表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/293

127話 グリフォン

入ったときより狭く感じる程、ピリピリとした殺気が漂っている。

桜華は構えたままじっと動かない。

痺れを切らしたのか一頭のグリフォンが背後から牙を剥く。

強靭な後ろ足で地面を蹴りあげ、翼を広げ更に加速し鋭利な爪と嘴が桜華に迫る。


チンッ


一瞬であった。

グリフォンの爪が桜華をすり抜けるように見えたが、既に横に躱しながら抜刀しつつ一刀両断した。

そして、納刀する鍔の音がまでが瞬きする間に起こったのだ。


「すごおぉーい!

桜華さん、また強くなってますね!!」

「まだまだこれからだぜ!」


その時の桜華は久しくみない生き生きした顔をしている。

生と死の狭間に身をおき、その境地をくぐり抜ける事で強靭な肉体と精神を鍛えていく。

こうして鬼族は子孫に強さを継承していくことで、より強さを増してきていた。

生来より好戦的で常に強敵を求め、戦いに明け暮れるものが多いのだ。

桜華も小さい頃から父親や兄に鍛えられ、強さに憧れ腕を磨いていた。

だが、ある時を境に成長が止まった気がして、どうしたら強くなれるか悩んでいた。

その時、自分より小さく華奢な女の子に負けてから新たな世界が開ける。

様々な種族と暮らし助け合い、教え高め合う事で今までと違う強さを手に入れたのだ。


「けっ!」


そんな自分が愉快に思えていつの間にか笑っていた。


「さあ、どんどん掛かってきなあ!

今なら負ける気がしねえぜ!」


今度は三方向からの同時攻撃。

常人なら気が付いた時には、その鋭い爪の餌食になっているだろう。


「弐の太刀、紫電(しでん)


ほぼ同時に繰り出される三連撃。

襲い掛かる三頭のグリフォンが真っ二つに切り裂かれる。


「おいおい、その程度かあ?

もっと楽しませてくれよお!」


残りの六頭が一斉に桜華めがけて炎を吐き出す。

炎同士が重なり桜華の周辺が火の海と化した。

全方向から襲い掛かる灼熱の炎を見ながら心の躍動する桜華。


「そうだぜぇ…こういう死と隣り合わせの死合が楽しいよなあ」


刀を握る力が入り、空を斬るように何度も凪ぎ払い続ける。

物凄い速さの剣圧から生まれる真空波が炎を切り裂いていく。


「すごっ!?剣で炎を斬ってる!

って!うわっ、こっちにも飛んで来たっ!!!」


紙一重で真空波を躱したタルト。

避けなければ真っ二つになっていたかもしれない。


「酷いじゃないですかぁ!

危なく死ぬところでしたよー」

「わりぃ、わりぃ。

まあ、タルトなら大丈夫だと思ったよ」


炎は既に霧散し、気付けば服の端が少し焦げていた。


「まだ風の魔法の操作が甘いなあ。

完全に斬ってたと思ったんだがなあ」


そんな感想を呟いていると傷付きながら起き上がる一頭のグリフォン。

他は全て先程の真空波で切り刻まれていた。


「へえ…よく生き残ったな。

今、楽にしてやるぜ、四の太刀、影桜一閃(かげざくらいっせん)


抜刀さえ見えない高速の抜刀術。

グリフォンは自分が死んだことにさえ気付いていない。

背中を見せた桜華に飛び掛かろうと動いた瞬間、頭部と胴体が離れその場に崩れ落ちる。


「凄い…凄いですよー!

凄く強くなってるじゃないですかー!」


はしゃぎながら桜華の胸に飛び込んでくるタルト。


「おわっ!?

急に飛びつくんじゃねえ!」


文句を言いながら優しく受け止め抱き締める桜華。

何だかんだ言いながら無邪気なタルトが好きなのだ。

昔ならそんな甘い事は考えもしないだろう。

ひたすら孤独に強さを求めた頃には。


「全くしょうがねえ奴だな。

それにしても話に聞いてたより楽勝だったな」

「そう…ですね。

確かに前回のキメラの方が手強かったと思います」

「ちっ、今回ははずれかぁ。

ちょっとは楽しめたが、まだ足りねえなあ」

「むしろ何も障害がないほうが良いと思うんですけど…」

「それじゃ付いてきた意味がねえだろ?

それで先に進むのか?」

「確か前回は最初の部屋に隠し階段が…」


そう言いながらステッキで地面をコツコツと叩きながら歩き回る。

部屋の中を一周したくらいで不思議そうな顔をして立ち止まっている。


「変だなぁ…場所によって違うのかな?」

「ねえなら先に進んでみようぜ!」


しぶしぶ次の扉を少しだけ開けて覗き込んでみる。

中は相変わらず薄暗く全部見渡せないが、それでもグリフォンの群れがはっきりと分かる。


「やっぱりさっきより多くのグリフォンがいますね」

「アイツはもう飽きたな、タルトに譲ってやるよ」

「飽きるとかそういう問題じゃないんですけど…しょうがないから一気に片付けますか、むむむむむ…氷河期(アイス・エイジ)


隙間から溜めた魔力を一気に解き放ち、部屋全体をグリフォンごと凍らせた。

全てが凍りつき時が止まったように静まり返っている。


「滑るから気を付けてくださいねー」

「やっぱりすげえな、タルトの魔法は。

部屋全体を一瞬で凍らせるなんてなあ」

「あっ!!!しまったあーーーー!!」

「どうした!?」


急いで警戒体勢をとる桜華。


「それが…地面が氷で覆われて地下があるか調べられないですよぉ…」

「紛らわしいわっ!」

「いてっ!」


鞘でタルトの頭をコツっと叩く。


「うぅ…しょうがないから少し溶かしますか…」


へこみながら炎をだして床の氷を溶かしていく。


「おい、ちょっと待て!」

「何ですかぁ…?」

「ちょっと静かにしてろ!」


耳をすます桜華に僅かだが水が滴り落ちる音が聞こえた。


「ここから聞こえるぞ」

「ほんとだ、隙間に水が消えていってますね。

よいしょっと…おっ、階段が出てきた」


隙間があった石材を持ち上げると隠し階段を発見したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ