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152話 黒幕

ゴブリンキングの振り上げた武器を見上げるマリアだが涙でボヤけてしまう。

一度は死の覚悟が出来ていると思っていたが、いざその時が来たら恐怖が勝り思考も停止していた。


「さあ、やってしまえ!」


無情にもゴート公爵はとどめを刺すように指示を出すが、ゴブリンキングは武器を振り上げたまま制止している。


「おい、何をしておる?

さっさとやらぬか!!」


業を煮やしたゴート公爵はゴブリンキングに近寄り大声で怒鳴り付ける。

ヒュンッと風を切るような音と共に武器が振り下ろされた。


「えっ?」


ゴロンと落ちた腕を見つめるゴート公爵。


「うぎゃああああぁ!!

何だ、何をするか、貴様!!」


叫び声を共に憤怒するゴート公爵だが、ゴブリンキングはそのまま停止している。


「汚い叫び声ですね、ゴート公爵」


暗がりから一人の女性が現れる。


「マティルダ、早く助けぬか!

貴様が渡した秘薬が効いてないせいでこうなったんだぞ!」

「あら、そんなことはないですよ。

ちゃんと言うことを聞いてるじゃないですか。

但し、貴方ではなく私のですけどね」

「何だと!?

貴様はワシの命に従っていたんじゃないのか?

目的は何なのだ!?」


急な展開に状況が把握できず恐怖も抜けてないマリアだが必死に声を絞り出す。


「助けに来てくれたの…?

マティルダ…」

「マリア王女、もう少しお待ちくださいね。

直ぐにゴミを片付けますから」


マティルダが右手をあげるとゴブリンキングの武器が横に薙ぎ払われた。

マリアの目の前に何かが転がってくる。


「ひっ…」


それはゴート公爵の頭部であり恐怖の表情のままマリアを見つめている。

先程の恐怖が蘇り限界を超えてしまい太ももに温かいものを感じた。


「マリア王女、この歳でお漏らしとははしたないですよ。

でも、そんなお姿も懐かしいですね。

よく母君に怒られてましたね?」

「ぐす…マティルダ…何でこんな事を…」


目の前の生首に怯えながら必死に声を出す。


「これが邪魔でお話出来ないようですね。

取り敢えずどかしましょうか」


そう言いながらゴート公爵の頭部を蹴り飛ばす。


「死んでも邪魔をするなんて本当に嫌な奴でしたね」

「貴女が…貴女が全て仕組んでいたの…?」

「ようやくご理解頂けたようですね。

その通りです、私が全ての黒幕ですよ」

「ぅそ…嘘よ…だって、マティルダは…小さいときから側に居てくれて…。

優しくてどんな時でも私の味方だったのに…」

「ええ、ええ、そうです。

小さい頃にお側付きに任命されてからずっと一緒でしたね。

よくイタズラをして母君に怒られて泣いているのを慰めたのをよく覚えていますよ」


マティルダはいつも通り優しい笑みをうかべたまま話を続けるが、逆にそれが違和感を感じ恐怖を覚えた。


「あの優しいマティルダがこんな事出来るわけない!!

嘘よ、全部嘘なんでしょ!?」

「そんなに信じて頂けて嬉しいですね。

ひとつ面白い昔話をしましょうか」

「昔話…?」

「そうです。

一緒にお菓子を作ったのを覚えていますか?」


突然の質問に戸惑いながらも記憶を辿っていく。

少し落ち着きを取り戻し思考する力も戻ってきたのだ。


「お菓子…。

確か私がお願いして作り方を教えて貰ったのよね…?」

「さすがマリア王女。

この状況でも聡明でいらっしゃる。

一緒にクッキーを焼いて少し焦がし増したが上手に出来ましたね」

「そう…だったね。

凄い誉めてくれたのを覚えてるよ」

「そして、嬉しそうにお父様とお母様に持っていってましたね」

「ええ…二人ともとても喜んでくれたの。

あれから何度か作ってあげたのも覚えてる。

どうして急にそんなことを聞くの?」


昔話としては何ら変ではないがこんな状況で話す事ではない。


「ところでご両親が亡くなった病気についてご存じですか?」

「確か…原因不明の難病で…。

少しずつ衰弱していって亡くなったんだよね…?」


今までないほどの笑みでマリアを誉める。


「そうです、よくご存知でしたね!

さてあの病気の原因を教えてあげましょう」

「原因…?

それをどうしてマティルダが知ってるの…?」

「ふふっ、はははっ、だって私が仕組んだ事ですもの」

「マティルダが…?」

「ええ。

でも、その病気を両親に感染させたのは貴女でしょ、マリア王女」

「私が…?

何を言って…」


その時、マリアの中である答えに辿り着く。


「まさか…」

「あら、ようやく正解に辿り着いたようですね。

そうです、貴方が作って両親に食べさせたお菓子に病原体が入っていたのですよ」

「嘘…嘘よ…」

「あの時に教えた隠し味の素材がそれですよ。

貴女が病気の原因を作ったのです。

つまり、貴女が両親を殺したのと同じです」


囁くようにマリアの耳元で優しく語りかける。


「そんな…やだ…私がお母様と…お父様を…うそ…うそ…。

いや…いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!」


頭を抱えうずくまるマリア。

その様子を楽しげにマティルダは見ている。


「ああ、甘美な悲鳴ですよ、マリア様。

お気持ちはよく分かります。

とても愛し合っていた良い親子でしたからね。

それをご自分の手で殺してしまったんですから、その悲痛さといったらかなりのものでしょう」


もう既にマティルダの言葉はマリアに届いていない。


「あらあら心が壊れてしまいそうですね。

良いんですよ、全て私に委ねて楽になってしまいなさい。

これで貴女は私の操り人形になるのです」


マティルダの高笑いが静かな洞窟に響き渡った。

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