117話 目覚め
タルトは暗い部屋に座りぼんやりと窓から見える光景を見ているようだった。
全てが他人事のようで思考力が落ちており自分が何されても無関心となっている。
『マスター、しっかりしてください!!
心をしっかりと持って呪縛を跳ね返すのです!』
「…」
無言のままじっと外を見つめている。
外ではオスワルドが究極の選択を迫られていた。
「私は…聖女様を…」
「どうした、聞こえんゾ?
早くしないとワレが処女を奪ってしまうゾ!」
そんなカドモス向けて真空の刃が襲い掛かる。
だが、あっさりと魔力弾にて相殺される。
「はぁ…はぁ…タルトさまをいじめちゃだめ!」
そこには呪縛を解いたリーシャの姿があった。
「何ダトッ!?
シトリーならいざ知らず雑種ごときに呪縛を破られたというノカ!」
リーシャは戦う構えをとり爪に風魔法で強化する。
「いつもタルトさまはリーシャをたすけれてくれました。
ハーフなのにさべつしないで、そばにいてくれて…。
いっしょにわらって。
いっしょにごはんたべて。
いっしょにたびをして。
まわりのひとがつめたいめでみても、かばってくれて…。
ずっと…ずっと…リーシャのいばしょをつくってくれた…。
こんどはリーシャがタルトさまをまもる!
風の爪!」
風を纏わせ鋭利な武器へと昇華させた両腕を前面に出しカドモスへ飛び掛かる。
「ヤメロ、リーシャッ!
お前に敵う相手じゃネエ!!」
カルンの必死な叫びもリーシャの耳に届かない。
「遅い、死ぬがイイ」
襲い掛かるリーシャを魔力弾で迎撃する。
「あぅっ…」
直撃を受けたリーシャは地面に叩きつけられた。
辛うじて息をしてるようで生きているのが分かる。
「雑種は生命力だけはあるようダナ。
目障りダ、消えるがヨイ」
止めを刺そうと左手をリーシャに向けて魔力を込める。
「ヤメロー!
リーシャ逃げロ!逃げてクレ…」
誰も助けに来ない絶望の状況の中、カルンの悲痛な叫び声が響き渡る。
カドモスの手より魔力弾が放たれる時、予想外の事が起きた。
その手首をガシッと握った手はタルトであったのだ。
「聖女よ、何だこの手ハ?
邪魔だ、放すがヨイ」
呪縛によって命令を出すカドモスに対して、手を放すどころかますます力が込められる。
やがてミシミシと骨が軋む音が聞こえてくた。
「貴、貴様ッ!呪縛が解けているノカッ!?」
うつむいていたタルトはキッとカドモスを見上げ、その目には光が宿り輝いていた。
「よくもリーシャちゃんを…。
貴方は絶対に許しません!!」
その瞬間、カドモスの手首に恐ろしいほどの圧力が掛かり骨が砕ける。
「グアアアアアァァァッ!!
貴様ァッ!!!!」
「リーシャちゃんを傷付けた怨みー!!!」
タルトの右ストレートがカドモスをぶん殴り、城壁へ吹き飛ばす。
城壁が衝突した衝撃で激しく凹み瓦礫が崩れてきた。
「リーシャちゃん、大丈夫!?」
急いでリーシャに駆け寄り治癒魔法を掛ける。
「ぅう…タルト…さま?」
「リーシャちゃん!!
良かったあーーー!
リーシャちゃんの声が届いたよ、助けてくれてありがとう…」
リーシャをぎゅっと抱き締める。
その背後で瓦礫が崩れる音が聞こえた。
「貴様ァァァッ!!
絶対に許さんゾォォォォォ!!
ワレの本気をッふぐぅッ!」
「裸にした怨みぃ!!!」
瓦礫を吹き飛ばし激昂したカドモスだったが、いつの間にか足元に移動したタルトが放つアッパーがみぞおちに決まり上空へと飛んでいく。
それを追いかけるタルト。
「ぐはあ…ワレの本気を…」
「胸を揉んだ怨みぃ!!!」
「ま、待て!本気を…」
「顔を舐めた怨みぃ!!!」
「待てと言っておるダロ…」
「リーシャちゃんを傷付けた怨み!!」
「それさっきモ…」
間髪を入れずにラッシュを掛けるタルト。
最後に強烈な踵落としが決まり地面に叩きつけられるカドモス。
「貴様…聖女のくせに待てと言ってるのが分からんノカ…卑怯ダゾ…」
カドモスは起き上がるのもやっとの状態だ。
タルトは上空に待機したまま見下ろしている。
「相手が強くなるのなんて待つわけないじゃないですかっ!
変身を待つ悪役みたいに馬鹿じゃないですもん!」
「貴様…本当に聖女カ…?
今度こそワレの番だ…」
「いいえ…あなたの順番はありません。
永遠に私のターーーンッ!
ドロォーーー!魔法発動、女神の怒り!!」
タルトのステッキに眩い光が集束し、小さな恒星のようなものが現れた。
「いっっけぇーーーーー!!!!」
恒星から放たれる巨大な光の柱がカドモスに襲い掛かる。
一瞬あとに巻き起こる爆発音。
いつの間にか呪縛が解け、動けるようになったカルンがリーシャを保護する。
「カハッ…」
爆風と煙が収まった爆心地にカドモスが倒れていたが、まだ生きており起き上がろうともがいている。
そこへタルトが上空から静かに降り立つ。
「もうあなたの敗けです。
諦めて降参してください」
「何故…強力に掛けた呪縛が解けたノダ…?」
「あなたの敗因は私を本気で怒らせた事です」
「…クッ…怒りカ…。
良かロウ…ワレの敗けだ…」
「聖女様、そんなやつの言うことを信じてはいけません!」
カドモスの冷徹さを思い知らされたオスワルドが必死に訴える。
「そうだ、良い情報を教えてヤル…。
お前らの街にワレの部下である悪魔の部隊が襲撃してイル…」
「何て事を!
急いで戻らないとっ!」
焦ったタルトが後ろを振り向いた瞬間を狙い、カドモスが隠していた短剣で死角から襲い掛かった。
その気配に気付き振り替えるタルトだが、もう躱せない距離まで凶刃が迫っている。
ドスッと鈍い音が聞こえ血が舞い散った。