133話 ドワーフ
タルト一行はゴドディンの王都に到着し、その異様な光景に魅入っていた。
何と大きな岩山全体が街となっており、外側の斜面だけでも通路と建物が迷路のようであり内側へと掘り進めた地下も含めると迷宮と呼ぶに相応しい。
実際、何人もの旅人がさ迷って宿に戻れないことが頻発しているのだ。
更に鍛冶屋が非常に多く、立ち上る煙で遠くから見ると活火山と思ってしまうだろう。
「わあああ!すごい!すごいですね!
何か別世界に来たみたいです!」
実際にタルトにとっては異世界である。
アンと別れて神の金属が加工できる鍛冶師を探すべく聞き込みを行おうとしていた。
「興味深い街の構造だな。
ゴドディンはエルフの伝承にも残っている程、歴史のある街なんだ。
年々、奥へと堀進められて全体を把握している者はいないと言われているな」
「聖女様、離れずに行動しましょう。
ここで離ればなれになると出会うのが困難だと思われます」
「確かにそうですねー。
でも、このごちゃごちゃした感じは好きですね。
あっ、ドワーフ発見!!」
店頭で剣を研いでいる小さいがガッチリした体型の男性を見かけ走り寄る。
ひげがモジャモジャで身長がタルトと同じくらいだが立派な青年なのだ。
目の前にちょこんと座り仕事ぶりを眺めるタルト。
「何だい、嬢ちゃん。
研ぎ仕事が珍しいのかい?」
「見るのは初めてなんです。
それにドワーフの方を見るのも」
「そうかい、そうかい。
じゃあ、面白いものを見せてやろう」
ドワーフは店内から野菜を一つ持ってくると研いでいた剣でスパッと斬った。
その切り口をくっ付けると元通りになったのだ。
「すごおおぉーい!!」
「ふむ、本当に凄い技術だな」
「こりゃ、エルフとは珍しいものを見たな!」
後ろから見ていたティアナが話し掛けるとドワーフが驚いている。
「エルフはあまり里を出ないからな。
それはドワーフも同じだろう?」
「ちげえねえ!
でも、本物のエルフが見れるなんて付いてるぜ。
ここには物見遊山かい?」
「いや、腕のたつ鍛冶師を探していてな」
「ほう…何か難しい依頼なのか?」
ドワーフは一瞬で職人顔に変わった。
珍しいエルフの依頼に興味を引かれたのだ。
「ふむ…オスワルド、貸してくれ。
これを加工出来る者を探しているのだ」
「これは…神の金属じゃねえか!?
こんなものを何処で?
いや、それより噂でしか聞いた事がないこれだぜ…」
じっと渡した剣を眺めているドワーフ。
その眼差しは真剣で何度も感触や叩いた音を確認している。
「実物を触ったのは初めてだが…。
これは俺がどうにか出来るシロモノじゃねえな…」
「他に出来そうな者に当てはないのか?」
「そうだな…もし、出来るとするならば…アイツしかいねえな。
最高の鍛冶職人だが、依頼を受けてくれるかは分からねえぞ」
「それでも構わない、居場所を教えて貰えるか?」
ドワーフから聞いた住所に向かうタルト達。
途中、色んな珍しい物に目を奪われながら山の外れにある一軒の家に辿り着いた。
「ごめんくださーーーい!
どなたかいらっしゃいますか?」
シーーーンと静まり返っている。
「聖女様、留守なのではないでしょうか?」
「うぅーん、ドアも叩いてみましょうか。
すいませーーん、誰かーーいますかーーー」
ドンドンと掛け声に併せてドアを叩いてみると中からゴソゴソと音が聞こえてきた。
「うるせええええぇ!!
静かにしやがれ!!!
物売りはお断りだぜ!!」
勢いよくドアが空きひげがさっきより立派で貫禄のある老ドワーフが出てきた。
「あのぉ…物売りじゃなくて鍛冶をお願いしたくて…。
あなたがラガシュさんですか?」
「ああ、ワシがラガシュだが。
何だ鍛冶の依頼か…何を作って欲しいんだ?」
「剣を打ち直して欲しいんですよー」
急に血相を変えて怒りの表情にかわる。
「もうワシは武器は造らん、帰ってくれ!
剣ならその辺の職人にお願いしたらいいだろう!!」
「駄目なんです、これを出来るのはあなただけと聞いて…」
タルトはオスワルドから剣を受け取り鞘から抜いてドワーフに見せる。
「これは…ふん…そういうことか…。
だが、答えは一緒だ。
ワシはもう武器は打たん…」
そのままドアを閉められてしまった。
「何でだろう…?」
「何か訳ありっぽいな。
何処かで聞き込みをしてみるか?」
「聞き込み…やはり酒場ですよね?」
「さも当然そうに言ってる意味は分からないが話は聞けそうだな。
オスワルドはどう思う?」
「私も聖女様と同じで噂は酒場に集まると思います」
「じゃあ、行ってみましょう!」
近くにいた住人に聞いて近くの酒場にやって来た。
「うわっ、タバコくさい!」
「ドワーフはタバコを好むと聞くからな。
確かに嗅覚がおかしくなりそうだ」
「お二人はここでお待ちください。
入り口付近は煙も少ないので。
私が聞き込みに行ってきます」
言われた通り入り口近くのカウンター席に座ると店員が近づいてきた。
「ここは嬢ちゃん達の来るような場所じゃねえぜ」
「少し人を待ってるだけだ。
それにワタシはエルフだから、ここの誰より年長者だぞ」
「へえ、エルフなんて初めて見たぜ。
何か飲むかい?
そっちの嬢ちゃんが飲めるのはミルクしかねえけど」
「ミルクでお願いします!大好きなんですよー」
「そ、そうか…ここは様々な奴が訪れる。
犯罪者も武器を求めて紛れ込んでるんだ。
嬢ちゃん達だけでいると危険だから気を付けな」
「おじさん、見掛けによらず優しいですね。
もし知ってたら教えて欲しいんですけど、ラガシュさんの事は何か知ってますか?」
「ああん?ラガシュだと。
アイツの何が知りてえんだ?」
「凄腕の鍛冶職人て聞いたので武器の打ち直しをお願いしたかったんですけど断られちゃって…」
「アイツはもう武器は造らねえよ…。
稀代の鍛冶職人なのは間違いねえな」
「その理由は知ってますか?」
「ああ…だが、勝手に話すのもなあ…」
「お願い、おじさん教えてください!」
タルトは目をウルウルさせてじっと見上げている。
年端もいかない少女が懇願する姿を見て根負けした店員。
「わあったよ!
まあ、一時は噂になった話だ、教えてやる。
だから、その目はやめろよ!」
「タルトも幼さを武器として使うとは恐ろしいな…」
「アイツも去年までは武器一筋でずっと打ち込んできていたんだ。
とにかく斬れる剣を求めて最高の鍛冶職人と言われても満足していなかったな…。
だが、去年に事件が起こった。
アイツには孫娘がいて両親が魔物に殺されてからは引き取って大切に育てていた。
近くで頭のいかれた盗賊が騒ぎを起こしたときに、その孫娘が巻き込まれたんだよ。
傷自体は命に別状がなかったんだが、ここじゃ録な治療も出来なくて悪化して今も寝込んだままらしいぜ」
「それで何で武器造りをやめることに繋がるんですか?
ただ、その子が盗賊によって怪我しただけで何の関係が?」
「それがなぁ…その盗賊が持っていた武器がアイツの作品だったんだよ…。
まさか自分が造った武器で愛してる家族が傷付いたんだ。
その時の落ち込みようといったら…」
「そんな事があったんですね…」
すっかり元気がなくなり、しょんぼりしているタルト。
そこに聞き込みを終えたオスワルドが戻り話を共有しあうことになった。