143話 友達
王都へ向かう馬車の中でタルトとアンは会話が弾んでいる。
「わあー、アンちゃんと同い年だー。
同い年の友達は初めてだから嬉しい!」
「えっ!?と、友達?」
「嫌だったかな…?」
「その…さっき会ったばかりだし…。
それに友達っていたことないから…」
「アンよ、諦めろ。
タルトと出会った時点で友達認定だ」
「ティアナさん、酷いですよー。
ちゃんと相手の意思も尊重してますよー」
「あ、あの…私で良ければ…」
「ほんとっ?やったー!
あ、大きな城壁みたいなものが見えてきた」
高さ数十メートルにも及びこの世界に来て、最も高く堅牢な城壁である。
これだけ見てもこの国が圧倒的に経済や技術が優れているのが分かるのだ。
大きな正門をくぐると真っ直ぐと伸びた大通りが先が見えないほど奥まで続いている。
人の往来や店の活況も他と比べ物にならないくらいほどだ。
しかも、何かお祝いがあるのか至るところに飾りつけがされている。
「すごい、すごい!
おっきな街だねー、美味しそうな出店もいっぱい!」
タルトはすっかり外の光景に夢中だ。
「ねえ、オスワルドさん。
今日一日はちょっと街で遊んで来ても良いですか?」
「分かりました。
今日はホテルに泊まりましょう。
受付を済ませたら自由時間で如何でしょう?」
「ありがとうございます!
アンちゃん、一緒に色んなお店に行こう」
「私も?」
「出来れば案内して貰えると嬉しいなー」
「えと…あまり詳しくないけど…でも、一緒に行きたいかな」
「知らないって事は新しい発見ばかりだね!
ここにあるお店を食べ尽くすつもりでいこうね!」
「そんなに食べれないよぉ」
通りかかった人にお薦めのホテルを聞いて向かうと五階建ての立派な建物が見えてきた。
入り口から壁、寝具、窓に至るまで一目で技術の高さが分かり、受付や案内まで従業員の教育が行き届いている。
荷物を置いて早速、外へ出ようとするとオスワルドに呼び止められ小声で注意を受けた。
「あの少女はただの平民ではありません。
一見は普通の服に見えますが生地が上等なものを使ってます。
更に所作や言葉遣いが貴族を思わせるものがあり、子女が一人で森を歩くなど何か問題事がありそうです。
一緒に行動されるならお気をつけください」
「へえー、こういうときにオスワルドさんが貴族なんだなーって改めて再認識しますね。
もし何かに困っているなら助けるのが人情ですよー」
「王都であまり騒ぎを起こすと…」
「そういうときはモフモフ仮面の出番ですね!」
「まあ、タルト様ならじっとは出来ないと分かってますが…」
オスワルドの心配をよそにタルトはアンと出掛けていった。
ティアナは一人で散策すると言って既にいない。
残されたオスワルドは街中では危険がないだろうと判断し、付いていくのは諦め翌日の準備を行うことにした。
「ねえアンちゃん、何かお祭りでもあるのかな?」
「えっと…まだ子供だから詳しくないけど偉い人の誕生日だったかな」
「ふぅーん、後で誰かに聞いてみようかなー。
おお、これは良い匂い!」
タルトは串で焼かれた肉の匂いに誘われてフラフラ~と近づいていった。
「おじさん、これ二本!」
「おっ、お嬢ちゃん達は可愛いからサービスであげるよ」
「ありがとー!
これは何のお祭り何ですか?」
「おや、外から来たのかい?
これは王女様の誕生祝いさ。
そして、戴冠式を終えれば正式に女王様になるのさ」
「わあああ、王女様って可愛いんですか?」
「さあなー、俺たちみたいな平民は顔を見たこともねえからなー」
「でも、小さいのに女王になるなんて可哀想ですね…」
「それがな、王様も女王様も数年前に亡くなってな。
王女様が大きくなるまで公爵様が後見人となって支えてたんだよ」
「うぅ…両親を亡くじで…偉いなぁ…」
既に涙目のタルトに店主はびっくりする。
「面白いお嬢ちゃんだねー」
「大丈夫?タルトちゃん…」
「ぐすん…もう大丈夫。
でも、優しい人達に支えられてるなら大丈夫なのかな」
「ああ、国民はみんな味方だから安心しなって」
少し話し込んでからその場を離れた。
次から次へと出店を回るうちにいつもの明るい笑顔に戻っている。
「タルトちゃん…さすがにもう食べれないよぉ」
「そうなんだ、アンちゃんは少食なんだねー」
「そうなのかな…?そんなに食べる人を初めて見たけど…」
まだ両手にいっぱい食べ物を抱えてるタルトは不思議そうな顔をしている。
魔法少女になってから魔力を消費すると沢山食べるようになったのだ。
初めて見る人は大概びっくりするのであった。
タルトにとって同年代の子供と遊んだのは久し振りである。
アルマールでは子供もいるが、聖女という肩書きが邪魔をして友達という意味ではなかった。
誰も知らない街で一人の少女として見てくれるのは嬉しく思う。
アンも人見知りなのか最初、ぎこちなかったが段々と慣れてきて笑顔が増えてきた。
それなりに食欲が満たされたので観光名所巡りも行う。
立派な彫刻が施された噴水に腰を掛けて休んでいると何かを見つけるタルト。
「あれ…ちょっと無理してるよね」
「?
もしかして、あの奴隷の男の子?」
視線の先にはハーフと思われる小さな男の子がいた。
着ている服装は平民とそこまで遜色はなく健康そうであることから虐げられてる訳ではなさそうだった。
ウェスト・アングリア王国は闇の勢力との境が遠いため、そこまで闇の眷属へ強い怨みを抱いていないのである。
だからといって困っている奴隷を助けるものもいないのだが。
「あんなに小さいのに荷物が大きすぎだよ。
何で誰も手伝ってあげないんだろう?」
「タルトちゃん、あの子は奴隷だよ。
人間とは違うんだからしょうがないよ…」
ここはアルマールとは違うのだ。
これが普通の反応でありこの世界の常識である。
「…私、行ってくる!」
少し考えた後、走り出すタルト。
どうしようか迷ってからアンも追い掛ける。
「大丈夫?
ちょっと荷物が大き過ぎなんじゃない?」
「え…だれ、おねえちゃん?」
虐げられてはないとはいえ見知らぬ人への警戒心は強い。
下手したら拐われて別の場所に売られる事もあるのだ。
「よおし、お姉ちゃんが持ってあげるね」
「にんげんさんではむりですよ。
こどもでもハーフだからちからもちなんです。
それにけがでもされたらぼくがおこられちゃう…」
「お姉ちゃんに任せなさあい!」
ひょいっと片手で大きくて重そうな荷物を持ち上げる。
「うそ…」
「さあ、一緒に行こう!」
無事にその子の目的地まで手伝ってあげると別れ際にずっとお辞儀してお礼を言われた。
「どう、アンちゃん。
見た目が少し違うだけで人間と何も変わらないんだよ。
思いやりや感謝の気持ちもあるのに、困ってるのを見て助けない私達の方が人間て言えるのかな?」
「それは…。
でも、教会の教えでは忌むべき存在って…」
「そんな誰が作ったか分からないような教えなんかより見て触った経験の方がずっと大事だよ」
「タルトちゃんは凄いね…。
私と同い年なのに色んな事が出来たり自分の意見を持っていて…。
私なんて決められた道しか歩けないの」
「うぅーん、よく分かんないけど困ってるときは相談してね。
友達なんだから助け合うもんだよ!」
「ありがとぉ…友達も初めてなの…」
「ええ!?友達いないの?
近くに子供がいなかったのかな。
でも、これからは私がいるよ。
アルマールのタルト宛に手紙を送ってね」
「うん!
でも、そろそろ帰らないと」
日が傾き夕陽が街を赤く染め上げる。
「送っていこうか?」
「ここで大丈夫。
とっても元気と勇気を貰っちゃった」
アンは大きく手を振って人混みの中へ消えていった。
タルトはちょっと寂しさを覚えつつホテルへと戻っていった。