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159話 夢幻

ヘンリーが兵を引き連れ現れた事で攻勢になった味方を眺め、冷静さを取り戻したティート。

それにこんな最前線に危険を顧みず駆けつけてくれた事が何より嬉しかった。


「見よ、カルヴァン!

危険を顧みず人間と獣人が共に駆け付けてくれたぞ!!

これぞ聖女様が目指す新しい世界だ!」

「ふ、ふざけるなああああ!!

こんなものを俺は信じないぞ!

見てろ、お前を殺し、次に妹、そして、アイツ等も皆殺しにしてやろう!」


ここからカルヴァンの怒濤の攻撃が始まった。

怒りに任せた攻撃は直線的で読みやすいのだが、その速度と威力に防戦一方になるティート。

ギリギリで受け流そうとするが完全には威力を殺せず段々とダメージが蓄積していく。

ティートの真下、死角からの鋭い一撃を上体を反らし何とか躱したが、連続して繰り出された柄による突きを鳩尾に喰らう。


「ぐふっ!」


後方に吹き飛んだが倒れ込むの何とか堪えた。


「どうした?

お前の力はその程度か?

父親の足元にも及ばないな」

「貴様が我が父の事を語るな!

汚い手を使い死に追いやった貴様は許さない」

「弱者は強者に逆らえんのだ。

俺が何を言おうとお前には止められない」


ティートにも明らかな実力の差があるのは理解している。

例え敵わなくても諦めるという考えは全くなかった。

それにティートにはまだ残された手がある。


「これから見せるのは沢山の師の教えによって編み出した技だ。

これでお前を倒してみせる!」

「面白い!

所詮、お前の努力は無駄だと証明してみせてやろう」


ティートは両手を合わせ体内の魔力に意識を集中させる。

先程の挑発はこの技の発動に必要な時間を稼ぐためにわざとだった。

カルヴァンの性格上、挑発に乗るだろうと踏んでいたのだ。


夢幻(むげん)!!」


急に辺り一面が濃い霧に包まれお互いの姿が見えなくなる。

カルヴァンは視界を奪われても落ち着いてティートの気配や音を感じようと神経を集中させた。

だが、いくら待っても何にも感じられない。

それでも集中を切らすこと無く待ち続けると後方で僅かな気配を感じる。


「後ろか!!」


振り返るとティートの高速の突きが襲い掛かる。

それを落ち着いて捌くが、反応が遅れたため反撃には至らない。

そのままティートは霧の中へと消えていった。


「ふん、これだけの霧を出すとは魔法の制御が上達したのは誉めてやる。

だが、視界を奪った程度では俺を倒せんぞ!」


元々、獣人は魔力の制御が下手な事もあり魔法は使わず自分にあった武器の技術を向上を目指す。

魔力は身体強化に特化させ技の威力を何倍にも上昇させる。

ティートはシトリーを始めとする悪魔や天使であるノルンによって魔力の制御方法を死ぬほど叩き込まれたのだ。

それによって苦手だった魔法が驚くほど上達していった。


「見せたいのはこれからだ!」


どこからともなくティートの声が聞こえる。

カルヴァンの視界、ギリギリに動く影を捉えた。


「こっちか!!」


今度の反応は速く完全に迎撃の体勢をとりティートを迎え撃つ。

相手の武器を弾こうとした瞬間、すり抜けて空を斬ったのだ。


「何っ!?」

「残念、こっちだ!」


驚愕するカルヴァンの後方からティートの声が聞こえ緊急回避をし辛うじて直撃を避けた。


「今のは一体…?」


既にティートは霧の中へと姿を眩ましたが、今の攻防を思い返し相手の術を見極めようとした。

最初、右手から攻撃してくるティートを視認し、迎撃しようとしたら幻のように消え後方より突然現れた。


(残像?…いや、残像なら動きはしない。

直前まで攻撃を仕掛けようとしていたのだ。

手段は分からんが幻のようなものを作って惑わせてるのか…)


技のおぼろ気ながら全容が分かっても幻に気を取られた時に死角からの攻撃を受けるのは至難の技なのだ。


「少しはこの技の怖さが分かったようだな。

だが、これからが本番だ」


声が聞こえ終わると同時に左右からティートが現れる。

これをかなり距離を保ちつつ回避した瞬間に死角から高速の突きに襲われ右足にかすり傷を負った。


「ちぃ…面倒だな…」


間髪入れずに正面から現れたティートを無視し、死角である後方を警戒しようと振り替えると幻だと思ったティートが追撃をしてくる。


「今度はそっちが本体か!!」


何とか致命傷を避けつつ攻撃を捌いたが、これ以上小さい傷でも蓄積していくのは不味い状況である。

一見、追い詰められているのだが狂ったように笑い出した。


「ふははははははははははははははっ!!」

「何が可笑しい!?」


追い詰められてる側のティートが異様な反応に困惑している。


「あの時はとるに足らん小さなガキだと思っていたが、これ程強くなるとはな!

獣人としてこれ程の魔法を行使するとは余程の訓練を積んできたのだろう。

だが、残念だがこの辺で終わらせてやろう!!」


既に技を見切り勝利宣言を行うカルヴァン。


(幻をどう作っているのか分からん。

だが、この技には致命的な弱点があるのだ。

どういう訳か幻は鏡に映ったように左右が反転している。

それには気づいているから左右対称の服装をしているのだろうが、この闘いで負った傷や武器の持ち手で見切ることが出来る)


次のティートの攻撃で幻と思われる攻撃は無視して本体の攻撃を完璧に捌いてみせた。


(やはりな…次の攻撃で終わらせてやろう。

苦しまぬように一突きで殺してやるか)


すうぅーっと息を吸い込み槍を握る手に力を込める。

何処から攻撃しても対応できるように神経を研ぎ澄ます。


「カルヴァンよ、次の一撃で終わらせてやるぞ!!」


次の瞬間、前後左右の四方向からティートが襲い掛かる。

それを瞬時に幻と本体を見極め、神経を本体のみに集中させた。


(右が本体か!

四体に分かれるなど大したものだが、それが限界だ!

俺には通用しなかったようだがな)


カルヴァンは全身に蓄積させた魔力を爆発させ一瞬だが神をも凌駕するであろう破壊力を生み出しているのだ。

似たものに桜華の巫覡があるが、瞬間に全てを燃焼させる為、上昇率が圧倒的に高い。

ここぞという一撃であり繰り出す以上は必殺しなければならない。


「死ね、ティート!!!

神龍槍(しんりゅうそう)!!」


カルヴァンの全てをのせた一撃にティートは反応さえ出来ない。

そのまま心臓を正確に狙いティートの胸を貫いた。



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