141話 封印されしモノ
旧フランク王国領の森の中、アルマールの兵士は魔物を追いかけていた。
相手はジャイアントボアと呼ばれる巨大な猪の魔物だ。
以前はその素早さと皮膚の硬さで並の兵士では相手にならなかったが、弩弓によって十数人いれば対応可能になっていた。
この日も新しく領地になった場所の安全を確保するため魔物の討伐を行っているのだ。
手傷を負わせたジャイアントボアは必死に逃亡してるのを兵士が追いかけてるのだ。
先頭を走っていた隊長が何かを発見し停止を命令する。
「こんなところに洞窟…いや、遺跡と呼ばれるものに似ているな」
「隊長、ジャイアントボアはあの入り口から中へ逃げ込んだようです」
「ふむ…通路が一直線だと狙いやすいが驚異の突進を受ける可能性があるが…よし、慎重に進むぞ!」
兵士達は明かり用の松明を準備し遺跡のような入り口を進んでいく。
そこはどこまでも真っ直ぐで広い通路となっている。
「見ろ、奴の血が落ちているぞ。
このまま慎重に…何だ?
大きな扉のようなものが破壊されている。
奴の突進で破壊されたのか…」
壊れた扉を越え少し進んだところで何か引きずるような音が奥から聞こえてくる。
「停止だ!
弓を構えて迎撃するぞ!
先頭に盾を並べて防御体制も取るんだ!」
隊長の指示で素早く陣形を整える。
盾の壁と隙間から弩弓で狙いを定めて敵の接近を待つ。
「ピギャアアァ…」
ズルッ、ズルッと何かを引きずりながら巨大な影が現れた。
「こいつは…さっきのジャイアントボアじゃないか。
それよりもここは不味い、速やかに撤退せよ!!」
訓練された兵士の動きは速かった。
戸惑いも異論もなく指示された通りに通路を引き返し、外に出たところで入り口と距離をとり再び構える。
「隊長、一体何が?」
副隊長は隊長が何に気づいたのかが分からず、待機してる機会に尋ねた。
「ジャイアントボアに手傷を負わせたがあれほど致命傷ではなかった。
つまりあの奥には更に強い何かが潜んでいる」
緊張しながら入り口を見つめる兵士達。
やがて暗闇から血まみれのジャイアントボアが姿を現し、断末魔をあげ倒れて動かなくなった。
その異様な光景に鍛えられた兵士達も動揺を隠せない。
「隊長、どうします…?」
「待て…まだ、何か聞こえる…」
遠くから微かにズシンッズシンッと重量のある何かが歩く音が聞こえ、段々近づくにつれ地面を通して振動が伝わってくる。
「もしかしたらだが…あの扉は封印でジャイアントボアが壊した事で封印された何者かが出てくるのか…?」
やがて暗闇から現れたその姿を見た瞬間、隊長は叫んでいた。
「全員撤退だ!!
一人でも街へとたどり着きシトリー様へお伝えするのだ!!」
恐怖にかられ全力で逃げ出した兵士達であった。
アルマールでは獣人と悪魔の襲撃に備えた準備に大忙しであった。
シトリーは会議室に籠り各方面からの報告を受けながら追加の指示を行っていた。
「獣人の進行は近いワネ。
こちらの準備も間に合いそうで良かったデスワ」
「悪魔の動きが不明だがどう思う?」
シトリーの横で情報整理を手伝うノルン。
獣人の状況はそれなりにあるのだが、所在不明で個人行動の多い悪魔の情報は掴みずらかった。
「悪魔はずる賢いデスノ。
おそらく獣人の事も把握していて同時に進行して挟撃するつもりデスワ」
「こちらの戦力を分散させるのにもうってつけだしな。
ここまでは予想も出来て対策がうてたわけだが」
そこへ扉が勢いよく開かれ傷だらけの兵士が駆け込んできた。
「シトリー様…突然の訪問失礼します…」
息も絶え絶えで立ってるのもやっとの状態で近衛兵に肩を貸してもらっている。
「気にする必要もありまセンワ。
状態を見れば非常事態を伝えにきたのデショウから速やかに話しナサイ」
「は…はい、旧フランク王国領で魔物を討伐していました…。
ジャイアントボアを追い詰めたところ遺跡のような洞窟から恐ろしい魔物が…」
「遺跡?
魔物の特徴は説明出来マスノ?」
「それが大きさは家と同じくらい巨大で…首が九つあり…あれはおそらくドラゴンだと思われます…」
「ドラゴン!?
この忙しい時にどうシテ…?」
「遺跡のような洞窟には巨大な扉がありました。
それをジャイアントボアが破壊したようで…」
「天使の言い伝えにいにしえの時代に手に負えない魔物を封印したとな。
おそらくそれの類いだな」
「それでソイツは何処に向かってマスノ?」
「それが…真っ直ぐアルマール方面に向けて…。
ただ、巨大さゆえ歩くのが遅く手前の村に着くには一週間は掛かるかと…」
「それじゃ獣人の襲撃と同時期デスワ!
忌々しいワネ…すぐにジルニトラを呼んでクダサル」
ジルニトラも作戦顧問として神殿で手伝いをしており、召還に応じてすぐに会議室に姿を現した。
「シトリー殿、このジジイをお呼びですかな?」
「エエ、旧フランク王国領内にてドラゴンの目撃例がありマシタワ。
おそらく封印されていたと思われるので正体を教えてクダサル?」
シトリーは先ほど聞いた特徴を伝える。
「ふむ…それはヒュドラですな。
紛れもない竜族ではありますが、知能も低く本能のままに獲物を求めてるのですじゃ。
確か…炎と毒を吐く恐ろしい奴じゃ」
「弱点はありマスノ?」
「ワシらなら一瞬で消し炭に出来ますから細かいことは気にしたことはないのう」
「チッ、多くの情報は得られませんデシタワネ…。
とはいえ、相手は最強の種族…生半可な戦力では返り討ちデスワ。
只でさえ人材が足りないというのに本当に忌々シイ」
同時三方向からの襲撃に備え再度、作戦の練り直しが迫られて、てんてこ舞いの状態だった。
だが、時は待ってくれず刻々と襲撃の時は近づいていた。