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140話 モフモフ仮面

暴徒と化した村人を必死に説得を試みる穏健派の少数の村人。

タルトはその場から離れ人気のない場所まで移動した。

その後を心配そうに見守りながら付いていくオスワルドとティアナ。


「タルト様、大丈夫ですか?」

「ちょっと怖かった…かな…」

「生死が掛かっているのだ。

普段は優しい人間でも必死になるだろう。

バーニシアではタルトのお陰で貧困は減ったようだから見掛けないだろうが、少し前は何処でも見られた光景だ」

「このままほっとけないですよ。

何か手はないかな…」


暗い空を見上げながら考え込むタルト。


「どうしてここの村に酷いことをするんだろう…?」

「そうですね…確かにこのままでは村は誰もいなくなってしまうでしょう。

商人にとっても貴重な人材でしょうから、そこまでする理由はなさそうですね」

「オスワルドが言うことは最もだが、それ以上の価値がここにはあるのだろう。

だが、村を見て回ったが特に変わった点はなかったようだが…」

「普通に見ても分からないのかな…?

そうだとしたら…」


おもむろに地面に手をつけて魔力を流す。


(ウル、地中を探って!)

『魔力で探知しています…これは…』

(何かあった?)

『ここは金属の鉱脈になっているようです』


「そういうことだね…」

「タルト様、何か分かりましたか?」

「はい、この土地は金属の鉱脈です。

武器の材料を手にいれるため、村を無人にしようとしてるんです」

「なんと悪どい商人だ!

だが、私達には罰する権限がないのが口惜しいですね…」

「私に考えがあります!

人を助けずにいて何が聖女ですか!

私は自分の信じるままに行動します!」

「それでこそタルトだ!

ワタシもちょっとイラッと来ていたところだ」

「分かりました、聖女様の御心のままに。

それで何かお手伝いする事はありますでしょうか?」

「お二人は村の皆さんを止めるのを手伝ってください。

時間稼ぎしてる間に終わらせてきます」

「承知しました、聖女様もお気をつけて」


オスワルドとティアナは村人の元へ駆けていき説得を試みる。

タルトはリカルドの家に寄り準備を整えて夜の闇へと飛び立っていった。


リカルドの村から少し離れた街にある商人の館。

塀で囲まれ警備の者が常に監視しており、田舎としては医用な雰囲気を醸し出している。

これも恨まれる事が多く過去の幾度かの襲撃から今に至る。

その日も二階の窓から酒の入ったグラスを片手に外を眺めていた。

そろそろ休もうかと思っていると、突然、襲撃を鳴らす鐘が鳴り響く。

久々に聞くその音色はいつになっても好きになれるものではない。

何事が起きたか確かめる為、庭へと急ぐ。


「何だ、何が起こっている!?」

「どうも侵入者が現れたようです!

今、総出で探しております」

「侵入者だと?

それで何人くらいいるのだ?」

「それが…たった一人のようです」

「一人だとっ!?

そんなものすぐに見つけて片付けろ!」


慌てて出てみればたった一人の盗賊らしく、百人以上で守られたこの屋敷では大した事ではない。

半分呆れ気味で戻ろうとした時、館の屋根に人影が現れ高笑いが聞こえる。


「にゃっはっはっーーー!!

悪どい商人の家はここであっているかにゃ?

今からあなたの力の根源を頂きに参ったのにゃあ!」


月を背に立つ人物は黒のマントに猫をモチーフにした仮面を着けた小柄の少女であった。


「何だ、お前は!?

俺の力の根源だと?

何をふざけたことを言ってやがる!」

「私は…弱者を守りしケモミミを愛する怪盗モフモフ仮面!!

村人を苦しめる悪どい商人を月に代わってお仕置きにきたのにゃ」

「モフモフ仮面だと、言動も見た目もふざけた奴だ!

たった一人で何が出来る?

あんなふざけた奴、さっさと捕まえろ!」


タル…ではなくモフモフ仮面は屋根から庭へと飛び降りると商人と対峙した。

どこからともなく次から次へと武器をもった用心暴風の男が涌き出てきて取り囲まれた。


「馬鹿が一人できやがって。

お前達、そいつを捕まえて誰に頼まれたか吐かせろ!

なるべく傷つけないように捕まえろよ。

少女は高く売れるからな。

捕まえた奴は売る前に遊ばせてやろう」

「「「「おおおおおおおおおおおおお!!」」」」


掛け声を共に全方位から男達が突っ込んでくる。


「あなた達は少し寝てるのにゃー」


男達の間を縫うようにすり抜けていく。

その速度が速すぎて残像が残るほどで通り抜けた後には気絶した男達が倒れている。

一分も掛からずに商人以外の男は気絶してしまった。

ここで初めて商人は自分が相手をしているのが人外の力を持った化け物だと知ったのだ。


「何なのだ…お前は…?

一体何をしたというのだ…?」

「さあ、裁きの時間ですにゃー。

あなたの力の根源を頂くのにゃ」

「何の事を言っている?

俺の命を奪うというのか?」

「チッチッチッ。

根源とはお金のことにゃー。

村のみんなを苦しめて集めたお金は村の人のものにゃー」

「金だと!?

あれは俺が働いて稼いだ俺の金だ!」

「やり方が駄目なのにゃぁ。

反省してイチから…いやゼロからやり直すのにゃー。

さあ、金庫に案内するにゃ。

それとも痛い目にあいたいのにゃ?」

「くっ…ついてこい」


商人はしぶしぶ館の中の金庫へとモフモフ仮面を案内する。

だが、商人はまだ負けたとは思っていなかった。

やがて館の地下にある大きな金庫の前へとやって来た。

それは普通の家一軒くらいある大きな金庫であった。


「さあ、着いたぞ!

盗むといったがこの大きさだ、盗めるものなら盗んでみろ!」

「これは…どんだけ貯めたのにゃぁ」


商人は勝ち誇った顔をしていた。

この大きさの金庫は持ち上げるのは出来るわけもなく、更にここは地下なのだ。

こんな小柄の少女が持てる量など大した程ではないと踏んでいた。

モフモフ仮面は金庫の前で見上げたままだ。


「ほんとは屋敷まで壊す気はなかったんですが…」


あまりの量に呆れて語尾を忘れるモフモフ仮面。


「じゃあ、貰っていきますね!」

「えっ!?何を言って…?」


モフモフ仮面は何処から出したのかステッキを天井に向けると先端が輝きだす。

あまりの美しさに商人が見とれているとやがて光の柱となって天井へと向かっていった。

光が収まると月の光が地下室へ差し込み、上にあった屋敷がキレイサッパリなくなっていた。


「よっと、ではごきげんようなのにゃ」


モフモフ仮面は軽そうに金庫を持ち上げると空へと浮かび上がっていく。


「ああ、そうそう。

近くにあった武器工場は更地にしといたのにゃ。

これに懲りて真面目に働くにゃー」


そのままモフモフ仮面は空の暗闇へと消えていった。

商人は暫くそのまま夜空を見上げたまま地面に座ったままであった。


その頃、リカルドの村では暴徒をオスワルドが必死に説得している。


「皆さん、落ち着いてください!

私はバーニシアのオスワルドといいます。

明日、ここの領主に話し合いを行います。

これでも貴族ですから簡単には無視できません。

どうか一日だけ頂けないでしょうか?」


その真剣さと相手が他国の貴族ということもあり少しずつ落ち着きが戻り始めていた。


「もし明日、進展がなければ次はないからな」

「なんで他人のあんたがそこまで肩入れする?」


納得のいかない数人が怒りが収まらず声を荒げている。

そんな時、真っ暗な空から何かが降ってきた。

バラバラと止むことなく降り続くそれはまぎれもないお金である。


「何だ、お金が降ってるぞ!」

「一体何が起きてるんだ?」


そこに教会の上に立つ人物に村人が気付く。


「私は正義の怪盗モフモフ仮面だにゃー!

これは悪どい商人から取り返してきた皆さんの努力の結晶にゃ」

「モフモフ仮面?」

「何者か分からないがありがたい!」


戸惑いと喜びに溢れる中でオスワルドとティアナは呆れた様子で見ていた。


「あれは…」

「言うな…間違いなくタルトだ…」


教会の上で高笑いし立ち去ろうとしたが、何かを思い出したように再度振り返った。


「それと頑張っている皆さんにもうひとつプレゼントだにゃー」


空に手をかざすとたちまち星が見えなくなり雨が降ってきた。


「これで取り敢えず畑も大丈夫だにゃ。

では、さらばにゃあー!」


こうしてタルトもといモフモフ仮面は再び姿を消したのだった。

翌日、分かった事だが商人は夜のうちに領主の兵に連行されていった。

領主から使いが来て取水量を戻すことと家族が帰ってくることが告げられた。

遅くまで頑張っていたタルトは昼前くらいに起きてきた。


「おはよぅござぃますぅ…」

「おお、おはようお嬢ちゃん。

昨日はお疲れだったな」

「いやぁーそんなことは…えっ!?

いや、何の事ですか?

ずっとここで寝てたからよくしらないですよー」


明らかに動揺し目が泳いでる。

そんなタルトを見てふっと笑うリカルド。


「そうだな、そういうことなんだろう。

忘れていたが噂の聖女様は金色の髪の少女らしいな。

モフモフ仮面が誰かは知らんが代わりに見た目が似てるお嬢ちゃんにお礼を言っておこう。

ありがとうな」

「喜んで貰えてるならモフモフ仮面も嬉しいはずですよ」


無事に問題が解決したので再び旅を始めるため村を出発することにした。

馬車で村をでたところでティアナがタルトに話し掛けた。


「今回は気分がスカッとしたぞ」

「でも、盗みはちょっと気が引けたんですよね…」

「ワタシ達は法の執行官でもない。

しかも、今回は物的証拠もない状況なのだ。

そしてタルトは今までも法に縛られてるとは言えないぞ。

それにしても領主の動きが速かったな」

「帰り道によって説明とちょっと脅しを…」

「さぞや肝が冷えただろうな。

ところで今回は解決したが村の下に鉱脈があるといつの日か同じような輩が現れるんじゃないか?」

「ああ、その事ですか。

それならもう大丈夫ですよー」

「どういうことだ?」

「あの後、地中から金属を抽出して加工しておいたんです。

今頃、新品の農具で畑仕事に励んでますよ!」

「全く敵わんな」


こうしてタルト達は王都へ向けて馬車を進めるのであった。


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