131話 旅の同行者
チンッという納刀の音と同時に影が胴体から真っ二つに分かれ、切り口から激しい炎が立ち上がり焼き尽くしていく。
「強かった…」
桜華も全力を出しきっていたので、その場で大の字に寝転がる。
「ふぎぎいぎぎぎぃ…」
重い扉がギギギッと音をたて少しずつ開きタルトが飛び出してくる。
「桜華さああああぁぁん!!」
倒れてる桜華に飛び付くタルト。
「いててててててっ!!
傷口を触るんじゃねえ!
抱きつく前に治療薬しろよ!」
「だって心配だったんだもん…。
このふよふよの桜華さんの枕を堪能したらすぐに治癒魔法を掛けますって」
「まったく…だが、まあ何だ。
助かったぜ。
うち一人じゃ勝てなかったなあ」
甘えてるタルトの頭を撫でる。
「桜華さん…。
それにしても、そんなに強い相手って何だったんですか?」
「ああ、そりゃあ、前に聞いた影って奴だよ」
「影って…死の王とかいう?」
「それだ、それ。
なんというか今回はここに罠を仕掛け待ってたようだったな」
「何者なんでしょうね…。
他の遺跡があったらまた出てくるんでしょうか」
「ああ、そうだな。
次は楽勝で勝てるくらい強くならねえとなあ。
それにしてもさっきのは何だったんだ?」
「あれは私の近くにいる眷属に一時的ですが持っている属性を付与出来るんですって。
サラマンダー君が教えてくれたんですよ」
「マジか…確かに火属性の熱い魔力が内側から溢れでてくるのを感じたなあ。
お前は何でもアリなんだな…」
「へへん、聖女ですから!
さあ、帰りましょう」
「だから、治癒魔法を掛けてくれって…」
「そうでしたっ!ごめんなさい!」
無事に治癒も終えて遺跡を出る二人。
今後も遺跡には死の王の使いが現れるかもしれず、危険と判断して入り口を塞いだ。
城に残った兵士達に労いの言葉を伝えてアルマールへの帰路についた。
神殿へと戻ると書斎からシトリーから現れタルトを出迎えた。
「お帰りなさいマセ、タルト様。
遺跡調査は如何でしたでショウカ?」
「無事に新しい精霊が力を貸してくれましたよ。
でも、また死の王の影が現れたんです」
「そうでしたカ…。
ご無事で何よりです。
それはそうとウェスト・アングリア王国から招待状が届きましタワ」
「やっと来ましたかー!
早速、準備して向かわないと」
「敵地のような場所ですから、ワタクシも同行致しマスワ」
「いや駄目ですよー。
一応、向こうには宗教の教えに背いていない事になってるんですから。
ここで街の安全を守っててくださいね」
「ま…またしても留守番…デスカ…。
承知…シマシタワ…」
とぼとぼとその場を去っていくシトリー。
背中には哀愁が漂っていた。
その夜、オスワルドを訪ねウェスト・アングリア王国訪問の内容を相談した。
翌日、神殿前にはいつものような豪華な馬車ではなく、一般的な下級貴族が使用する馬車が停止していた。
その後ろには荷物運搬用の馬車も止まっていた。
既にオスワルドがキビキビと馭者に指示をしているところへタルトがやってきた。
「おはようございます、オスワルドさん!」
「これは聖女様、おはようございます!
ご指示通りの馬車を用意しましたが、本当にこれで向かわれるのですか?」
「ええ、今回の旅では聖女というのは隠して一般市民の生活がみたいなあと思って」
「それは素晴らしいお考えです!
もう荷物は積込済みですので、いつでも出発出来ます」
そこへもう一人の同行者であるティアナが神殿から出てきた。
アルマールを知らない外の人達に警戒心を持たれない人選を行ったのだ。
悪魔や鬼、獣人はもっての他であるので、人間とエルフから選ぶと選択肢は少ない。
自然とオスワルドとティアナという形になったのだ。
「おはようございます、ティアナさん!
もう出発出来るみたいですよ」
「おはよう。
ワタシも初めて訪れる場所だから楽しみだよ」
「それではお二人ともお乗りください。
出発しましょう」
知らない人にとっては、よく見かける少し身分が上の貴族一行に見えるだろう。
「今回の行程としましては北上しディアラを抜け、そのまま北西へ向かって工業国家ゴドディンに入ります。
そして、更に西を目刺し農業国家ケントを通り抜けウェスト・アングリア王国に到着です」
「途中のゴドディンに立ち寄るんでしたっけ?」
「はい、恐れながらタルト様に頂戴した神の金属で出来た剣ですが、祭事用に出来ており実戦には不向きなのです」
「ディアラから献上された剣ですよね?
貴重ですから使えなかったんでしょうね」
「はい、私も分不相応な気がしますが…。
ただ、このままでは使い物になりませんからゴドディンのドワーフに頼んで打ち直して貰おうと思っています」
「普通の鍛冶では駄目なんですか?」
「ええ、加工には高い技術が求められると聞きます。
少なくとも人間で成功した話は聞いたことがありません。
ですから、鍛冶が得意なドワーフならもしかしたらと」
「そもそもが貴重な金属で本物を見たのはワタシも初めてだ。
エルフに伝わる物語でも成功したのはドワーフだとあるな」
「通り道ですし寄ってみましょう!
せっかくドワーフに会えるチャンスですし」
こんな調子で三人の旅路は始まった。
順調にディアラに入国しゴドディンとの国境近くにある村にて宿泊することにした。
翌朝、出発の準備をしていると老人がオスワルドに声を掛ける。
「すいません、貴殿方はゴドディンへと向かわれますかな?」
「ええ、そうですが」
「もし良ければご一緒させて頂けますかな?」
「何か事情があるのですか?」
「実はワシは細々と商いをしており、孫娘とゴドディンへ仕入れに向かうところなのです。
ですが、国境付近に盗賊が出るとの噂を聞きまして…。
護衛を雇えるほどお金もなく、貴族様と一緒なら安全かと思いまして…。
図々しいと思いますが、如何でしょうか?」
オスワルドは素早くタルトに目配せする。
タルトは満面の笑みで答える。
「そういう事でしたら一緒に行きましょう」
老人は合図をすると若い女性が馬車に乗って近づいてきた。
「孫娘のアンといいます。
では、皆様宜しくお願いします」
アンはタルトの誘いで一緒の馬車に乗り込み村を出発する。
「こんな立派な馬車に乗るのは初めてです。
タルトちゃん…いや、タルト様…なのかな?」
「アンさん、ちゃん付けで大丈夫ですよー。
この馬車はオスワルドさんのですし」
「そうなんだ、タルトちゃんはオスワルド様の許嫁とかかな?」
「いえ、そういうわけでも…。
友達…みたいなものでしょうか」
「へぇー、貴族と友達なんて凄いわね。
でも、エルフの方もいらっしゃるし不思議なメンバーね」
「ああ、ワタシはこの二人に同行し諸国を巡っているんだ。
エルフのティアナだ」
「エルフって初めて見たけど本当に容姿端麗なのね。
タルトちゃんもすっごい可愛いし私だけ場違いな感じがするわね」
「アンさんもお綺麗ですよー。
ティアナさんはこう見えてもすっごい年上なんです」
「えっ!?そうなの?
私と同じか少し年下に見えるのに…。
敬語使った方が良かったかな…?」
「気にしなくていいぞ。
エルフは長命なだけで、長生きだから偉いわけでもない」
「じゃあ、お言葉に甘えちゃおう。
ねえ、タルトちゃんの綺麗な髪を触ってもいい?」
「どうぞどうぞー」
「わっ、凄いサラサラしてる…。
それに金色に輝いて綺麗…手入れ大変でしょ?」
「うぅーん、毎日お風呂で洗わないと落ち着かないですね」
「毎日!?
お風呂ってお湯をいっぱい使うし高いでしょ?
お金持ちなのかな?」
「あっ、えと…水は魔法で…ちょちょっと…」
「タルトちゃん、魔法使えるんだ!
小さいのに凄いわね」
三人は女子トークに花が咲かせながら、ゴドディンへ馬車を進めていった。
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