168話 情報収集
ここはウェスト・アングリア王国のある地方都市。
かなり大きな城下町を持っており城に近いほど富裕層が住んでおり、外れは貧困層のスラム街が形成されている。
タルトは早速、街中を歩いて情報収集を開始した。
モフモフ仮面の大ファンである旅行者を装って。
「おじさん、この串焼きを5本ください!」
「お嬢ちゃん、手に一杯抱えてるけどこんなに食べれるのかい?」
「余裕です!ここの料理はどれも美味しいからいくらでも食べれちゃうんです!」
「良いこと言うねえ!
可愛いしおまけしちゃうよ!」
「ありがとうございます!」
色んな意味での情報収集であった。
広場で食べ物を頬張りながら町並みを眺めていると人だかりが出来ているのに気付き近寄ってみる。
人だかりの真ん中に紙の束を抱えた男が何かを訴えていた。
「さあさあ、昨夜もモフモフ仮面が現れたよ!
今度も悪どい商人の館に盗みに入ったそうだ。
これは領主の城に入るのも近いのか!
さあ、気になったら詳細が書かれたこれを買っていっておくれ!!」
「へぇー、新聞みたいなものかな?
どれどれ…怪盗なのに誉め言葉ばっかり…」
新聞を読んでみると昨夜の事件の詳細と鮮やかな手口が書かれている。
しかも、それを褒め称え次のターゲット予想までされている始末だ。
「次のターゲットがいっぱいありすぎて難しいなぁ…。
でも、過去の盗みの情報を集めれば何か規則性やクセみたいなのがあるかも!」
タルトは過去の新聞も読んでから一度、リーシャ達の元に帰っていった。
王都に戻ると得た情報を共有し何か気付くことがないか話し合うことにした。
「今日の収穫はこんなかんじだけどどうかな?
何か気付くことがある?」
「それよりもこんなに悪い商人がこの国にいるきとにへこんじゃうわ…」
「それはマリアちゃんがこれから頑張って住みやすく健全な国にしてくんだよー!」
「そうだよね…うん、頑張るよ!
あれ?ミミちゃん、何か気になることがある?」
じっとタルトが持ってきた資料を見つめているミミにマリアが声を掛ける。
「ぬすんだものが…おかねだけじゃないのです」
「そうね、色んな物を盗んでるのね。
お皿や食べ物…それにこれは何かな?」
「これは…やくそうのなまえなのです」
「凄いね、ミミちゃん!
そんなことをどうして知っているの?」
驚くマリアに自慢げに胸を張るタルト。
「ミミちゃんは学校でも優等生なんだよ!
それにしても薬草かぁ…それを定期的に。
病人が家族にいるのかな?」
「そうねぇ…薬草なら流通を調べれば次の狙いが絞れるかも。
特定の薬草なんて必要な人以外は買わないから」
「マリアちゃん、冴えてる!
よーし、明日はその方向で調査してみよう!
多分、前回の盗んだ量からすると2、3日のうちに行動を起こすはずだから!」
こうしてタルトの次の方針が決まり、この日はゆっくりと皆で過ごした。
既にマリアのベッドは侵略され5人でくっついて寝ている。
本人は一人っ子のため、こういう賑やかなのは初めてであり楽しい一時であった。
翌日は薬草の流通ルートを調べ、特定の薬草が誰に売られたかを徹底的に調べた。
タルトが調査を初めてから3日後の夜。
この日は新月で夜の闇に紛れ動く影があった。
影は領主の城の高い城壁を難なく登っていき誰もいないドアから中へと侵入する。
足音が全く聞こえず、素早く移動し目的の部屋を目指していく。
やがて、目指す部屋を見つけ鍵を開けて中へと忍び込み物色を始めた。
暫くしてめぼしいものを袋へ詰め終えると静かに部屋を出る。
いつもであれば外へ脱走するだけであるが、この日は違和感を覚える。
悪い予感は当たり部屋を出たところで通路には多くの兵士が待ち構えていた。
「この領主様の館へ押し入ろうとは愚かな奴だ。
そのうち来ると思って罠をはって待っていたぞ、モフモフ仮面ジュニア!」
隊長らしき兵士が前に出て光を侵入者へと向ける。
そこには若い青年であり仮面で顔を隠しているが、獣の耳と尻尾から獣人のハーフなのが見てとれた。
「こいつを捕まえろ!
勿論、生死は問わないからここから逃がすな!!」
一気に兵士が押し寄せるのを落ち着いて見極め、床を蹴り跳躍したかと思えば壁を走るように兵士の頭上を越えようとする。
無事に越えたかと思われたが振り上げた槍の先が足を掠め負傷を負ってしまった。
痛めた足を我慢し逃げるが動くが鈍り徐々に追い詰められていく。
やがて中庭へと出た所でもう逃げ場がないほど囲まれてしまった。
「もう逃げられないぞ、モフモフ仮面。
散々、騒がせてくれたが今日でそれも終わりだ」
「くっ…」
万全な状態でも逃げ切れる状況ではないが足を怪我しており万事休すである。
「俺はここで死ぬわけには…」
諦めたくないが状況がどうみても希望がなく、心が挫けそうになっている。
「ふん、そのまま大人しくしていろ。
死体は広場に晒して同じことを考えるような奴が出ないようにしないとな。
これだからハーフは忌まわしい、新しい女王はこんな奴等の自由を許すなんて何を考えているのだ?」
マリアが女王に就いた時に奴隷の待遇改善に関する法を施行したことにより虐待されていた奴隷が解放されていた。
解放されても住む場所や仕事もなく当てもなく途方にくれる元奴隷も多い。
国の仕事を斡旋はしているが溢れた者が犯罪を起こすことも少なからずあった。
モフモフ仮面もそういう鬱憤から生まれたと一部では考えられている。
「さあ、とどめをさしてやれ!!
これで今夜からゆっくり寝られそうだ」
「これで…終わりなのか…」
全方向からゆっくりと兵士が近づき、遠くから弓矢でも狙われ諦めたように膝を地面に着けるモフモフ仮面。
だが、どこからともなく濃霧が立ち込めていく。
「なんだ、この霧は!!
こんな濃い霧は自然では発生しない!
奴の仕業か知らんが絶対に逃がすな!」
自分の手の先さえ見えなくなるほどの濃霧でモフモフ仮面の姿が見えなくなり騒ぎ始める。
当の本人も何が起きたが分からず困惑していたが急に手を引っ張られた。
「こっち、着いてきて」
「誰だ…?助けてくれるのか?」
「いいから早く」
霧でよく分からないが手を引かれるままに付いていくモフモフ仮面。
不思議と兵士に出会わずに何も見えない霧の中を進んでいく。
やがて、城を抜け再び暗闇に包まれながらも付いていくと街外れの空き地で止まった。
「ここまで来ればもう大丈夫かな。
初めましてモフモフ仮面ジュニアさん!」
警戒しつつ相手を観察するモフモフ仮面。
暗闇に目が慣れてきてようやく相手の姿を認識する。
どうみても人間の少女で黒い猫耳の仮面を付けており、夜でもキラキラと美しい金色の髪が風に揺れていた。
「助けてくれたことには礼を言う。
だが、お前は誰だ?
あの霧はお前の仕業か?
何故、俺を助けた?」
いつでも戦闘でも逃走でも出来るように警戒を怠らず距離を保つ。
「もぉー、女の子に質問が多すぎですよー。
そんなんじゃモテないですよー」
「モテな…そんなことはお前には関係ないだろ!
本当にお前は一体誰なんだ!?」
少女の顔がニヤリと笑うのが仮面をつけたままでも分かった。
「弱者を守り、ケモミミを愛す…そう、私の名はモフモフ仮面!
元祖モフモフ仮面です!」