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145話 王女

明け離れたドアから可憐な少女が現れ、その顔に驚愕するタルト。


「アンちゃんっ!?」


思わず立ち上がってしまったが、見間違いなく昨日一緒にいたアンそっくりだが無表情で冷たい目をしている。


「アンとは誰ですか?

私はマリア・アングリア。

ウェスト・アングリア王国の王女です」

「え!?あの…その…ごめんなさい…そっくりな知り合いがいて…」


顔はそっくりだが冷めた声もアンとは大違いであった。

混乱しながらも自分の勘違いだと思い椅子に座り直す。


「はっはっはっ、マリア王女とそっくりとは会ってみたいものだな!」

「えと…あなたは?」

「おっと、名乗るのが遅れたな。

ワシはゴート、公爵としてマリアが戴冠して女王になるまで後見人をやっておる。

そなたが噂に聞きし聖女かな?」

「あ、はい!

私はタルトと言いまして聖女と呼ばれてます。

こちらが護衛をしてくださってるオスワルド子爵とエルフのティアナさんです」


オスワルドとティアナは座ったまま軽く挨拶を行う。


「そうかそうか。

あの大悪魔カドモスを打ち倒すとは人間としては史上初の快挙だ!

それが同じ年頃の少女だと聞いてマリア王女も非常に興味を持たれてな。

遥々ここまでお越し願った訳だ」

「他にもそなたのお陰で鬼の大軍から街を救い、その叡知にて生活を豊かにしたと聞いている。

是非、詳しい話を直接話しては貰えないだろうか?」

「はい、それは問題ありません。

えとー、では私がアルマールに着いた時くらいから説明しますね。

あれはーーー」


タルトはゆっくりと懐かしみながら街の復興や鬼の襲撃、七国連合との交渉、カドモス討伐などの概要を順番に話していく。

ゴート公爵は大きなリアクションを取り興味深く聞いているが、マリア王女は無表情のままで感情が読めない。

しかし、その目はどこかキラキラしてる気がする。


「いやー、噂で聞くよりも素晴らしい功績ではないか。

先ほど話に出た新しい農工の技術は我が国にもご教示願えるのかな?」


ウェスト・アングリア王国は七国連合とは外交を行っているが、競争相手でもあるため技術流出など通常はありえない。

タルトにとってはそんなことどうでもいいのだが。


「ええ、もちろん大丈夫です。

滞在中にも簡単な範囲で説明しますね」

「それは助かる。

では、技術者や学者を集めておくのでしっかり仕込んでくれたまえ」


ゴート公爵はとても上機嫌であった。

ウェスト・アングリア王国は大国であるが七国連合のように協力しあう訳ではなく領主に自治を任せているので場所によって差が激しいのだ。

一昔前の七国連合も国毎に敵対関係で争ってた時は同じようであったが、タルトが現れてからは良い関係が続いている。

統治が上手くいかず飢饉や治安が悪くなると一揆が起こり国としても危機を迎える事もあるので、タルトの知識は喉から手が出るくらい欲しかったのだ。


「時にタルトよ。

そなたは死人も甦らせたと聞いたが真か?」


それまでじっと聞いていたマリア王女が急に口を開いた。


「過去に一回だけあります。

でも、誰でもという訳でもなく限られた条件を満たした場合だけですが」

「そうか…では、負傷者であれば治すのは容易いのか?」

「そうですね…状態を見ないと絶対とは言えませんが、ある程度の回復ならお約束出来ます」

「ゴート卿、先日に魔物討伐で多数の負傷者が出たのであったな?

その者達を治療するところを見たいぞ」

「それは良い考えですな!

聖女よ、最近、大型の魔物討伐に赴いた部隊で負傷者が出ているのだ。

是非、それを治療して欲しいのだ。

マリア王女はその様子を見学したいと望んでおられる」

「人々を癒すのも聖女の役目ですからお任せ下さい!

重症な方もいるんでしたら、すぐにでも行きましょう」


ゴート公爵は兵士に指示を出す。

王女が行くのに厳戒の警備体制が敷かれるのだ。

少し準備が整うのに時間が掛かったが兵士から完了の報告があったため場所を移す。

城の外れにある一室は大きな病室となっており多数のベッドが並んでいた。

そこには十数名ほど寝ており、中には全身が包帯で巻かれ血が滲み出ており長くは持たなそうである。


「ここにいる我が兵達を治療してやってくれ」


マリア王女はタルトの方を見ずにお願いをする。

病室に王女が来るなど前代未聞で兵士達は困惑していた。

しかも、タルトの治療を見ようとすぐそばまで寄っている。

一介の兵が王女にそれほど接近する機会などない。

地面に降り頭を下げようと動かない身体を必死に動かそうとしている。


「そのまま楽にしておれ。

私は治療を見に来たのだ、聖女の言うことを聞くように」


王女の一言で兵達は動くのをやめタルトに視線が集中する。

そんなタルトは一番の重傷者の前で難しい顔をしていた。


(ウル、どうかな、治せそう?)

『マスター、まだ若いですし問題なく治療可能です。

完治させてマスターの実力を見せつけましょう』


ふぅっと溜め息を軽くしてから両手を患者にかざす。

次の瞬間、大きな病室はまばゆい光に包まれていく。

数秒その状態が続いたが徐々にもとの明るさに戻っていくとタルトの笑顔があった。


「これでこの方の傷は完治しました。

もう包帯を外しても大丈夫ですよ」

「はっ?もう終わっただと?

これ、その者の包帯を外してみろ」


あまりの出来事にゴート公爵も信じられず外れていく包帯を前のめりでみている。


「これは…動く、動きます!

はは…起き上がれるし走ることも出来ます!」


包帯を取ると小さな傷ひとつなくすぐに起き上がって跳び跳ねており、ついさっきまで死にかけていたとは思えない。


「これは驚いたわ!

聞きしに勝る治癒力だ。

これ聖女よ、他の者も頼むぞ」

「任せてください!

重症な人から順番に治しますからねー」


次から次へと治療を行っていく。

警備していた兵士達もタルトを疑いの目で見ていたが、仲間を助けてもらいすっかり本物の聖女だと信じきっていた。

この噂はすぐに城内へ広がっていったという。

謁見はここまでで用意された客室に案内され、夜まで寛ぐ事が出来た。

夜が更けてそろそり寝ようとベッドにタルトが入り込むと静かにドアが開き、ヒタッヒタッとタルトに近づいて来る。


「誰ですか?」


タルトがベッドの上に起き上がり謎の侵入者の方を見ると意外な人物が立っていた。

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