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167話 ジュニア

月の明かりの中、屋根から屋根へと移動するひとつの影。

下では兵士達が影を追いかけようと騒いでいた。

その騒ぎを聞き付け民衆も家の外に出てきて騒ぎは一層大きくなっていく。

やがて影は広場に面した教会の屋根で動きを止め、広場に集まった人々を見下ろす。

動きが止まったことでシルエットがハッキリと分かる。

小柄な女性でネコミミの仮面で顔を隠しており、大きな袋を肩に掛けていた。

おもむろに袋から金貨を取り出し広場に集まった民衆に撒いていく。


「私の名はモフモフ仮面!

悪事を働く領主から民衆を救う正義の怪盗である!」


金貨が失くなるまで撒くとモフモフ仮面は暗闇へと消えていった。

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー


「なんじゃこりゃーーーーーー!!!」


店頭で一冊の本を読みながらタルトが絶叫する。


「これは聖女様、その本は最近流行っているモフモフ仮面の活躍を描いた小説ですよ。

子供から大人まで人気があるんですよ!」

「そ…そうなんですか…」


勿論、この名前にタルトは身に覚えがある。

寧ろモフモフ仮面本人なのだから。

それがいつの間にか小説になり書籍化され流行っているとは寝耳に水である。

取り敢えず一冊買って帰ることにした。


「タルトさまもそのほん、よんだんですか?」

「モフモフかめんがあくをやっつけておもしろいのです」

「リリー、モフモフかめんになる…」


神殿に戻るとリーシャ達も読んだことがあるらしく凄い喜んでいた。

どうも学校でも数冊入荷し子供に人気があるようだ。

本人だと言っても信じて貰えないだろうし、犯罪なので名乗り出るのも気が引ける。


「一体誰よ…ちゃんと本人の承諾を得て欲しいなー」


正体も分からず一回切りなので承諾など土台無理なのだが、分かっていてもスッキリしないタルト。

そこへオスワルドがやって来た。


「聖女様、ウェスト・アングリア王国から手紙が届いてますよ」

「ありがとうございます!

ということはマリアちゃんからかな?」


封筒を開封し驚愕したタルト。

何とその手紙にもモフモフ仮面の文字があったのである。

しかも、ジュニアと続けて書いてあった。


場所が変わりウェスト・アングリア王国の王都にあるマリアの寝室。

既に夜になりマリアとアンの二人だけである。


「マリア様、カーテンを閉めますよ」

「アンさん、二人きりの時はちゃん付けで呼んでくださいよー」

「そうだったね、ごめんねマリアちゃん。

まだ慣れないのよね。

ここで働いてるのも夢みたいで…きゃっ!?」


アンがカーテンを閉めようとしたら窓の外に人影が現れたのである。

ここは最上階であり外から侵入できる場所ではない。


「誰っ!?

って…タルトちゃん!?」

「こんばんはー、アンさん!

マリアちゃんもこの間ぶりだね!」

「だから、タルトちゃん、一応ここは女王の寝室なんだから正面から話を通して来て欲しいな…」

「まあ、そんなことより今日は紹介した子達がいるの。

ほら、自己紹介して!」


タルトに言われて三人の少女が部屋に入ってくる。


「はじめましてリーシャです!」

「はじめましてミミなのです」

「リリー…」

「わあ、可愛い!」

「でしょー、私の自慢の妹達です!」

「もしかして手紙の件で来てくれたの?

まだ、出してからそんなに経ってないのに」

「呼ばれればひとっ飛びで駆けつけるって約束したでしょ。

それで手紙にモフモフ仮面が関係してるって書いてあったからこの子達も行きたいって…」

「そうなんだ、でも会えて嬉しい!

今日は遅いから部屋を準備させるね」


マリアがアンに指示を出そうとしたらタルトがベッドにダイブする。


「きゃっ!」

「部屋なんて要らないよー!

こんなに大きいベッドなんだからみんなで一緒に寝よう!」


続いてリリーがダイブし、リーシャとミミは誘われるがままにベッドに潜り込む。

アンは微笑ましくその光景を見つつ静かに部屋を後にした。


翌朝、朝食を食べながらマリアが話を切り出す。


「手紙には簡単に書いたのだけどモフモフ仮面ジュニアと名乗る怪盗が最近、現れてね」

「ちょっと待って、マリアちゃん。

その前にモフモフ仮面の本がこの国で出版されてるみたいなんだけど何か知ってる?」

「確か…モフモフ仮面に救われたと言っている村の人が書いたみたいだよ。

犯罪者じゃなく村の救世主って世間に知ってもらいたかったとか。

著者は…リカルドという人だって」

「リカルドさん…」


リカルドは旅の途中で出会った老人で村を苦しめてた商人をタルトがモフモフ仮面として救ったのだ。

その後、孫が家に戻ってきてその時に話をするうちに喜ぶ孫を見て小説に纏めたのである。

まさか、ここまで人気が出るとは本人も夢にも思っていなかったのだが。


「タルトちゃんもモフモフ仮面に興味があるのかな?」

「えっ?あはは…ちょっとね…」

「いじわるい質問しちゃってごめんね。

モフモフ仮面の正体が誰でもいいの。

私の代わりに村の人を救ってくれたんだから…」


おそらくマリアはタルトがやったことだと知っているだろうと気付いた。

だから、話を変えるために話題を元に戻す。


「それでジュニアを名乗る怪盗がどうしたの?」

「それなんだけどね、ある地方の領地に突然現れたの。

もう何回か商人の家に盗みに入ったらしいの」

「それだけだったら普通の兵士でも捕まえられるんじゃないの?

私を呼んだ理由って?」

「うぅーん、どうも襲われた商人は悪どい商いをしていたようなの…」

「それって小説の内容そのままってこと?」

「ちょっと違うのは民衆にお金を撒いてないことかな。

でも、根強い人気があるし捕まえると民衆の反発あるかなって。

実際に悪い商人に罰を与えてくれたって人々が感謝してるって噂が…。

それでどうして良いか分からなくなっちゃって」


食後の紅茶を飲みながらマリアの話に耳を傾けていたタルトはじっと考え込んでいる。


「よし、この件はどーんと私に任せて!」

「任せるのは良いけど、タルトちゃん、どうするつもりなの?」

「今は何とも分からないからその街に行って色々と調べてみるね!

一応犯罪だから止めないといつか捕まって酷い目に会っちゃうし」

「ごめんね、手伝えることがあれば言ってね」

「とりあえずリーシャちゃん達を預かってくれると…」


その台詞にリーシャ達が立ち上がる。


「タルトさま、ひとりでモフモフかめんにあいにくんですか…?」

「ここまできたからミミもあいたいのです」

「リリーはむりやりついていく…」

「待って、待って!

最初は会いに行くんじゃないの!

それにここはハーフの子が歩いてると目立っちゃうからここで待ってて。

毎日、夜には戻ってくるしモフモフ仮面にちゃんと会わせてあげるから!」


何とか子供達を宥めて調査に取り掛かり始めたタルトであった。



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