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157話 原初の子供達

セリーンから湧き出た黒い霧によって生み出された暗闇が晴れていく。


一人の悪魔は霧が晴れるにつれて感覚が戻っていくのが認識できた。


「何だったンダ…今のハ…」


それと同時に目の前に天使の姿が見える。

同じように暗闇に動揺していたのか、こちらに全く気付いていないようだ。


「チャンスだゼ…まずはウゼエ天使から血祭りにしてヤル」


背後から心臓めがけ剣で貫く。

骨を貫通する鈍い感触が伝わり確実に心の臓を貫通したのを理解した。


「やッタ…俺が天使をぶっ殺しタゼ!!」


剣を引き抜くとおびただしい量の血が吹き出す。

ゆっくりとノルンが振り返ると胸まで貫通したらしく白い服が鮮血で染まっている。


「ヘッ、どうだ心臓を貫かれた感想ハ?」

「何かしたのか?」

「ハ…?」


確かに心臓を貫いたはずなのにノルンは平然としている。

天使であれ悪魔であれ心臓を貫かれ生きている事など不可能なのだ。

だからこそ悪魔は理解できない。

目の前の天使が平然としていることに。


「何ダ…何ダ…何なんダ、貴様ハ…。

何故、死なナイ…いや、もう一度ダ!」


それから何度も何度も突き刺した。

その度に鮮血が飛び散り天使の身体には刺し傷が増えていく。

だが、何度刺しても天使は無表情のままこっちを見ている。


「何ダヨ…何なんダヨ、お前ハ!

何で死なねえンダヨオオオオオ!!!」


悪魔は絶叫しながら恐怖に飲み込まれていく。


また、別の悪魔は霧が晴れると同時に周囲に仲間も敵も消えていることに戸惑っていた。


「何が起きタ…?

何故、誰もいないンダ…?」


ついさっきまで憎い天使と裏切り者のシトリーをあと一歩というところまで追い込んでいたはずだ。

ところが変な奴の介入で全てが狂ってしまった。

少し前に仲間の悪魔によって串刺しにされて落ちて死んだはずの少女だったと思われる。

少し成長していたが面影はそのままで串刺しの剣がそのままだったからだ。

その女が出した霧に包まれたと思ったら誰もいなくなっていた。


「たす…ケテ…」


何処からともなく声が聞こえる。


「たす…ケテ…クレ…」


突然、何者かが足を掴む。

下を見るとシトリーに焼き斬られた悪魔が右足首を掴んでいた。


「何ダテメエ!

さっき死んだはずダロ!

クソッ、離しやガレ!!」


頭を蹴飛ばし足から引き離した。


「フゥ…何なんダ…今のハ?」


言い終わるよりも前に背中に重みを感じる。


「ヨコセ…お前の身体を…ヨコセ」

「ウワアアアアアアアアァァ!」


悪魔は驚愕した。

上半身だけの悪魔が背中に張り付いていた。


「テメエ、離セ!」

「ヨーコーセェー…」


がぶっと首筋に噛みつき肉ごと持っていかれる。


「グワアアアァ!

痛エェ…何しやガル!」

「俺にもヨコセ…」「こっちにもヨコセ…」


両足、両腕にも死んだはずの悪魔が掴んでおり歯を突き立ててくる。

肉ごと噛みきられ血が吹き出す。


「やめてクレエエエェェ!!

誰カ…助けテ…クレ…」


生きたまま喰われていく恐怖に悪魔は絶叫し助けを求めたが応えるものは誰もいなかった。


ノルンとシトリーは理解が追い付いていなかった。

自分達も霧に包まれ闇に飲まれたが、視界が戻ると共に悪魔達が何かに恐怖し怯えているのだ。


「何だ…何に怯えているんだ?」

「サア…分かりまセンガ霧に包まれた事と関係してるのデショウ」

「セリーン。

お前の仕業か?」


目の前には誉めて欲しそうにニコニコしているセリーンがいた。


「ええ、ええ、そうです、お姉様!

貯めに貯めた魔力を使って大規模精神干渉魔法で恐怖のドン底に落としてやりました!」

「ここにいた全悪魔にか!?

何て大規模な魔法だ…」

「ですから魔力をほぼ使い果たしちゃったので回収してきますね!」


笑顔でそう言い残すと近くの悪魔の首筋に噛みついて血を吸い始める。

見えない何かに怯え無抵抗な悪魔はセリーンのなすがままであった。

小一時間もしない内に全ての悪魔を吸い付くして戻ってきた。


「不味いし質も悪いし量も少ないなんて本当にゴミ同然の奴らですね」


戻るなり開口一番不満をぶちまける。


「でも、全部片付きましたから、ゆっくりお話出来ますね!」


相変わらず満面の笑みのセリーンに対し、ノルンとシトリーは若干、困惑していた。


「これだけの広域の魔法…。

それにあの再生の速度と不死身さハ…」

「シトリー、何か知ってるのか?」


何か思い出したように深く考え込むシトリー。


「セリーン…。

貴女…原初の子供達(オリジン・チルドレン)ネ…」

原初の子供達(オリジン・チルドレン)だとっ!!!」


これにはノルンも驚愕する。

ここで言う原初とは最初の吸血鬼の事だ。

いつ、何処から現れたのかは不明だが強大な魔力と不死身さで人類を恐怖のドン底に叩き落としたのだ。

吸血鬼とは生殖は行わず、吸血鬼の血を飲むことで人間が変化したものである。

その力は原初に近いほど強くなり、原初から直接受けたものを子供達と呼ぶのだった。

千年以上前に大天使三人が協力し、原初とその子供達を滅ぼしたという逸話が残っている。

それ以来、残された吸血鬼も天使や人間により討伐され数を減らしていたのだ。


「あの伝説の生き残りか!?

確かに過去に出会ったどの吸血鬼を遥かに凌駕する能力だとは思ったが…」

「ワタクシも聞いた話ですが、そうじゃないとこの強さは説明出来マセンワ…」


セリーンは困った顔をしてため息をつく。


「うぅーん…バレちゃったらしょうがないですね。

そうです、私は原初の子供達(オリジン・チルドレン)の生き残りですよ」

「待て待てっ!

天使の伝承では子供達も含めて全滅させたと残っているぞ!?」

「エェ…悪魔の中でもそう噂されてましたワヨ」

「それは大天使との戦争に参加した者は全て死んだからですね。

私と姉様は参加しなかっただけですよ」

「そう…だったのか。

だが、当時の天使が把握していた子供達はすべてらしいのだが」

「そもそも私は戦うのが好きじゃないんです。

アイツの気まぐれで吸血鬼になっただけで戦いに参加したことも人間を襲うこともほとんどありませんでしたから」

「だから情報が入ってこず把握出来なかったのか…」

「ですから、一族が皆殺しにされても恨みもないしやり返そうとも思ったことはないです。

寧ろイメージばかり悪くして迷惑でしたから清々しましたよ!」

「そう…か。

それなら安心だが…。

とりあえず助けてくれて感謝する。

二人だけでは危ないところであった」

「そうデスワネ。

庇ってくれたことも含めてお礼を言いマシテヨ」

「いえいえー、そんな当然の事をしただけですよー」


照れながらも嬉しそうなセリーンであったが、何かをうっとりと見つめながら息を少し荒げている。


「はぁ…はぁ…さあ邪魔者もいなくなりましたし…。

お礼代わりと言っては何ですが…少ーしだけ…少ーしだけでいいから傷口を舐めさせてください」


興奮しながら少しずつ近寄るセリーン。


「タルト姉様がいなくてずっと我慢してたんですが…。

お二人の血もずっっっっと前から味見してみたかったんですよぉ」

「ちょっ、ちょっと待て!

まだ警戒中だ!

舐めるだけといいながら吸う気まんまんだろっ!!」

「そうデスワ!

いつも見てますがタルト様でないと死んでしまうほどの致死量を飲んでマスワネ!!」

「大丈夫ですってばぁー、ちゃんと自制しますって。

だから、待ってくださいよー!」


セリーンから逃げるノルンとシトリー。

この追いかけっこは朝まで続き、少女に戻ったセリーンが土下座して謝っていたという目撃情報が相次いだのであった。

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