121話 騎士の実力
少し距離をとり向かい合う二組。
教会側はパーシィとエトワルの二人。
対するはタルト、ノルン、オスワルド、リーシャである。
「そこのグラマーなお姉さんは天使だよねー?
どうして天使様がそっち側に付いてるのかな?」
「私は数百年戦い続けて来たが、タルト殿に出会った事で、この戦いを終結させる希望を見いだしたのだ」
「それは神の意思に反しても良い理由にはならないっすよ!」
「さあな…私には神の崇高な意志が理解できないだけかもな…。
ただ、何も考えず人形のように従うのではなく自分で考え行動する事の大切さをこんな小さな子に教わったのだよ」
「天使とは思えない人っすね。
まとめて相手してやるっす」
タルトも魔法少女に変身する。
「わお!
どうやったの、それ?
超可愛い格好なんだけどー」
「出来れば誰も傷付けたくないんですが…。
まずは大人しくさせてから話を聞いて貰います!」
「俺っち達を相手に殺す気じゃなくて手加減ねー。
タルトちゃんは本当に純粋なんだね…。
出来れば違う理由で会いたかったなー。
その可愛い顔を傷付けるなんて趣味じゃないしね」
「先輩、手加減なんて馬鹿にされてるんすよ!」
「エトワル、違うよ。
本当にあの娘は俺っち達を傷付けたくないんだよ。
こんな優しい娘は見たことないわー、もうちょっと成長したら本気で惚れそうだねー」
「オスワルドさん、ノルンさん。
私に任せてください、後方でリーシャちゃんをお願いします」
「聖女様…分かりました。
お気をつけください!」
「タルト殿、噂では選ばれし七人の騎士は並の天使を凌ぐと聞く。
くれぐれも油断しないことだ」
「二人ともありがとうございます!
気を付けて行ってきます」
タルトから離れるオスワルドとノルン。
その後ろに心配そうに見つめるリーシャ。
「なっ!?
僕達に対し一人で闘う気っすか?」
「それだけの実力があるってことかなー?」
「パーシィさん、僕一人で行くっす!
多勢に無勢なんて騎士の誇りに反するっす!」
「OK!気を付けたほうがいいよー。
大悪魔の一柱を落としてるからねー」
パーシィも後ろへと移動する。
「最初から本気でいくっすよ!
貴女が強いことは分かってるんすから全力で叩き潰すっす!!」
エトワルが地面に手を着くと巨大な魔方陣が浮かび上がる。
そこに手を突っ込むと巨大なハンマーが出現する。
タルトより少し大きいくらいのエトワルには不釣り合いなほど巨大なハンマーである。
10メートルはありそうで、かなりの重量のはずだが片手て振り回していた。
「さあ、覚悟するっす!!!」
先に仕掛けたのはエトワルだった。
巨大さから想像できない速度の一撃が振り下ろされ地面に衝撃が走る。
地面が弾けかなり距離の離れたオスワルド達にも地震のような揺れが伝わった。
「これはっ!?
何と凄まじい一撃だ!!
私が相手なら今の一撃で終わっていたかもしれません…」
オスワルドは本心から言葉だった。
自分の身体強化では巨大なハンマーを持ち上げる事さえ出来ないであろうと思う。
その事実だけで実力差は明らかであり、何度イメージしても勝ち筋が見出だせないでいた。
「人間とは思えぬ膂力だ。
巨大なギガンテスも一撃で倒せそうだな。
だが、タルト殿はあっさりと躱したようだがな」
ノルンの言う通りヒラリとその一撃を躱し、空中に浮いている事でその揺れの影響も受けていない。
通常であれば初擊を回避出来ても、直後に来る振動で体勢を崩し次が回避出来ないのだ。
「まだっす!!
これくらい避けるのは想定内っすよ!」
そのままグルグルと高速で連続技を繰り出す。
その速度からは想像できない威力を秘めており、一撃一撃が必殺なのだ。
タルトはその身軽さと小ささで次々と襲いかかる攻撃を躱していく。
「おのれちょこかまと!
でも、避けるので精一杯みたいっすね。
当たるまで続けるっすよ!!」
羽毛のように襲いかかるハンマーの風圧で舞うように避けてエトワルの頭にタッチしてから距離を取った。
「おおーい、エトワル。
馬鹿にされてるぞー!」
「分かってるっすよ、先輩!!
馬鹿にしたことを後悔させてやるっす!!」
エトワルはハンマーを高速で回転させ、更に威力と速度を上げていく。
タルトはじっとそれを見つめている。
ゆっくりと間合いを詰めていくエトワル。
必殺の一撃の間合いから離れるのが普通だがタルトはじっと動かない。
遂にその間合いに入り、回転させる事により最高まで高められた速度と威力の一撃が繰り出される。
それより一瞬早く足元に魔方陣が出現し、タルトの前方以外を地面から出現した壁によって退路を塞いだ。
これこそエトワルの得意な決め技であった。
逃げ場を塞ぎ最高の一撃によって多くの強敵を倒してきた必殺技である。
「これで終わりっす!!!!」
振り下ろされた一撃の衝撃波が円を描いて周囲に広がっていく。
周囲にあった店の窓ガラスにヒビが入るほどだ。
タルトが残された逃げ道から抜け出た姿を見たものはおらず、間違いなく巨大なハンマーの下にいるはずである。
辺りは静まり返り誰も動くどころか声を出すことさえ忘れて魅入っていた。