。
助けてくれた奴に治癒魔法をかけて貰った」
「治癒魔法!?何者なんだそいつ?」
「さあな…本人はモフモフ仮面を名乗っていたが…」
「モフモフ仮面って…本物なのか?」
「見た目は普通の人間の少女に見えた。
だが、何か不思議な力を秘めている印象を受けたな」
「まあ、お前が無事に帰ってきてくれて良かったよ。
そいつが何者にせよ敵じゃないならいいさ」
仲間に迎えられモフモフ仮面ジュニア…オルウェンは奥へと進んでいく。
ここは行き場を失った元奴隷が協力して暮らしている家であった。
ここに来た理由は様々で虐待用で連れてこられマリアの政策で解放された者、病気になり捨てられたのを救われた者、逃げ出してきた者など挙げたら切りがない。
街の外れには多くの廃墟があり隠れ蓑には適しているのだ。
オルウェンは最奥の小部屋に入る。
「メリー、起きてるか?」
「うん、おにいちゃん、いまはちょうしがいいの」
「そうか…すまないが今日の薬は持って帰って来れなかった…」
「いいの、おにいちゃんがげんきにかえってきてくれただけでうれしい。
あんまりあぶないことをしないでね」
「安心しろ、領主の城にはこの病気を治せる薬があると聞いた。
それで治れば危険の少ない商人だけを狙う」
「でも、メリーのせいでおにいちゃんにもしものことがあったら、みんなこまっちゃうよ…」
「大丈夫だ、必ず傍にいるから。
約束だぞ」
「うん」
ここにいるハーフで盗みに入れる能力があるのはオルウェンだけだ。
他は種族が向いていないか、まだ幼すぎるのである。
だから、必然的に金銭や食べ物を盗むのがオルウェンに頼ってしまっていたのだった。
メリーはオルウェンの妹で録な食事も与えられなかった奴隷の時に大病を患ってしまい、二人で逃げ出すことでここに辿り着いたのである。
「自分達が助けられたように、ここで救いを求める者を助けたい」
ここに来てすぐにオルウェンが思い宣言したことだ。
最初は誰彼構わず人間を恨み襲っていたが、相手も同じ弱者であると気付き葛藤した時期がある。
そんな時、モフモフ仮面の話を聞き悪から盗むのであれば義賊として自信が持てた。
メリーの部屋を出てもう一度領主の城へと忍び込む方法を考えるため仲間のところへ向かう。
そんな様子を眺めている一人の人物がいた。
オルウェンと一緒に廃屋に入り傍で観察しているが誰にも認識されず自由に行動している。
その正体は姿も音も匂いも魔法で隠しているタルトであった。
オルウェンの後を付けて来ていたのだ。
すぐにでも姿を現し行動に起こそうとしたが考え直し、この日は大人しく帰ることにした。
マリアの城へと戻るとすぐに今日の出来事を共有する。
「そう…そんなことが…。
私が行ったことでそんな事が起こってるなんて」
「それは私も同じだよー。
マリアちゃんは奴隷を助けようとしただけでしょ?
それで命が助かった子が沢山いるのは事実だよ」
「でも、タルトちゃんも村の人を助けたかっただけでしょ?
良いことをしたつもりでも色んな所に影響がでちゃうんだね」
二人で落ち込むタルトとマリア。
そんなことより話を聞いていた子供達が興奮している。
「あの…タルトさまがモフモフかめんなんですか?」
「そ、そうなのです!
いまのはなしがほんとうならそうなるのです!」
子供達の抗議にキョトンとするタルト。
そして急に立ち上がりくるっと回転するとモフモフ仮面に変身した。
「バレたらしょうがないにゃー。
そう、私こそ本物のモフモフ仮面!」
「わあ、かっこいい!」
「はやくおしえてほしかったのです!」
「リリーもやりたい…」
楽しそうにしている光景にマリアとアンは優しく見守る。
タルトは気まずそうにマリアの方を見る。
「そういえばだけど…捕まえないで欲しいな…」
「えぇー、どうしよっかなぁ。
モフモフ仮面は怪盗だからなー」
「そんなマリアちゃん、見捨てるの!?」
「嘘、嘘!
そんなことしないよ。
それでこの事件、どうするつもりなの?」
「そうだね、ちょっと考えはあるんだ。
ちょっとだけ準備に時間を貰うのと手伝って欲しいかな」
「うん、私で出来ることなら何でも言ってね!」
そして、翌日にタルトは何処かに出掛け夕方、満足そうに帰ってきた。