16話 勝者なき戦い
二つ同時平行の執筆は中々、大変ですね。
設定が頭の中でこんがらがります……
数日後……
「お婆ちゃん、これでもう大丈夫ですよ」
「聖女様、お陰さまで腰が楽になりました」
「これからは重いものを持つときには気を付けて下さいね!」
老婆が出ていくとタルトはため息をついた。
「はあぁ…… 人助けは良いけど魔法少女らしくない……」
『マスターは立派な聖女様になられましたね、皆さん非常に感謝してますよ』
「嫌じゃないけど…もう少し異世界ライフをエンジョイしたいかなー。
どうせ帰る方法もわからないし」
復興はシトリー達に任せて村人の病気や怪我の治療を行っていた。
噂を聞いた近隣の村からも人が集まり大忙しであった。
この世界では医療レベルが低く、こんな寒村では森の薬草で治療するくらいの民間療法しかない。
そんな場所で魔法でみるみる治っていくのを見たら、奇跡にしか見えない。
そのせいで大行列が出来、治療に付きっきりであった。
「タルトさま、おちゃです」
「ありがとー、リーシャちゃんだけが癒しだよー」
お茶を飲もうとした瞬間、エグバートが勢い良くドアを開けて入ってきた。
「どうしたんです? そんなに慌てて」
「おい嬢ちゃん、大変な事が起こった。
ちょっと広場まで来てくれっ!」
タルトが外に出て広場まで急いで行ってみると大勢の兵士がいて、村長が一生懸命、貴族みたいな青年に対して説明をしていた。
「エグバートさん、何が起こってるんです?」
「先日の襲撃騒ぎを聞き付けて領主が兵を引き連れて来たんだ。
今さら来ておいて偉そうな事ばっかり言いやがるっ」
「ですから悪魔が攻めてきましたが、聖女様が現れて守って頂きました…」
「悪魔相手に人間が一人で勝てるわけないだろう?
しかも、この大きな棟は一体何なのだ?
我が屋敷より大きいではないか!」
このままでは収まらなさそうだったので、タルトは仲裁に入ることにした。
「あのぉー、ちょっと良いですか?」
「おおぉー、聖女様!」
「何ぃ、お前が聖女だとっ?」
「一応、ここで聖女やってますタルトです」
「ハハハハッ!
こんな小娘が聖女な訳がないだろう?
この村は全員騙されているのか?」
「一体、何の騒ぎデスノ?
誰です?このヒョロヒョロのモヤシみたいなガキは」
(あちゃー、タイミングが悪すぎ!
更に騒ぎが大きくなりそう……)
ちょうど近くの森から木材を持って帰ってきたシトリー達が現れた。
「なんと。悪魔が普通に村にいるだと!?
全員こいつらに騙されているんだな!
しかも俺をガキ扱いとは生意気なっ!」
「ええぇーっと、シトリーさん達は少し黙っていてくださいね。
余計に話がこんがらがるんで……」
「タルト姉、アタシに任せな。
こんなヤツラ瞬殺してヤルゼ!」
「はいはい、カルンちゃんも大人しくね。
人は殺しちゃ駄目って言ったでしょ!」
「タルトさま、だいじょうぶですか?」
「リーシャちゃんは危ないから私の後ろにいてね!」
「獣人までいるのか!?
この村はどうなっているんだ?」
「ええっとですね、村は私が守りまして負けた悪魔が私の眷属になりました。
種族が関係なく平和な町を作りたいと言ったら皆さんが協力してくれることになりまして……。
あっ、ちなみにこの神殿は私を奉っているらしいです……」
「そんな馬鹿な話が信じられるかー!
貴様が悪魔を従えて村人を洗脳したなっ!
兵士ども、こいつを捕らえろっ!」
「ですよねー……そうなると思いました……」
兵士は武器を構えてタルトを取り囲んだ。
「この領主たるオスワルド・カートレット男爵がお前らを救ってやろう!」
「あのー、こちらは別に戦う意思はないんですが。
話し合いで解決しませんかー?」
「悪魔など殺す以外の選択肢はないわ!
そっちの獣人も生きている価値もないっ」
イラッ
「ここで戦うとせっかく村も復興してきましたし、怪我人が出るかもしれませんよー」
「悪魔に洗脳されたやつにちょうど良い罰じゃないか」
イラッ
「あなたは村の皆を助けに来たんじゃないんですか?」
「こんな辺境な貴族では只でさえ収入が少ないのだ、それなのに村が一つなくなったら更に懐が寂しくなるわ!」
プチンッ
「…………良いでしょう。
そんなに戦いたいなら私が相手をしましょう」
「この人数に一人で勝てると思っているのか?」
「貴方は戦わないのですか?」
「領主たる私が相手をするわけないだろう!まあ、止めくらいは直々に手を下してやろう」
タルトは一瞬で変身しステッキを構えた。
「ゼロ……グラビティ」
次の瞬間、50人くらいいる兵士達がフワフワと浮き始めた。
無重力状態になった兵士は身動きが取れなくなりもがくことしか出来なくなった。
「なっ……貴様、何をした!?
その姿は何なんだ?」
「無重力状態にしただけです。
兵士さん達は命令に従っただけで何も悪くないので、終わるまでそのままじっとしてて下さい」
タルトが手を翳すと浮いている兵士達が左右に分かれ道が出来上がった。
「残りは貴方一人です。
まさか男爵様が逃げたりしませんよね?」
「にっ、逃げるわけなかろう…。
この剣の錆びにしてくれるわ!行くぞっ!」
カキン、ドスッ ドサッ
オスワルドの一撃をあっさりと弾き、腹部にステッキで重い一撃を入れた。
その一撃にオスワルドは耐えきれずその場に倒れこんだ。
タルトは治癒魔法をオスワルドに掛けた。
「武器を拾って下さい。
こんなんで終わりではないでしょう?
貴方の土地を貰ってしまいますよ」
「ふざけるなっ……殺してやるっ!」
なんとか立ち上がったオスワルドだが、足がガクガクと震えていた。
この青年は辺境ながら男爵の家に生まれ、不自由ない生活を送っていた。
自分は偉いと考え自堕落な生活をして勉学も剣術も適当に習っていた。
戦いなど部下に任せれば良いと思っていたのだ。
そんな男が初めて生命の危機を感じていたが、プライドだけで何とか立ち上がった。
そのまま渾身の力を込めて剣を振り下ろした。
バキッ、ドスッ
「もう一度」
バキッ、ドスッ
「もう一度」
バキッ、ドスッ
「もう一度」
バキッ、ドスッ
「もう一度」
バキッ、ドスッ
「もう一度」
バキッ、ドスッ
「もう一度」
…………
………
……
倒しては回復し、倒しては回復するのを延々と繰り返した。
「タルトを怒らせると怖えエナ……
実は悪魔なんじゃナイカ……」
リリスは心からそう思った。
「もう許してくれっ!
何でも言うことを聞くから……」
「貴方は幼いリーシャちゃんを殺そうとしたのですよ。
相手を殺そうとしたなら自分が殺される覚悟はあるんですよね?
許して貰えると思っているんですか?」
「そんな……命だけはっ。
何でもするっ!俺が悪かったから…」
「それに貴方はここの領主ですよね?
それなら死ぬと分かっていても領民のために戦う義務があるんじゃないんですか?
祖先が頑張って得た身分なだけで、あなたは何をしたんですか?
自分が贅沢することばかり考えて領地の事は何も考えてないですよね?
しかも他人に対して生きる価値がないって何様ですか?
貴方に人の価値が分かるんですか?
そもそも貴方にはどんな価値があるんですか?
それに種族ってそんなに大事ですか?
種族よりもどんな生き方をしているかのほうが大事ですよね?
誰にでも自由に生きる権利があって、誰かが許可するものじゃないんですよ?」
「あ……う……」
余りの剣幕に誰もが呆気に取られ言葉を出せないでいた。
「では、本当に反省しているなら許してあげましょう!」
「!?
……………本当に許して貰えるのか?」
「一度きりです。
今後の貴方の行動次第ではすぐに飛んでいきますよ」
「本当に申し訳ない……。
これからは心を入れ換えて領地のために行動しよう……」
こうしてオスワルドは兵を連れて帰っていった。
その顔つきはスッキリしていたらしい。
「タルトさま……すこしこわかったです……」
リーシャの一言にタルトはしばらく落ち込んで立ち直れなかった。
勝者のない不毛な戦いであった。