160話 ティートの決断
気付けば連載開始から1年が経過していました。
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「死ね、ティート!
神龍槍!!」
カルヴァンが繰り出した超高速の万物を貫くであろう威力を秘めた突きがティートの胸を貫く。
「っ!?」
胸を貫かれ血飛沫が出る光景を見てるはずのカルヴァンは目の前の光景に唖然としている。
ティートの姿が煙となって消え小さなハーフの少女が現れ、再び煙となって消えた。
残されたのは一枚の葉っぱが舞っているのみである。
あまりにも想定外の展開にカルヴァンの意識はその葉っぱに集中していた。
そうたった一瞬である。
だが、このレベルに闘いで一瞬でも気を反らしてしまうのは命取りであった。
「最後の一撃だ、蒼雷!!」
真上から重力をも利用したティートの神速に近い一撃は蒼い稲妻のようである。
大技を発動後で意識を他のものに奪われたカルヴァンは完全な無防備な状態であった。
だが、歴戦に直感が無意識に身体を僅かだが動かしたお陰で致命傷は避けたが右肩を貫かれる。
「ぐあああああああああっっっっ!!!」
その場で膝を着き握っていた槍を落としてしまう。
「勝負ありだ、カルヴァン!!」
「く…最後のは…何だ?」
「お前は俺だけと闘っていたつもりだろうが、俺達はずっと二人で闘っていたのだ。
夢幻は見破られると思っていたよ。
だから、本体の見極め方を理解したお前は勝利を確信し必ず隙が生まれるだろうから最後の罠を仕掛けた」
「罠…だと?」
「ミミ!」
「はいなのです!」
ミミはティートの合図で胸の辺りで両手を合わせる。
「いくのです!!」
驚くことにミミからもう一人のミミが分かれ二人になったのだ。
「まだなのです!」
更に新しく現れたミミが煙に包まれたと思ったらティートに変化していた。
「何だこれは!?」
「これはミミだけの特殊な魔法で分身と変化だ。
これを偽の本体として使い騙されたお前の頭上から最大の必殺技で隙を付いたのだ」
「そうか…眼中にない雑魚だと思っていた小娘にやられるとはな…」
「カルヴァン、お前は俺より強い。
今の俺一人ではどうやっても勝てなかっただろう。
だが、弱者でも協力しあえれば格上の相手にも勝てる。
それが獣人にはない人間の力なのだと学んだ。
彼らは獣人よりも遥かに能力が劣るが、この闘いでも自分の役割を命懸けで全うしてくれたからこの勝利が生まれたのだ」
「…」
カルヴァンは貫かれた右肩を見ながら無言のままだ。
「殺せ…」
諦めたかのように呟く。
敗者は殺されるのが戦の常である。
カルヴァンも死の覚悟など当の昔に出来ており、この重症では勝つ見込みがないのを理解していた。
「さあ、殺して父親の仇を討つが良い…」
「カルヴァン…」
ティートは地面に落ちていたカルヴァンの槍を拾う。
それはティートの父が愛用していた槍でカルヴァンが奪い取ったものだった。
魔槍アラドヴァルと呼ばれるそれは獣人の間で受け継がれている武器であり、素材は不明だが非常に硬い金属で出来ており軽く魔力が流れやすい性質を持っている。
それが遂にティートの手に戻ってきたのだ。
「去れ…」
「…何て言った?」
ティートの言葉が理解できなかったカルヴァン。
「去れと言ったのだ」
「何を言っているんだ貴様は!?
敵将の首を取るのを何故躊躇うのだ?
まさか情けを掛けているのか!!」
「そうではない。
我らの聖女様は無駄な殺生を好まない。
もう戦えない相手を殺すことはないだろう」
「後悔することになるぞ?」
カルヴァンの言葉は決して脅しではない。
ここで助かるのであれば再び侵略しに来ても不思議ではない。
だからこそ禍根を残さないように処刑するのが一般的なのだ。
「それに今回はお前の方が強くミミと協力してようやく勝てた訳だし、同じ手は二度と通じないだろう。
だから、俺はもっと強くなりお前を越えたいんだ。
次、闘う事があれば一人で勝ってみせよう」
「ちっ、好き勝手な事を言いやがって…」
「早く適切な治療を行えば獣人の治癒力と合わさって、その傷でも再び戦えるようになるだろう。
カルヴァン、お前はひとつの目標なのだ」
「良かろう。
次に会うときを楽しみにしているぞ!!」
カルヴァンの一声で兵達は戦いを止め撤退を開始した。
ティートの命令で一切の追撃は行わなかった。
これにて獣人の侵攻も無事に防衛が完了したのだった。
少し手前の防衛拠点まで戻り負傷者の簡易的だが治療が行われる。
大量に生産された薬と医学を学んだ兵士によって出来る限りの治療が受けれるのだ。
ミミもティートの傷口の治療を行っていると見慣れた顔が現れる。
「ここにいたか。
まずは無事に勝利したことをお祝い申し上げよう」
「こちらこそ加勢頂き感謝する。
貴方が来てくれなければ敗北していただろう」
ヘンリーに対し立ち上がって深々とお辞儀をするティート。
「ミミもなのです。
たすけにきてくれてありがとうなのです」
ティートに遅れてミミもお辞儀した。
「俺にとってこの街は沢山の事を学ばしてくれた場所だ。
それに友人や恩師もいるのだ、助けに来るのは当然だろう。
それに俺が言わなくても部隊にいる獣人達は聖女様を助けにいこうとしていたがな」
「ところで、アルマールに寄ってきたと聞いたが他の状況について何か知っているか?」
「いや、俺が出発するまでには何もなかったようだ」
「そうか…申し訳ないが一緒にアルマールにきて、他の戦場にも参加頂きたのだが…」
ティートが心配しているのは悪魔やヒュドラを迎撃中の仲間のことである。
もし、ここだけ先に終わってるなら他の場所に加勢したいと思っていた。
カルンは一足先にアルマールへと報告と状況確認に戻っている。
ティート達も治療が終わり次第、動けるものを集めてアルマールへと戻るつもりだった。
「それは問題ない。
どれくらい役に立てるかは分からないが全力を尽くそう」
「重ねて感謝する。
さて、そろそろ出発しよう」
ティート及びヘンリーの部隊は出来る限り急いでアルマールへと向かう。
数時間も走ると街が見えてきたが、街を取り囲む城壁には多数の魔物の死骸が転がっていた。
死骸に大量の矢が刺さっており城壁の大弩から放たれたものと推測される。
予想通り今回の戦いで棲みかを追われた魔物が街へと押し寄せていたのだ。
特に城壁が崩れた所もなく防衛は成功したように思われる。
周囲の状況を確認しつつ正門をくぐり神殿前の広場へと移動すると特設の天幕が多数張られていた。
そこには多数の負傷者が治療を受けていたが重傷者は見当たらない。
奥の天幕からノルンが出てくるのを見つけ駆け寄った。
「ノルン様、こちらは全て終了しました。
死亡者は出ておらず軽傷者のみです」
「おお、ティート!
報告は先に到着したカルンからも受けている。
お前のところが最後だったから心配していたがよく頑張ったな」
「いえ、良い師に恵まれたお陰です。
それよりも他の場所は大丈夫だったのですか?」
「ああ、かなり厳しい戦いだったが無事に戻ってきて治療を受けたり休んだりしている。
お前達も作戦通りなら寝ずに戦っていたのだろう?
まずは兵を休ませてやれ」
「承知しました。
悪魔の軍勢やヒュドラをあの少人数で退けるとは流石です」
「まあ…かなり危なかったがな…」
「では、兵達に休むよう指示して参ります」
こうしてティートは部隊へと戻っていく。
多数の怪我人を出したがアルマールの危機は過ぎ去り、人々は勝利の宴をあちこちで開いていた。