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161話 救援

アルマールで全ての侵攻を防ぎ落ち着きを取り戻した頃、ウェスト・アングリア王国では戴冠の儀の真っ最中であった。

マリア王女を暗殺し王座に就こうとしたゴート公爵は殺され、救出に駆け付けた衛兵も全滅している。

更に両親の死に自分が関わっている事を知りマリアの心は壊れる寸前であった。


「さて、そろそろ私の操り人形になってもらいましょうか。

全てを忘れて身を委ねれば楽になりますよ」

「ぁ…ぁ…」


黒幕であるマティルダが優しい笑みを浮かべながらゆっくりと近づくが、怯えることしか出来ないマリア。

そこへ入り口の方から甲冑を着た兵士が二人駆け込んできた。


「王女は無事か!?

これは一体、何が起こったのだ?」


兵士はマリアに近づき無事を確認しつつ周囲の状況を確認する。

マティルダはその様子を興味深げに見ていたが急に笑いだした。


「あはははははっ!

まだマリアを助けに来る衛兵が残っていたのね。

もう一押し何かが欲しかったから丁度、良かったわ」

「何の事だ!」

「その忠誠心はたまらないわ!

マリアを慕う者が目の前で無惨に殺されていくのを見せれば更に面白いことになりそうね」

「もうやめてえぇぇえ!!」


マリアの悲痛な叫び声が響き渡る。


「マリア王女、私達が絶対にお守りします」

「駄目よっ!

相手はゴブリンキングがたくさんいるのよ!

お願ぃ…ここから逃げて…私のためにもう誰も死んで欲しくないの…」


マリアは何とか絞り出した想いを伝える。

だが、無情にもゴブリンキングがゆっくりと近づいてきており逃げられる状況ではなかった。


「もう遅いし逃がすつもりもないわ。

せめて出来るだけ惨たらしく死んで頂戴。

あっ、そうだ!

一気に殺さず苦しませながらが良いかも!」


場違いなほど楽しそうなマティルダ。

ゴブリンキングが武器を振り上げ目の前の兵士に目標を定める。


「やってしまいなさい」

「駄目えええええええええええええええ!!」


マティルダの指示にゴブリンキングが動き、マリアは両手で顔を塞いだ。

大きな衝撃音が響き渡り静寂が再び訪れた頃、マリアは恐る恐る目を開けてみる。

そこには恐るべき威力の一撃を剣で受け止めている兵士の姿があった。


「うおおおおおおおおおおお!!」


更にそこから押し返して怯んだゴブリンキングの首を薙ぎ払って切断した。


「馬鹿な!?

ただの人間ごときがゴブリンキングの一撃を受け止め倒しただと!!」


予想外の展開に驚きを隠せないマティルダに対し、兵士は徐に兜を外した。


「これ以上、お前の思い通りにはいかないぞ!

我らがいる限り王女には指一本触れさせんぞ!」


その兵士の顔に見覚えがあったマリア。

タルトの横にいた貴族である。


「貴方は確か…」

「よくぞご無事でした。

私は聖女様にお仕えするオスワルドです。

そして、こちらが…」


オスワルドの視線の先にはもう一人の兵士が兜を外そうとしている。


「そう、私は…。

んっ?

むむむむ…うわ、外れない!

えい!えい!

何で?くるくる回るだけで外れないんだけど!」


一人でボケてるような雰囲気にあまりに場違いでマティルダもどう反応して良いか分からず戸惑っていた。

ついに見かねたオスワルドが手伝い兜を外すと美しい金色の髪がふわっと風になびく。


「タルトちゃん!?」

「お待たせマリアちゃん!

遅くなってごめんね」


それからポイポイっと甲冑を脱いでいくタルト。

マティルダは予想外のゲストに怒りを露に叫ぶ。


「なぜ聖女がここに!?

お前は地下牢で眠り込んでいたはずだ!」

「ふっふっふー、それはですねー」


時間は少し遡り、マティルダが朝食を置いて去っていった地下牢での事。


「お腹空きましたよー。

いったっだきまーす!!」


パクッとパンを頬張るタルトだがピタッと動きを止め小声で話し始めた。


「二人とも食べるのを待ってください。

でも、見張りがいますので気付かれないように普段通りしながら聞いてください」


真剣な顔のタルトに無言のまま目で軽く了承の合図を送るオスワルドとティアナ。


「これに毒…いや睡眠薬が入っています…」

「聖女様は大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です…それよりも。

ちょっと待ってください…」


タルトは徐に二人のパンを近寄せて何かを始めた。


「このパンはこうした方が美味しいですよー」


わざとらしく大きな声で良いながらパンにベーコンのような肉を挟んでいく。

サンドイッチみたいにして二人に差し出した。


「ちょっと嫌かもしれませんが私の体内で精製した解毒剤を入れました。

でも、食べ終わったら騙されたように眠るフリをしましょう」

「嫌なわけはありません。

喜んで戴きます」

「うーん、タルト汁か…」


嬉しそうなオスワルドに反して嫌そうなティアナ。


「タルト汁ってなんですか?

もう…汚いみたいじゃないですか…」


そんな事を小声で話ながら食べ始める三人。

やがて食べ終わったらわざとらしく欠伸をしつつ横になって寝たフリを始めた。

それを見ていた見張りの男が近づいてくる。


「聖女といってもこの程度か。

事が終わるまでここで寝てるんだな」


そう言い残して去っていく。

暫くしてからムクッとタルトが起き上がった。


「もう誰もいません、起きても大丈夫です」

「これは大きな陰謀がありそうですね…」

「誰が黒幕だ?

あのゴートとかいう人間か?」

「最初はそう思いましたがちょっと気になることが…。

それよりもマリアちゃんが心配です!

すぐに助けに行きましょう!」

「睡眠薬は聖女様に邪魔されないように仕組んだ事でしょうから何か企ててるのは間違いありませんね。

ですが、脱獄したらさすがにバレるのでは無いですか?」

「それはこうやって…それっ!」


掛け声と共に地面が盛り上がりタルトとオスワルドの寝姿を模造したそっくりの人形が現れた。


「ティアナさんはここに残って何かあれば二人が寝てるように誤魔化して下さい」

「請け負おう。

二人も気を付けて行ってこい」

「はい、行ってきます!」


そうしてタルトが鍵を簡単に開けて兵士の甲冑を盗んでから怪しまれないように脱出した。

こうして急ぎこの洞窟に駆け付けたのである。


「こうしてマリアちゃんの危機に駆け付けたわけですよ!

さあ、観念なさい!」

「ちっ、イイ気ならないで。

さあ、ゴブリンキング達よ、相手は二人なんだからさっさとやってしまいなさい!」


苛立ちを抑えきれず丁寧な口調が少しずつ崩れるマティルダはゴブリンキングに命じる。

タルトが前に出ようとするとオスワルドが手で遮った。


「ここはお任せください。

聖女様は王女の傍に。

これでも日々努力してますからこれくらい余裕です」

「分かりました!気を付けてくださいね!」


タルトはオスワルドの溢れる気迫に問題ないと判断し任せることにした。

オスワルドは剣を地面と水平に構え魔力を流し込むと根本から炎を帯びていく。


「さあ、いくぞ!

覚悟しろ!!!」


ゴブリンキングの攻撃を水の流れに逆らわないように受け流し次々と一刀で斬り捨てていく。

その剣捌きはノルンの太刀筋を彷彿とさせた。


「すごい…」


その光景に見とれているマリア。


「さあ、後はお前だけだマティルダよ!」


全てのゴブリンキングを倒したオスワルドはマティルダに血で真っ赤に染まった剣を向ける。


「ふふ…ふふふふふふふ…その程度で勝ったと思ってるの?」

「何?」


追い込まれたと思われたマティルダが気味悪い笑みを浮かべオスワルドを睨み付ける。


「オスワルドさん、気を付けて下さい!

まだ終わりじゃありません!」

「どういう事ですか、聖女様?

マティルダのような女性一人に何が出来るのですか?」

「彼女はまだ秘密を隠しているんです」

「さすが聖女と呼ばれる事だけはあるのね。

良いでしょう、冥土の土産に教えてあげましょう」


こうして思いもかけない展開へと向かっていくのであった。



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